第9話 BELIEVE&TRY
それから3日が経ったけど詩羽先輩が昼休みに図書室に来ることはなく、彼女が残したノートだけが僕のリュックの中で暴れていた。
このまま約束の一ヶ月が終わってしまうんだろうか……
「なあ、由宇」
「ん?」
「女って難しいな……」
「は?……彼女でもできたのか?」
「まさか……
ただ……なんとなくだよ」
彼女似合うことのないまま迎えた四日目の朝。
今日は花恋と空恋とではなく由宇と登校していた。
由宇は僕と詩羽先輩が知り合いなことを知らない。なぜだかは知らないけど由宇は詩羽先輩のことを嫌っていて、もしかすると彼女のことを打ち明けたら由宇とは距離を置かれてしまうかもしれない。
だから素直には言えなかった。
「よくわかんないけどさ……
そういう時はあれだよあれ、壁ドンして『お前のすべてを知りたいんだっ』って言うのが一番だよ」
壁ドンってwww
ここで冗談を言ってくるのも由宇らしかった。
なあ由宇。
僕には由宇のその大きな背中が羨ましいよ。
そんな大きな背中があればきっと彼女の痛みもわかってあげられるんだ。
……それに比べて僕は。
「なあ彗悟。
お前が何に悩んでるかはしらねーけど、相手のことを知りたいなら男も女も関係なく、自分が何を思ってるのか正直に伝えるべきなんじゃないのか?」
「え?」
「相手はお前が゛知りたい゛って思ってることもわかってないのかもしれないよ?」
……。
ホントにコイツってやつは……。
「鈍いんだか鋭いんだか……」
「んあ?なんか言ったか?」
「何でもねーよっ!」
いつも由宇の言葉には背中を押される。
彼女の話を聞いてあげることにした時もこいつの一言で決心できた。
いい友達を持ったな……。
今日の昼休み、彼女が図書室に来なかったら教室まで行ってみよう。
3年生の教室なんて行きたくなんかないし怖いし、花恋と空恋がまたなんか言うかもしれないけど彼女のことを知りたいと思っている僕の心に素直でいたい。嘘をつきたくなかった。
それにこのノートたちも、もうそろそろ彼女のところに帰りたいだろうしな……
顔を上げてみると、3日間すれ違うことも背中を見ることすら出来なかった詩羽先輩が前を歩いていた。
見つけた……。
本当は薄々気がついている。
彼女が一体何者で、なぜ僕に小説なんかを教えて貰っているのか。
それについて詳しく知りたい。
でも……今はいいや。
彼女のことを深く知りたいからこそ今は何も聞かない。彼女が話をしてくれるまでゆっくり待ってみることにする。
それがきっと彼女の心へと通じる道だと信じているから。




