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第15話 おっさんたちとの小話

夏のおっさん祭り!



「――ふっ。ふんっ。せいぁっ!!」


 気迫を込めた声と共に、時折金属が擦れる音、鋭い鉄の穂先が空を切る音が響いていた。


「ふんぬううぅぅぅぅ!」


 はたしてそれに寸止めする気があるのかどうかすら怪しい高速の連続突きが放たれる。

 だがそれも軽快な身のこなしで避けられ、かわしきれないと判断された物は金属製のナックルグローブで受け流される。


「っらぁっ!!」


 連続突きの最後に、薄い鉄板なら容易く打ち抜くであろう、渾身の一突きが放たれたが、手応えがない。気付けば槍使いの後頭部に拳が添えられていた。


「……はぁ。まいった、降参だ」


「ふぅ。ありがとうございました」


 場所は護の泊まる宿の裏庭。槍使い――ゲートルと護は最後の試合を終えた。


「訓練を始めた時からいずれ追い抜かれるとは思っちゃいたが、たった二年で槍を掠らせる事も出来なくなるとはなあ。正直悔しいが坊主、いやマモルを、天才と認めざるを得んな」


「天才だなんて……、そんなことないですよ」


 その才能を褒められたにも関わらず、護は苦々しげに呟く。もし自身が生まれ持った才だけでここまで強くなれたのなら、護も誇らしかったかもしれない。だが、そうではない。

 アマテラスのうっかりに近いサービスで、常人では有り得ないレベルのスキルを大量に取得した結果が、今の護の強さなのだ。もちろんアマテラスにも感謝はしているが、世話になっている人にそのことを隠さざるをえない事に、護は罪悪感を覚えていた。


「おいおい、謙遜すんなよ。ったく、何でお前はそんなに自信がないんだか……。

 まあとにかく、俺じゃあこれ以上お前の訓練について行けそうにない。後は実戦で腕を磨くか、お前と実力の拮抗する武芸者でも見つけるこった。そうそういるとは思えねーがな……」


「はい……はい。……ゲートルさん、今まで本当にありがとうございました!」


「おう。まあ訓練には付き合えんが、何か困ったことでもあれば言えや。

 お前はどこか危なっかしいからな。俺に出来ることなら手を貸してやんよ」


 そう言って宿を去っていったゲートルに、護は感謝を胸に、深く頭を下げ続けていた。




「うーん……。君の強さはそろそろうちの武器に見合わないかもねえ」


「え? っと。ど、どういうことですか?」


 ところ変わって武器屋。護は何度目かのナックルグローブの買い替えに来たのだが、今まで使っていたそれを見た店員の青年にそんな事を言われていた。


「だってこれ、普通一月ももたずにここまで破損するような物じゃないよ? 一体どれだけ酷使すればこんなになるんだか……」


「うう、すみません……」


「それに君、オーガを仕留めたって聞いてるよ? むしろよくこんなのでダメージを通せたもんだと感心するよ」


 こんなのとは言うが、一応この武器屋で扱っている中では一番高価な物だ。むしろそれを使う護の技量が異常なのである。それでも酷使した武器は破損してしまうのだが。


「そう言われても……。それにここにはお世話になってるし……」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、お客の強さに見合わない武器を提供するのは武器屋の名折れだしねえ。お金が無いならしょうがないけど、君はそうでもないだろ? オーガの素材を売ったなら結構懐も潤ってるだろうし」


「んうぅ……」


「まあそういうわけだからさ、迷宮素材を扱う工房に行ってみるといいよ。よく知らないなら紹介もしてあげるし」


 迷宮素材とはダンジョン内で取れる鉱石や、モンスターを解体して得る素材のことを指す。

 ダンジョンにいるモンスターは担当神によって素体を強化され、魔力核からあふれてダンジョンを満たす濃い魔力によって、更にその肉体の質を高めている。強化された肉体からとれる素材は、地上の獣や魔物達から手に入る素材とは一線を画した性能を発揮する。


「うー……ん。分かりました、そこに行ってみようと思います。……今までお世話になりました」


「うん、それがいい。後二階の親父にも声かけてってくれる?君も親父には世話になったと思うし、親父も君には目をかけてたみたいだからね」


「う、はい。それじゃあ失礼します」



 雑事の依頼で街中にある店をそれなりに知っている護だが、本来彼は大体固定の店にしか通わず、新規開拓はその店が潰れでもしない限りしないタイプの人間だ。世話になった店を用無しとばかりに去ってしまうのにひどく気まずさを感じていた。


「すみません! 親父さん、ちょっといいですか?」


「ん? ああ、お前さんか。どうした?」


 武器屋の青年に言われた事と、それに同意して別の店に移る事を告げた。


「ふむ、まあそれなら当然だな。ダンジョンに潜る事を考えたら、うちの防具じゃあ低層でも防ぎきれんかもしれん」


「すみません、今までお世話になってきたのに……」


「謝る事はねえさ。防具は命を守る大事な物だからな、ちゃんと身の丈にあった物を選ばないといけねえ。それに客はおめえだけじゃねえんだ、気にするな。なんなら新人冒険者にうちを宣伝してくれてもいいんだぜ?」


「はは……、はい。今までありがとうございましたっ」


「ああ、これからも頑張ってな」


 店を出てからも一度振り返って礼をして、新たな出会いへの緊張と不安を胸に、護は歩き出した。




というわけで、お世話になったおっさん達との別れの話でした。

いっそこれこれこんな話がありましたの後日談だけで次に行こうかとも思ったのですが、お世話になっといてそれもあれかなーと、中々難産な小話でした。憎らしい!

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