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迷惑な僕の女王様  作者: 楓 那夏
第1章 青春SENSATION!!!!
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第10話 CHECK&HUG

 前に踏み出す足がまるで重りがぶら下がっているのかと思うほど重かった。

 一段一段登っていく階段も、地獄へ続く道であるかのように僕の目には映っている。


 いつもは図書室で待っているはずの昼休みだったけど今日は勇気を出して詩羽先輩の元に向かってみる。すれ違うまわりの人の目線は冷たく、本当は今すぐにでも逃げたしたい気持ちでいっぱいだ。


 ようやく彼女がいるはずのその階のホールにたどり着くと、3年生の声が耳に入ってきた。


『あの子2年生だよ……どうしたんだろうね』


『もしかして誰かに告白だったりしてっ』


『うそ〜、それは勇気あり過ぎじゃない?』


 クスクスと上がる笑い声がより一層僕の顔の位置を低くさせた。


 顔を上げて歩けない……


 彼女の前ではあんなに偉そうな口を聞いておきながら結局他の3年生に対してはこんなだから笑ってしまう。


 まあそれだけ僕は最初から彼女のことを信頼してたってことになるんだろうけど……


 前に自己紹介をしてもらった時に聞いた彼女のクラスがようやく見えてきて、重かった足がいつの間にか早くなっていく。


 早く……会いたい。



「詩羽先輩っ!」


 たどり着いた教室の入口から彼女が隅っこでお昼を食べているのを見つけてとっさに声を出してしまった。


 そしてその後に気がつく、彼女がクラスで置かれている現状に……


 一気に彼女へと他の生徒の視線が集まって、名前を呼ばれて固まっていた彼女の頬が瞬時に紅潮していく。


「せん……彗悟くん……」


 胸がドックんと波打った。


 初めて詩羽先輩が僕のことを「先生」ではなく「彗悟」と呼んだ……。


「話があるんですけど……」


 ずっと準備していた言葉が自然と口から流れ出る。


 そしてまた僕は周りから聞こえる声で胸が苦しくなったんだ。


『なんだあの子……両堂に話しかけるとかマジすごくね』


『てか両堂に彗悟くんとか呼ばれてなかった?マジウケるんだけどwww』


 聞こえるのは非難中傷の声。


『惚れちゃったとか?!

 まあアイツ、顔だけはいいからね、顔だけw』


 僕の声には反応せず立ち上がった彼女がどんどん委縮していった。


 あんな大きな声で言うんじゃなかった……

 こんな顔、させたくなかったのに。


 こんな所から早く出ていかなくちゃ……。

 おかしくなる。


「行きましょう」


 逃げ出したかったのは僕なのに動き出した右手には彼女の細い手首が握られていた。


「ち、ちょっと……」


 彼女の声も聞かずに早足でその場から立ち去る。


 こんなの……ひどすぎる。


 彼女は……本当はこんな人じゃないのにっ!


 さっき廊下で僕のことをクスクスと笑っていた生徒達の脇を小走りで駆け抜ける。


 僕の想像よりも彼女がいる世界はもっともっとひどいものだった。


 でも……でも!


「っはぁっは、はぁ」


 後半、ほぼ僕のペースで走ったせいか、いつもの図書室に着いた時、彼女の息は上がっていた。


「すみません、勝手に連れ出して……」


「いいんです、別に。

 むしろあそこには居ずらかったので助かりました」


 唇をぬぐい、やっと顔を上げて久しぶりに見る彼女の顔はまだかすかに赤くて……つられて僕の顔も赤くなった。


「……クラスの人はいつもあんななんですか?」


「恥ずかしいな……。

 先生には見られたくなかったのに」


「酷すぎませんか?あれ。

 先輩が何したっていうんですか?!」


「うんう、全部ね私が招いたことなの。

 だからみんなは悪くない、私は嫌われて当然なの」


 彼女のクラスの人に今の彼女の姿をそっくりそのまま見せてあげたかった。


 冷徹女は全然冷たくなんかなかったんだって見せつけて上げたかった。


「……なんで昼休み、来なくなったんですか?」


「……」


 苦しい思いのままこの話をしたくなかった。

 自分が自分でいられなくなるような気がしたから。

 どう頑張っても彼女を責めてしまう形になってしまうと思ったから。


 それでも今伝えなきゃ、きっと彼女という原石はこのまま輝くことのないまま霞んでいってしまう。


 そんなのは絶対嫌だ。

 僕の手で救うことができるのなら……


「最初に言いましたよね?期間は一ヶ月だって。

 僕、この3日間ずっとあなたのこと待ってたんですよ……」


「……」


「たった30日。もうあの日から15日が経ったけどまだ僕ら8回しか会えてないじゃないですか……」


「だって私にはもう……」


「書けますよ。

 あなただって書けます。僕があなたに教えてるんだ、書けないわけがない」


「……何その自信」


 うるうると潤んでいた彼女の目からは涙が流れていた。


「あなたが何者であったって気にしません。

 話したくないならあなたが話したくなる時まで待ってます。

 だから……また一緒に頑張りましょ?」


「……っんく」


 彼女の口から嗚咽がこぼれる。

 終いには大声で泣きだすし……


「先生のバカー

 なんでそんなに……優しいの?

 なんで……」


「ちょ、詩羽先輩?!

 廊下に聞こえちゃいますよ?」


「私、頑張ります。

 先生に胸を張って本当のこと言えるように頑張りますっ」


「……はい、待ってますね」


 今日くらいはいいかな?


 僕はそのまま泣きじゃくる彼女のことをそっと引き寄せ抱き締めた。

 もちろん慰めるために。


「あと少し、一緒に頑張っていきましょう!」


 五時間目の始まるを告げるチャイムが鳴って、あっと思ったけど詩羽先輩は僕の腕に包まれたまま泣き止む様子もなかったからそのまま気にしないでいた。


 初めて授業サボっちゃったな……


 もうちょっとだけ、この心地よい空間に身を置いていたい。

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