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第19話 覗き魔術師



 ダンジョンの地下十二階、いくつもある小部屋のうちの一つに、小型の影結界『安息の影球』を張って仮眠を取ろうとしていた時だ。護は複数の気配を察知した。


 その小部屋に来るとは限らないが、いつでも戦闘に移れる体勢を取る。

 少しして気配の主たちが人族の冒険者だと気付いたが、だからといって何もないとは言い切れない、結界の中で息を潜めながら警戒を続ける護。


 すると護に気付いたわけでもないだろうが、冒険者達は護のいる小部屋に入って中を確認した。


「……うん。ここなら大丈夫そうかな。皆、今夜はここで夜営するよ!」


 声の主が中に入る事で、三人の冒険者が続く。全員女で構成されたパーティーのようだ。


「シエーヌは結界お願い。クシーは一応部屋の中に罠が無いか確認して。レーナは私と夜営の準備ね」


 最初に入ってきた女性がリーダーなのだろう、次々とメンバーに指示を与える。


 さて、ここで困るのが護である。彼女達は護に気付く事無く異物を内側に入れたままやや大きめの結界を張ってしまった。これではこっそり逃げる事も出来ない。

 気付かれていないのは僥倖だろう。プラチナランク並の隠身と、魔力と時間をかけて高い隠密性を持つように作った影結界のおかげだ。……むしろ最初に気付いてもらえていれば気を遣って別の部屋に移動しただろうが。


(うう……、どうしよう)


 今更声をかけるわけにもいかず、最終的に、気付かれてないならこのまま隠れておこう。と、方針を決めた護だったが、


「ふー、汗気持ち悪ーい」


 などと言いながら、盾剣士がはだけた服の隙間から汗を拭いだす。支援術師が光球を出しているが、光量は必要最低限だ。大事な部分は見えていないが、薄暗い中、汗にてかる彼女の肌が護の目にはひどく淫靡に見えた。


 ここで改めて言っておくが、護は童○だ。職場に女性はいても歳を食った主婦ばかり、現実で若い女性の肌など間近で見れるはずもないし、そういった店に入る度胸もない。

 地球では一人暮らしで、いつでもパソコンを使ってアレな画像を見て一人で性欲を処理する事もできた。

 こちらに来てからは強くなる事に熱中していた事もあり、今まであまり性欲を感じていなかったが、ここにきて目の前でこれだ。ついつい夢中で凝視してしまっても仕方ない、と思ってあげて欲しい。


「――!? 誰だっ!」


 夢中になるうちに気配がもれてしまったのだろう、宝掘師に気付かれてしまう。


「なっ! 敵!?」「きゃっ!」「え、なに?」


 女性達は宝掘師の視線の先から距離を取って各々の武器を構える。護は我に返って気配を消しなおすが、今となっては手遅れだ。


「そこにいんのは分かってんだ! とっとと出てきやがれ!」


「いるのなら今のうちに出てきたほうが身のためよ。さもなければ……」


 護の存在を確信して叫ぶ宝掘師に対して、リーダーは半信半疑ながらも槍斧を構えて警告する。こうなれば結界から出て行くしかない。と護は覚悟を決めて呼びかける。


「ま、待ってください。今出ますから!」


 自らの結界を解除し、薄明かりの中に姿を現した護に彼女達は驚愕する。


「嘘、こんな近くにいて気付かないなんて……!?」「なっ! いつからあそこに!?」「今の結界、すごく高性能……」「……! こいつっ!」


 慌てて弁解しようとする護だったが、その前に汗を拭っていた盾剣士が騒ぎ出す。


「この変質者っ! ずっとあたし達の事覗いてたんでしょ! 変態! 覗き魔術師!!」


 ずっとではないが、覗いていたのは事実だ。女性に罵倒された事で心に大ダメージを受けた護は咄嗟に謝ることもできず、盾剣士は斬りかかろうとするが、リーダーに止められる。


「待ってレーナ。こうして出てきたわけだし、一応話を聞いてみないと」


「でもイーシャ!! こいつ……!」


「落ち着いて、あんまり騒ぐとモンスターが寄って来るかもしれないわ」


「くっ……! ……ちょっとでも妙な動きをしてみなさい! その首叩っ斬ってやるんだから!」


 護は盾剣士の剣幕に慌てて頷くことしかできない。そこにリーダーが警戒はそのままに問いかけてくる。


「それであなた、一人なの? ほかの仲間は?」


「あ、えっと……仲間はいません、俺一人だけです」


「嘘ついてんじゃないわよ! ダンジョンに一人で潜る馬鹿なんているわけないでしょ!」


 正直に答えたのだが、またも盾剣士に大ダメージを与えられる。疑いの目が深まるも、支援術師がある噂を思い出した。


「……あ、待って。そういえば一人で潜り続ける影魔術師の噂、聞いた事無かった?」


「あれは単なる噂じゃないの? ……あなたが噂の影魔術師? 答えて」


「う、噂ですか?それが俺かは分かりませんけど、ダンジョンにはずっと一人で潜ってます」


 確かに護の事は噂になっているが、ギルド内で会話する相手がラーニャしかいない護が噂を聞くには、他人の会話を拾う以外に手段がない。そう都合よく自分の噂を知っているはずが無いのだ。


「(……クシー、周囲に人の気配はする?)」


「(…………いや、今のところ何も感じない。でも、こいつにも最初気付けなかったし、油断はできないかも)」


「(そう……)あなたは何者? いつからこの部屋にいて、何をしていたの?」


「あ、お、俺はマモル、シルバーランクの冒険者です。あなた達が来る一時間くらい前からいました。ここにいたのは仮眠を取るためです」


 ゆっくりと懐からギルドカードを取り出し、プロフィールを表示させてかざす。


「……間違いはない、みたいね。出来れば私達が部屋に入った時に声をかけてくれればよかったんだけど。一人でダンジョンに潜るくらいだし、そういうわけにもいかないか」


「イーシャ! こんな怪しいヤツを放っておくの!?」


 なんとかリーダーの理解は得られたようだが、盾剣士は納得できないようでリーダーに食って掛かる。


「そうはいっても、ここから地上までずっと連れ歩くわけにもいかないし、怪しいってだけで始末するわけにもいかないわ。拘束だけして放置するのも同じことよ。……夜営地については仕方ない、別の場所を探さないといけないわね」


「……っ! 覚えてなさいっ!! 覗き魔術師!」



 盾剣士にガンをつけられるも、あれよあれよという間に彼女達は撤収して部屋を出て行ってしまった。護はなんとなく部屋に居心地の悪さを感じるが、溜め息交じりに結界を張りなおし、短い眠りに就くのだった。




もうやめて盾剣士!護のライフはゼロよ!


かっこいい厨二二つ名をつけられる前に、不名誉なあだ名をつけられる護君でした。

複数人の性格とか考えるのに中々難航しました、後会話も。

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