表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

エピローグ-母の幻影-

 母が僕を人工的につくったということもあり、必然的に母と父と、兄と僕の遺伝子情報がコンピューター上に残っていた。

 ほんの少しの作業をするだけで、親子鑑定ができそうだ。


 兄と自分が同じDNAではないかという不安を抱えながら、残っていた兄のデータと僕のデータを調べてみる。


 すべて同一なら、僕は兄のクローンということになる。





 結果、僕と兄は同一ではなかった。血の繫がりは認められるものの、僕と兄とは他人であった。

 僕は安堵した。

 いくら母がクローンの研究しているからといって、さすがに兄そのものをつくりだすことはなかったようだ。


 そうなると僕はだれの子供なんだろう。

 生前に父から遺伝子を提供してもらったことでもあって、それを使って人工授精でもしたのだろうか。


 ちょっとした好奇心もあり、親子鑑定をしてみた。

 母と父と僕とで親子鑑定。なんだか少し恥ずかしいような気もするが、僕はそれを実行する。

 仮に父の子でなかったとしても、その時はその時である。





 エラー

 同じ遺伝子情報は使えません。


「……え?」

 何度やっても、同じエラーがでる。


 同じ遺伝子情報は使えません。


 画面には、そう現れる。



「父と同一……どういうことだよ!」

 画面には、父と僕が同一であることが示されていた。



 父のデータが間違っているのかもしれない。

 僕のデータが間違っていたのかもしれない。



 僕は母とのみ親子鑑定をした。

 赤の他人だと、結果が出た。


 僕のデータが、父のものと間違って上書きされているのかもしれない。誰か別の人と差し替わっているのかもしれない。一般家庭にある個人的な研究室でのことだ。色々、不備があってもおかしくはない。


 しかし、不安はぬぐえない。

 僕は母の遺髪を持って正式な機関に親子鑑定を依頼した。


 母と親子ならば、僕にはそれだけで十分だった。




 しかし、その期待は裏切られた。




 僕は、母の血をまったく継いでいなかった。


 茫然とする僕に、結果を知らせてくれた人はいろいろ慰めの言葉をかけてくれた。血のつながりがないことが分かって、このような状態になる人は多いのだろう。でも、僕がどうしてこんなにも茫然としているのかまでは、絶対にわかるはずはない。

 僕は母の子ではない、この事実が示すのは……




 父と同一であると示す、母の残したデータ。

 母と血がつながっていないと示す、今僕の手にある紙切れ。




 なぜ、父との人工授精にしなかったのか。

 なぜ、兄のクローンにしなかったのか。

 なぜ、父のクローンなのか。

 なぜ、(リダ)の名前をつけたのか。


 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。

 僕の疑問に答えられる者はない。



 母は僕に、だれの幻影を重ねていたのだろう。

 兄だろうか、父だろうか。


 僕はリダ。兄と同じ名前を持ち、父と同じ者。


 僕は父の代わりなのか。

 僕は兄の代わりなのか。



 僕は、だれなのだろうか。



 自分の存在が見いだせない。



 真実を知って、僕はますますわからなくなった。




 僕は、僕は、ぼくは――

★この小説の生まれる元になった雑学★

 サルバドール・ダリ(溶けたようにゆがんだ時計の絵を描いた人)

 彼は、幼くして死亡した兄と同じ名前を持っていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ