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第42話 魔獣


「……あふ」


 大きな欠伸を噛み殺しながら、護は壁面に作った仮宿から顔を出した。

 時刻は午前六時。野宿故に警戒を残しておかねばならず、熟睡する事は出来なかったが、それでも十分に体を休められ、魔力も完全に回復している。体調は万全だ。


「よし、今日こそ本命行くか。『風は我が疾走を助く』」


 固まった体をほぐし、最大限に肉体を活性化させ、速度重視の補助魔術を掛けて護は走り出す。目指すは南、ファスターから見て南西にある採鉱地区だ。

 高位魔術師並の魔力値によって活性化された肉体と、平時にしっかりとしたイメージで掛けられた補助魔術によって、護は森狼から逃げ出した頃とは比べ物にならない速度で途中にある森を駆け抜けていく。

 肉体活性化によって高められた感覚は気配察知と空間把握の範囲を大きく広げ、高められた脳の処理速度によって凄まじい速さで流れ行く景色を捉え、確実に障害物を避けながら進むべき道を選択していく。


 森を抜け、でこぼこにくりぬかれた台地を通り過ぎ、やがて整備された道を見つけて護は速度を落とした。


(さて、この辺かな……?)


 普段は鉱山労働者によってそこかしこから岩盤を叩く音が聞こえる採鉱地区も、魔獣・・が出たことによって今は静寂で満たされている。

 周囲の気配を探りながらじっくりと歩を進めていた護の感覚が、数名の人族の存在を主に告げる。


(お、当たりか?)


 二組のペアが一際大きな坑道を見張るように離れた位置に待機している。護は一度距離をとり、念入りに自らの存在を隠匿する。


「我が身は風、我が身は大地、我が存在は大いなる自然の中に埋没する『風と大地の抱擁』」


「光と影に我が身を溶かし、(まなこ)で世界を捉える全てを欺く『うつろう幻影の衣』」


 気配が消えると言うよりも、あたかも護自身が自然の一部になったかのように気配が同調し、光と影の衣が護の体表面に周囲の風景を模倣する。

 かすかに揺らぎはあるものの、詠唱によってイメージの補強がされた魔術の完成度はかなり高めだ。護は正直まだ詠唱を唱えるのはかなり恥ずかしいのだが、シエーヌとの話の中で消費魔力の削減の話題になった時、ようやく魔術師の間で詠唱が一般的だという事を知ったのだ。

 それからは出来る限り魔術に詠唱を付けるようにしているのだが、ノリと勢いで思うまま唱えていたあの時と違い、頭が冷静になってしまうとむしろ全然思いつかず、毎回かなり頭を悩ませていた。


「よしっ。(……ちょっと通りますよーっと)」


 監視者の目の前をすり抜け、すぐに捉えた大きな生き物の気配を目指し、薄暗い坑道の奥へ奥へと進んでいく。いくつもの通路を通り過ぎるが、目的の魔獣が通るには小さすぎると思われる物ばかりだ。




 外界の光から遠く離れ、周囲の地形もぼんやりとしか見えなくなった頃。ようやく護は対象らしき大きな黒い影を認識した。

 坑道をある程度進んでからは隠身魔術を解いているはずなのだが、護に気づいた様子も無くゴリゴリと鉱石混じりの壁をかじっている。

 体高はおよそ護の倍ほどもあるだろうか。特殊な器官によって吸収された、様々な鉱物によって強化された分厚い甲羅はあらゆる物理攻撃を跳ね返し、魔術による攻撃もことごとく遮るだろう。


(ラーニャちゃんには悪いけど、討伐隊じゃ出番があるとは思えないからなあ。倒せるかどうかは分からないけど、初めての魔獣だし一度は挑戦してみたい)


 メタルタートルの討伐依頼を取り下げた護だったが、本当に諦めた訳ではなかった。メタルタートルの所在から近すぎず、離れすぎていない場所での依頼を受け、残った時間で挑もうと考えていたのだ。サイニー草の採取で一日が潰れてしまったのは誤算だったが。


(そういうわけだから、食事中悪いけど付き合ってもらうよ)


 そう胸の内でそっと呟き、メタルタートルの甲羅にそっと掌を添える。それでもメタルタートルは気付かない。大気を満たす魔力を掌に溜め、地を砕くような踏み込みと共に魔力により発生した衝撃を内部に叩きつける。


 これは魔闘技と呼ばれる、RPGで言う必殺技のようなものだ。

 武器扱い系のスキルを取得すると、特定の動作と連動した魔力の扱いのイメージが得られる。例えば瞬間的に攻撃範囲を伸ばしたり、溜めの後に強烈な破壊力を生み出したり、斬撃を飛ばしたりなど、他にも魔術との組み合わせで一時的に武器に炎熱や紫電を纏わせて攻撃する魔闘技がある。

 付与魔術でも似た状態を作り出せるが、基本的に同スキルLvであれば魔闘技の方が格段に威力が高い。周囲の魔力を集める"溜め"が必要なため、回避を重視する護は滅多に使わないが。


 どれだけのダメージを与えられたのかは分からないが、メタルタートルは金属を引っ掻くような悲鳴をあげて痛みの元凶である護の方を向き、視線で射殺さんとばかりに睨み付ける。その大きな体躯と数トンにも及ぶ重量が相まって、護はまるで自分が捕食されるだけの獲物になったかのような錯覚を覚えそうになる。


「……っと!」


 首を縮めたかと思うと、次の瞬間には咄嗟に回避した護のいた位置で空を噛んでいた。硬い岩盤をかじりとる頑強な顎だ、必要最低限急所を守る防具しかしていない護では噛まれればひとたまりもないだろう。

 とはいえ、攻撃の瞬間こそかなりの速さではあるものの、首が伸びきっている間は完全に無防備だ。護は容赦無く、容易く岩をも砕くであろう力を込めた拳をメタルタートルの頭部に叩き込む。

 重く鈍い音と共に頭が弾かれるが、頭蓋を砕くまでには至っていない。だがダメージが通っているのは確かだ。護は拳に残る感触に有効性を見出し、次の噛撃に備えていつでも回避出来る体勢をとる。


 再び伸ばされた顎を横にステップして避け、重い拳撃を叩き込む。今度は弾かれた頭を追って、首を刈り取るような上段からの蹴りが頭を地面に叩きつけた。護は更に踏み砕こうと足を振り上げるが、メタルタートルは予想外の強敵にたまらず頭や手足を甲羅の中に引っ込める。こうなってしまうと、堅牢な甲羅と意外に弾力のある収納窓周辺の体皮に阻まれて、打撃によって有効なダメージを与えるのは難しい。

 護は仕方なく首周辺を避けて甲羅に近付き、魔闘技[鎧通し]によって内臓へのダメージの蓄積による打倒に方針を切り替える。


「……?」


 甲羅に掌を添え、周囲の魔力を集めようとしていた護は、メタルタートルが自身の足元に魔力を放出した事を感知する。

 危険を感じ、咄嗟に飛び退いた護の目の前に、歪な形をした岩の柱が聳え立っていた。体を貫通する事は無いだろうが、当たればその質量によって大きくダメージを負うことは免れないだろう。大きく距離を取って魔力の感知に集中する護の背筋に、冷たい汗が流れる。

 メタルタートルは甲羅に篭ったまま出てくる様子が無い。先程は食事に気を取られて護に気付かなかったようだが、多くの魔獣は魔力の感知能力も備えている。それにより護の位置を特定し、魔術によって一方的に攻撃する腹積もりだろう。


 護は次々と足元から生える岩の柱を魔力を感知する事で避けながら、打開策を考える。


(金属に近い甲羅って事は、放電魔術が効きそうか?でもそれくらい他のパーティーだって試してるだろうし……ええい、兎に角実践あるのみ!)

「闇に瞬く黄金の雷よ、我が敵の鎧を打ち抜き、臓腑を焼き焦がせ!『守り打ち破る轟雷』」


 即座に放たれた黄金色の雷は、その光を反射する鈍色の甲羅に呆気なく吸い込まれる。


「やったか?……って駄目だこれフラグ」


 護の期待も空しく、岩の柱での攻撃が激しさを増して再開される。実の所かなり効いているのだが、魔獣との戦闘経験がある冒険者はファスター周辺にほとんどいない。元々激しく動かない魔獣ということもあり、鈍る動きでダメージの量を判断する事が出来ないのだ。


(うーん、大抵の魔術は甲羅に弾かれるだろうし、こうなったら結界刀を出すか?あれなら多分あの甲羅もなんとかなると思うし)


 早々に地味なダメージの蓄積による打倒を諦め、切り札を切ろうとする護だったが、時間切れだ。魔術による戦闘音を聞きつけ、移動の監視だけしていた冒険者達が様子を見に近付いてきている。

 ゴールド+ランクのパーティーでも攻めあぐねる魔獣を一人で倒しきるゴールドランクなど、異常だ。不審に思われたくない護は、すぐさまメタルタートルの通れない小さな通路に逃れ、空間把握によって捉えた迷路のような坑道を進み、いくつもある出口の一つから外に出る。


「はーっ、疲れた」

(……でも魔術を使ってくる敵との戦闘は初めてだったし、いい経験にはなったかな。これからは魔力感知の訓練もしっかりしといた方がいいかも)


 内心倒しきれなかった事を惜しく思いながらも、ゆっくりとした足取りで採鉱地区を後にする護だった。




 後日、討伐隊には参加せず、護は遠くから戦闘の様子を眺めていたのだが、メタルタートルは遠距離からの何人もの魔術師による総攻撃によってその身を大地に横たえていた。

 実の所護の鎧通しと、近距離からの放電魔術によって内臓にかなりのダメージを負っており、魔術師達の幾人かが放った放電魔術によって止めを刺された形となったのだが、誰もそんな事を知る由は無かった。



第41話を投稿した同日には三分の一くらい書けてたのに、隠身魔術の詠唱で躓いた……!

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