第19話|もう分かってるんですよ?
いつも通りではあるのだけれど、ロヴァルド様はどこか変わった気がする。
二人でいるときの表情や声、空気が……。
その、なんというか……少しだけ、甘くなっているというか……。
未だに、照れてる様子もあるのに……。
私がちらりと見ると、すぐに気がつき、優しく微笑んでくれる。
私ももう少し……甘えてみたい。
おずおずと彼の腕に手を回し、その肩に頭を「ぽすっ」と乗せる。
は、恥ずかしいい……!
今すぐ顔を覆いたい!
ロヴァルド様の表情も見たい気もするけれど、それも出来ないし……。
心臓がドキドキしてどうにかなってしまいそうなところへ、ふわりと頭を撫でられる。
──あ
その時に気付いた。
きっと、無理なんてしなくていいんだわ。
少しずつ……私のペースで変わっていけばいい。
そう思わせる、優しい手。
その手が頬に触れ、彼の方へと顔を向けられる。
ロヴァルド様が優しく微笑む。私も微笑み返し、そっと目を瞑り──
その瞬間、扉がバタンと音を立てて開く。
「ロゼリア、殿下は帰られたのか?」
沈黙が破れ、また沈黙が訪れる。
おっおっおっ……お父様!?
さすがのロヴァルド様も固まっている。
どどどどうしたら……!
「……これはこれは、ロヴァルド王太子殿下……こちらで何をしておいでで?」
父の怒りを帯びた声が、ロヴァルド様へと向けられる。
混乱中の私へ優しく笑い、頭をひと撫でしてから立ち上がる。
そして父の方へと向き直り、そのまま一礼する。
「これはこれはエルフォルド公爵、お久しぶりです」
この声には敵対心も怒りもない。
けれど、先程までの甘さも優しさもない。
……こっ、これは……。
見えるわ……二人の後ろに虎と龍が威嚇し合ってるのを……っ!
わ、私はどうすれば……!?
「王太子殿下ともあろうお方に、このような場所は似合いませんでしょう。どうぞ、応接室へご案内いたします」
「申し出はありがたいが……私が納得していれば、場所など関係ないでしょう」
あああっ、バチバチしてる……っ!
お父様も王族に対して、なんて物言いを……!?
「ロゼリア」
「……は、はい!」
父に呼ばれ、思わず立ち上がる。
怒っているわけではなさそうだけれど……厳しい父の目。
「お前もここで何をしているんだ」
「え!? えっと、あの、それは……っ」
「彼女には食事を振舞ってもらっていただけです」
「ロヴァルド殿下、私は娘に聞いておるのです」
父は私から視線を逸らさず、言い放つ。
お父様!?
王太子殿下に対して、なんてことを……!
不敬どころでは済まなくなってしまうわ……!
「……ほう」
ロヴァルド様の眉がぴくりと動く。
一触即発の空気。
どうしようどうしようどうしよう!?
どちらを立ててもきっと良くない……でも!どちらにも悪感情なんて持って欲しくない。
「おっ、お父様っ!!」
自分でも驚くほど、大きな声が出た
そして、ゆっくりとロヴァルド様の横へ行き……彼の腕に手を回す。
「──こういう、こと、ですわ……」
二人の反応が怖くて目が開けられない……。
添えた手がカタカタと震えているのが分かる。
すると私の手に、大きくて温かい手がそっと重なる。
大丈夫── そう言われたような気がした。
「遅くなってしまいましたが──」
彼の声で、私はようやく目を開ける。
ロヴァルド様を見ると、真剣な眼差しで父を見据えていた。
「彼女と……正式に婚約を結びたいと思っています」
「ロヴァルド様……」
父の瞳は鋭く、まっすぐにロヴァルド殿下を見据えていた。
そして一呼吸置いて──
「……ロヴァルド王太子殿下、
──娘を、よろしくお願いいたします」
深々を頭を下げる父。
そして私の方へ顔を向けると、いつもの優しい父の顔。
「ロゼリア……幸せになりなさい」
静かに言い残すと、そのまま室内へ戻っていった。
父が去ったあと。
緊張が解けたせいか、その場にへたりこんでしまった。
「……大丈夫か?」
「は、はい、お見苦しいところを……」
ロヴァルド様の腕に支えられながら、なんとか立ち上がる。
お父様……。
「あの、ロヴァルド様……」
「分かっている。私もこの後に所用があるからな。気にせず行ってくるといい」
父のことが心配な私の気持ちを、察してくれた。
それだけといえば、それだけ。
だけれど……。
感謝と愛しさが溢れて出て……気がついたら彼を抱き締めてしまっていた。
「ありがとうございます……っ!」
「……! ほ、ほら、早く行け」
そう言いつつも、頭を優しく撫でる彼。
咳払いしてそんな言い方しても……私にはもう分かってるんですよ?
名残り惜しいけれど、ロヴァルド様から離れ深々と一礼する。
「あの……ロヴァルド様」
「? なんだ──」
「大好きですっ……!」
そう伝えると、私は返事も聞かずに父の元へ向かった。
「──敵わんな」
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