第34話 異邦人2
日を跨いでしまいましたが、なんとか書けました……!
あれから念のため同フロア内を探索してみたものの、拾った子供のパーティーメンバーらしき冒険者はいなかった。もしや一人を残して全滅したのだろうか。……それともこの子を置いて地上に帰ったのだろうか。と思うと、護はどう説明すればいいのかと気が重くなる。
適当な部屋が見つからなかったのでモンスターの湧出していた部屋の一つを奇麗に片付け、拠点作成用の結界を張って腰を下ろす。
これは物理・魔術防御に気配の希薄化、モンスターの湧出を抑える効果を持った冒険者御用達の結界だ。
――護はため息をつきながら改めて魚人族の子供を観察してみる。
年の頃は十三、四だろうか。魚人族の中には頭と下半身が魚の形をしている者もいるが、この子はそうでもない。外形は普人族とほとんど変わりなく、要所要所に群青色の鱗が生え揃っているくらいだ。肌はやや青白く、長く波打つ髪は鮮やかな緑色をしている。起きていた時は翠玉のような瞳を晒していた目蓋も今は閉じられ、穏やかな顔で眠っている。
「――う、んぅう」
気を失ってから半日近く経っただろうか。魚人族の子供は寝ぼけ眼をこすりながら、ようやく目を覚ました。
ちなみに護はほとんど眠れていない。そばにある気配にどうしても目が覚めてしまったのだ。いっそ子供に気配を遮断する影結界を掛けてやろうかとも思ったが、目が覚めた時自分の手も見えないほどの完全な闇の中というのはかなりの恐怖だろう、ということで諦めた。
『おはよう、目が覚めたかい?』
『え?あ、おはようございます。……あっ!』
挨拶を返したところでようやく意識が覚醒し、事の次第を思い出したらしい。
『あ、あの。俺の言葉が分かるんですよね!?』
(む、残念。男か……)
『うん、分かるよ』
『ああっ。神様、感謝します!』
どの神様か知らないが担当神だけはやめておいた方がいいと思う。
『……っ。お願いします、助けてください!』
腕を組んでどこぞの神に祈りを捧げた少年は、我に返って護に頭を下げる。
『ええと、……急がないならとりあえず先に事情を話してくれないかな?』
『あ、そうですね、急ぐわけじゃないです。ただ、……事情、ですか』
事情と聞いて思い悩むように少年の顔が曇る。
『あー、言いにくい事?』
『いえ!そういうわけじゃないんです。それが、俺もあまりよく分かってなくて……』
『ううん……、ひとまず分かる事から話してみてくれる?』
『……はい。俺、確かジャッカートの港にある海中遺跡型のダンジョンに、仲間と一緒に潜ってたはずなんです。それなのに、気付いたらここにいて、どれだけ探しても俺以外は誰もいなくて!っお願いします!仲間を探すのを手伝ってください!』
少年の掴み掛かるような勢いに護は引いてしまいそうになるが、なんとか抑えて一つ問いかける。
『あっ、えっと。ギルドカードは?確か[パーティー]と[フレンド]に連絡が取れる機能ついてなかったっけ』
『それが、持ってたはずの物が一つも無いんです。ギルドカードや食料どころか、身に着けてる装備も以前とは違ってて……』
『うーん、とりあえずこのフロアは大体確認したけど、君の仲間らしき冒険者は見かけなかった。……他のダンジョンに転移する罠なんて聞いた事も無いけど、もしかしたら仲間達は他のダンジョンに飛ばされてるかもしれないし、無事かもしれない。ひとまず地上に戻ってギルドに問い合わせてみたらどうかな?俺も丁度地上に戻るところだし、それならすぐに協力出来るよ』
実際このダンジョンは比較的モンスターの多く、罠の少ないダンジョン構成となっていて、あまり罠を見かける事は無い。罠の多数存在するダンジョンでは同フロア内の別の場所や別のフロアに転移する罠は確かに存在する。ただし、別のダンジョンに転移する罠はまだ一度も確認されていない。
『そ、う……です、ね。確かに、そうかもしれません。迷惑だと思いますけど、地上まで、よろしくお願いします』
そう言って少年は深々と頭を下げた。
『うん、そうと決まれば、とりあえず飯にしようか。食料も無くなってたって事は随分食べてないんだろう?君……あ、ごめん、俺はゴールドランクの冒険者で、護って言うんだ。よろしく』
『あ、すみません!俺はシルバーランクパーティ[大海の激流]のメンバーで、カサーギオって言います。改めてよろしくお願いします!』
自己紹介を終えた護は余分に持ってきていた食料を渡し、自分の分を食べ始める。……が、カサーギオは食料をじっと見つめたまま、食べ始めようとしない。
『えっと、ごめん、種族的に合わなかったりした?』
『……あっ、いえ!そんなことありません!すごくお腹が空いてたんです!いただきます!』
やたらとテンション高く支離滅裂な事を言いながら食べ始めるカサーギオに、護は不思議そうに首を傾げるが、まぁいいか。と食事を続けるのだった。
『――ここはボルアス大陸のファスターって街にある地下遺跡型ダンジョンで、君と会ったのは地下十七階。ここはそのフロアにある小部屋の一つだね』
食事を終えた二人は、今後の方針について話し合っていた。まあそれも仕方がない、護は護衛依頼を受けたことが無いし、パーティーを組んで連携をした事も無いからだ……。
『ええと、基本的に近づくモンスターはさっさとこっちからも近づいて潰すから、後ろを警戒しながら付いてきてもらうって感じでどうかな?』
実際は護一人で全方位警戒しながら即魔術で撃墜する事も可能だが、護はどこまでがランク相応でどこからが異常なのか分からず、その事を言い出せない。
その結果、とりあえずある程度の周辺索敵と近接格闘能力を見せるという事に落ち着いた。
『はい、それで構いません。……よろしくお願いします、マモルさん』
『うん、任せて。カサーギオ。それじゃあそろそろ出発しよう』
こうして準備を整えた二人は、それぞれの思いを胸に、地上に向けて歩き始めた。




