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婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


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第20話|家族にも溺愛されてます

 ── コンコン


 父の執務室の扉を叩くも、返事はない。

 ……怒ってる、のかしら。


 出直した方がいいかも、そう思ったとき──


「……入りなさい」


 部屋に入ると、こちらに背を向けて窓際に立っていた。

 私はなんと声を掛けていいのか分からず、父の近くへと向かう。


「お父様……」


 父は何も言わず、少し震えているようだった。

 ……確かに、正式に婚約をしたいと伝える前に、関係がバレてしまった形だもの。

 父にしてみれば、あまり好ましくないといったところだろう。


「黙っていてごめんなさい……あの、私……」


 ……ずっ、ぐしゅ……っ


「お、お父様……?」


 さらに近付き様子を伺うと、泣いていた。

 ええぇ……?


「お父様、あの……大丈夫、ですか……?」


 ハンカチを差し出すと、素直にそれを受け取り涙を拭き始める。

 そして真面目な顔で、私に問い掛けた。


「……ロヴァルド殿下を好きになったのか?」

「はい……」


 真正面から聞かれると思わなくて、思わず赤面してしまう。


「ロゼリアが好きになる人間だ。きっとキリギルス殿下よりも、よっほど良い男なのだろう」

「お父様、それはいくら何でも不敬すぎます……」

「いつからだ」

「え?」

「いつからあの様な関係に、なっ……ぐす……」


 泣きながら聞くことかしら……?

 ハンカチ渡しておいて良かったわ……。


「……あの夜会の後、です……」

「そうか……あの夜会は酷かったらしいな。ロゼリアのシュークリームを盗作しようなど……!」

「え、ええ……でもその事はもう……」

「あの件はこちらでも調べているからな、安心しなさい」


 ど、どうしよう、父と意思疎通が出来てない……?


「ところで……ロヴァルド殿下には何回料理を作ったのだ」

「え? ええと、そうですね……って、待ってください、お父様」

「なんだ」


 どういう意図の質問なのかしら……?

 父は変わらず真面目な顔をしている。……泣いているけれど。

 困惑する私を尻目に、父は言葉を続ける。


「私にはまだ作ってくれた回数は十にも満たない」

「はい……えっと……?」


 ようするに……娘を盗られた、と拗ねているのね……。


「お父様! ロゼリアはこれからも、何度でも! お父様のために腕を振るいますわ!」


 ちょっと大袈裟だけど、今の父にはこれくらい言っておかないと……。


「でも嫁いじゃうじゃないか……」

「……うっ!」

「私だって……ロゼリアの料理を……うう……っ」

「で、でも……」


 ど、どうしよう……火に油を注いでしまったかしら……。


「それに……婚約を正式に結ぶ前に、あんな……ぐすっ。ゆ、許せん……ぐしゅ……っ」

「お父様……!」

「──あなた?」


 いつの間にか空いた扉の方から声がした。

 そちらを見ると、お母様と、その後ろにはアメリーの姿が。

 アメリー、ありがとう……!


「お母様!」

「ロゼリア、おめでとう……良い人と巡り会えたのね」

「はい……」


 照れながらも頷く私に、母は微笑み優しく抱き締めてきた。


「王太子殿下の妻になるからには、これからより一層、頑張るのですよ」

「はい、お母様……」

「でも頑張り過ぎないこと。それだけは約束してちょうだいね」

「はい……!」


 厳しい母だけど、いつも優しかった。

 ……でも。

 今はその優しさが怖い。


 父を見ると、既に泣き止んでいて直立不動になっている。

 母は、父方へ歩いていく。


「あなた?」

「なんだろうか、ローズ」

「娘の恋愛結婚ですもの……おめでたいことよね?」

「勿論だとも! おめでとう、ロゼリア!」

「あ、ありがとうございます……?」


 え、えええ……?

 あんなに泣いて駄々をこねた父が一瞬で……。


「ロゼリア、今日は貴女の作ったカボチャのポタージュが食べたいわ。ね、あなた?」

「ああ! あれは初めてロゼリアが、私に作ってくれたものだからな!」

「ええ、とびきり美味しいポタージュを作りますね!」


 お父様のために作ったわけではないけれど……ここは黙っておきましょう。

 母はこちらをちらりと見て、ウインクをしてきた。

 ……さすがお母様だわ。


 愛妻家ゆえの恐妻家。

 お父様は私のことを溺愛しているけれど、やっぱりお母様には敵わないみたいね。


 ……いつか私も、お母様のように強くなれるかしら?




「……アメリー、さっきはお母様を連れてきてくれてありがとう」


 約束のポタージュを作るため、キッチンで準備をしながら話を切り出す。


「ロゼリア様が執務室に向かわれたと聞いて、廊下で待機していたのですが……旦那様の泣き声が聞こえてきてしまい……」

「本当に助かったわ。あのままだと収集がつかなかったもの……」


 アメリーもお父様の性格は十分に把握している。

 だからこそお母様を連れてきてくれたときは天使かと思ったわ……。


「それよりも!」

「な、なに? いきなりどうしたのよ?」

「私もロゼリア様から、なにも聞いていないのですが!」

「あっ」


 アメリーは手は止めず、にっこりと笑う。


「ええと、その……ロヴァルド様と……」

「無事、両想いになれたんですね?」

「りょうお……っ! 」


 自分には縁のない言葉だと思っていたけれど……。


「……ええ!」


 アメリーは満足そうに笑い、少し泣いてしまう。


「……これからもお傍に居させてくださいね、ロゼリア様」

「──ありがとう……」



 私の大切な人たちが、私を大事にしてくれている。

 そう思える私は、幸せ者ね。


 これからも頑張らなくちゃ!

読んでいただき、ありがとうございます!

現在コンテストにエントリー中です。

更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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