フォトグラフ
仏間にある戸棚の引き出しが出てこなくなった。ハサミが欲しくて急いでいるというのに。隙間から覗いてみると、引き出し上部にホッチキスが引っ掛かっていた。苛々しながらも、私は別の引き出しから30センチ定規を取り出し、中で引っかかっていたホッチキスを定規で押さえ込んだ。そっと引き出しを引くと、ようやく全開した。
使いたかったハサミを取り出すが、そのまま引き出しを閉めるのは気が引けたので整理をすることにした。棚から引き出しを外してしまい、中身を床にぶちまけた。畳に広がった文房具や便箋などに手を伸ばした時、一枚の写真が視界に入った。
写真には、私自身が写っていた。それも今の自分の姿。しかしその写真はセピア色で、古いもののようだった。背景も木製の電柱が写っていたりと、とても現代とは思えない風景なのだ。
「でもこの顔…、私だよね…」
髪形までもが同じで、どうにも奇妙である。床に散らばった文房具をそのままにして、セピア色の写真を手に母の居るリビングに向かった。母は写真を見て懐かしそうに笑い、そして写真と私を見比べた。
「あんた、昔の私にそっくりなんだね。これほどまでに似てるとは」
母は大きな声で笑いながら、写真を片手に祖母のいる和室へと向かった。私も後を追って和室へと入る。そして、久しぶりに祖母の笑い声を聞いた。
「血が繋がってるんだねぇ。親子なんだねぇ」
嬉しそうにそう言う祖母を見て、つい先ほどまで苛々していたことなど忘れてしまった。たった一枚の写真で、笑うことの少なくなった祖母が、大きな声で笑い出したのだ。
自分でも見間違うほどそっくりな、母親の若かりし頃の写真。血は争えないとでも言おうか。間違いなく母の子であることに、何故か嬉しさを覚えた。
明日は学校にこの写真を持っていって、友人達に見せよう。




