幕間 ダンジョンあれこれ
ちょっとダンジョン設定についての説明回となっております。
さて、ここでダンジョンについていくつか説明させてもらう。
世界各地には魔力により変質したのか、鉱石を初めとし、ただの石ころ、あるいは砂粒が、稀に魔力を集め蓄える性質を持ち、それがある場所は魔力溜りと誤解されていた。
それらは魔力を蓄えることによって更にその存在を変質させ、最終的にはそれ自体も密度の濃い魔力を生み出す[魔力核]となる。
本来のそれとは比べ物にならないが、それはこの世界で魔力を生み出し続けている惑星を小型化させたようなものだ。
発生した核を手に入れることで得られる強大な力や金銭、あるいはそれに付随する名声を求め、多くの冒険者、権力者、さらには国そのもの、魔獣に魔物、はてには獣すら魔力核に群がるのは必至である。
魔力核周辺は屍の山になるはずであった。が、そうは問屋が卸さない、ここで遊び好きの担当神のお出ましである。
「折角の争奪戦、ただの殺し合いではつまらない」
などと言い、各地の魔力核は全て地の奥深くに隠されてしまった。
次の瞬間には、洞窟を初め、地下遺跡、塔、砦、城の形を模した迷宮が姿を現した。
今よりかなり昔の話であるが、これがいわゆるダンジョンの起源である。
ダンジョン内には獣を初め、魔物、魔獣はもちろん、様々な人族、そして幻獣や聖獣すらもが魔力核を守る様に待ち構えていた。
勿論、これも担当神の仕業である。
ダンジョン内に発生した守護者達、いやモンスター達は、外見的には様々な形を取っているが、その中身、魂のあるべき部分は空っぽで、戦闘本能が詰め込まれている。
魂が無いのであれば大したことがないのでは無いか、と思うかもしれないが、彼がただのハリボテを用意するはずもない。
担当神は過去命を落とした生物達全ての魂の情報を記録していて、その情報を模して作り出されたのがモンスター達だ。ただし、実のところ魂というのは個人によっては非常に質の高い想いの塊で、いかに担当神といえど魂ごと模す事は出来ない。
そこで、担当神はいくつかの魔力核を手中に入れ、それぞれの個体に相性の良い想いで肉体を作り、魂のあるべき場所にわずかなマイナスの想いと闘争本能を詰め込み、更に肉体を無理矢理魔力で強化することで、本来の体を持つものより肉体的には強く、しかし思考能力の低いモンスター達を作り出し、各ダンジョンに配置した。
ただ、生物の肉体というのは成長の過程でプラスとマイナスの想いがその時その時の微妙なバランスで形作られていくものだ。
魂無き肉体に想念だけ詰め込んで、当然不具合が出てくるものもある。が、それも一興と考えるのが担当神。やろうと思えば完璧に調整する事も出来るだろうに。
そうして想念のバランスを欠いたモンスターが、プラスの想いとマイナスの想いの相殺、あるいは反発、変異させ、運が悪ければ消滅、もしくは弱体化。運が良ければ肉体の強化、特殊能力の発現や、特異な行動を起こすようになるなど、時折ダンジョン内で冒険者達に希少個体として観測されている。
ダンジョン発生当時には、争いの果てに手にしようとしていた魔力核が謎の迷宮に飲み込まれてしまうというわけの分からない事態に混乱し、悔しがる各勢力だったが、魔力で強化された魔物、魔獣の肉体から取れる素材、そもそもの存在が希少な幻獣、聖獣の肉体から取れる素材、魔力核の生み出す魔力そのものよりもはるかに薄いが、地上より濃い魔力がダンジョン内には満ちており、人族型のモンスターからも、その魔力に長時間さらされることで変質した様々な効果を持つ装備品を奪うことが出来た。
また、これは植物を除く全ての生物に言えることなのだが、個体毎にある最大魔力値の限界を超えると心臓付近に魔力の結晶が発生する。基本的には無害な位置に発生するが、よほど運が悪い者は命を落とすこともある。
地上ではそうそうお目にかかることは無いのだが、ダンジョンの濃い魔力によって、モンスターからはかなりの頻度で魔力結晶を手に入れる事が出来る。これは魔道具や魔道武具を作るのに使われたり、魔力操作に優れた者が直接魔力を吸収することもできる。
ただし気を付けなければいけない、結晶を持っていると言う事は、その敵は魔力が限界値まで達していて、それだけ強いという事でもある。
そして魔物や魔獣達にとっては獲物の魂の有無など関係無い。
外よりも濃い魔力の満ちたダンジョン内、そして魔力によって強化されたモンスター達の血肉は非常に魅力的であった。
ただし、冒険者と違ってギルドカードに隔離することが出来ず、マイナスの想いを直接取り込んでしまうせいか、徐々に凶暴化。個体毎の限界を超えると精神だけでなく肉体すら変質させ、人族にとって災害個体と呼ばれる存在になる。
変質した個体の多くは限界まで蓄積されたマイナスの想いによって世界を憎み、激しい破壊衝動をその身に宿している。
何度かの災害個体による被害に遭った人族の一部が、その変質の原因を突き止め国に訴えた、それにより多くの国は協力してダンジョン周辺に砦を築く。
また、一部の国はダンジョンによる利益の独占を狙い、単独でダンジョンを囲う事もあった。
国の手の届かない僻地にあるダンジョンに冒険者が集まり、街を、あるいは国すら作る事もあった。
このような変遷を経て、未だ発見されず放置されている場所もあるが、ダンジョンはおおよそ人族の管理するものになった。
ここでようやくファスターの街にあるダンジョンの話に戻る。
ファスターのダンジョンは地下遺跡型の逆円錐の形をしたダンジョンで、全地下六十階まであるが、冒険者達に確認されているのは地下四十二階までだ。
内部では獣型、魔物型、魔蟲型のモンスターが小規模の群れで徘徊している。ちなみに人族型はどこのダンジョンでも一定数配置されている。さすが担当神、意地が悪い。
そんなダンジョンの地下十三階で、護は今、全力で走っていた。
「いくらなんでも、っおおすぎだろおぉぉぉぉぉ!!」
その背を追うモノは小型犬ほどの大きさをした蟻型のモンスターが八十体以上。
意気揚々と捉えた気配に近づいていくうちにその数に気付き、気が動転しているうちに向こうからも気づかれて影に隠れる事も出来ず、慌てて逃走を選択した。
護は戦闘時、敵の多くがその体を捉えられないが、実のところこれは護のスピードが異常に速いから、というわけではない。身のこなし系のスキルと舞踏による体捌き、特に[身のこなし:暗殺術]により敵の意識の裏を突くことで、その回避力を高めているのだ。
無論補助魔術を使えばその限りではないが、最大魔力値が決して高くない今の護は、精々一般人の中でトップクラスの走力と言ったところだろうか。
「――はぁ……はぁ…………あ、結界張れば良かったのか」
散々逃げ回って疲れ果てた所で、ようやく結界魔術の事を思い出す護であった。
イベントがくるとおもったかー!まだだー!あはは!
すみませんごめんなさい石投げないでください!




