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婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


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第14話|……ふぇっ!?

 会場へ戻ると、キリギルス殿下が何かを話している。


「このシュークリームというものは、このリリア嬢が考案した菓子で──」


 誇らしげに語るキリギルス殿下。

 その隣で、シュークリームを手ににこやかに微笑む彼女。


 ── え?

 どういう……こと?

 まさか彼女も──


「お待ちいただこう」


 隣にいるロヴァルド殿下が声を上げる。


「私はロヴァルド・アーシュヴァルツ。此度のシュークリームについて、少々申し上げたいことがある」

「ロヴァルド王子……?」


 突然の割り込みに、キリギルス殿下が驚いたようにその名を口にする。


「我が国の銘菓となるシュークリームのレシピを、そちらの王室料理人にお渡ししたはずだが……」


 そう言って、殿下はちらりと彼女を見る。


「どういうことだろうか」


 え? え? どういうこと?

 彼女が考案して、レシピをエルディオール王家に渡して? でもアーシュヴァルツ王国の銘菓で? 銘菓? いつの間に?

 ああもう、整理が追いつかないわ!


「どういう、と言われても……私はリリアが作ったと、本人から聞いている」


 庇うように、キリギルス殿下が彼女の前に立つ。


「レシピには私の署名や押印もしてある。もちろん王室料理人のサインもあるが── それでも知らないと?」


 ロヴァルド殿下がそう言うと、キリギルス殿下は動揺し、彼女の表情が微かに揺れた。


「ど、どういうことだ、リリア……」

「恐れながら……このシュークリームは私が考案したものに間違いありません!」

「……ほう」

「私が作り、料理人に伝えたものですのに……どうしてそのようなことを仰るのですか?」


 会場がざわめく。


「……では、貴女が作れると言うのだな?」

「それは……もちろんですわ……」

「ならレシピの確認も不要という訳だな?」

「いえ、それは……やはり詳細を見ないと……」

「出来ない、ということか?」

「…………っ!」


 さらに会場がざわめき、視線が彼女へと集まった。


「ということだ、キリギルス王子」

「いや、しかし! 私のところにはそんな報告など……!」

「そちらの彼女が口止めしたか、それとも料理人の不敬か……」

「……!」


 キリギルス殿下は言葉を失った。

 私はただ、隣に立つロヴァルド殿下を見つめる。

 こんなにも鋭く、冷酷な表情の殿下を見るのは初めてだった。



「……証拠」


 彼女が、ぼそりと呟く。


「ロヴァルド殿下が持ち込んだレシピと、証明することは出来るのですか!?」


 会場にどよめきが走る。


 彼女は何を言っているの……!?

 ロヴァルド殿下の署名も押印もしてあるって……いえ、それよりも!

 王族に証拠を求めるなんて……この場で切って捨てられても、文句言えないわよ!?


「リリア……!」

「……だって! どうして、キリギルス様は庇ってくださらないのですか!?」


 キリギルス殿下も、さすがに慌てふためく。

 彼女はそんなこと、気にも留めていないようだけれど。


 そんな二人を尻目に、ロヴァルド殿下が私を抱き寄せ、静かに口を開いた。


「シュークリームは、私の婚約者ロゼリア・エルフォルドが考案したものだ」


 会場の視線が一斉に私へ向く。


「……ふぇっ!?」


 まって、なにがおきたの?

 わ、わからない……!


「ろ、ロヴァルド殿下……!?」

「なんだ?」


 私は慌てて殿下を見上げる。


「婚約者って……そんな……まだ……!」


 好きなことをして生きていきたい。

 それだけの為に、返事を保留していた。

 なのに、いつの間にか婚約を受け入れたいと思っていた。

 だけど、そんな勝手な振る舞いなど許されるわけがないと──


「……まだ、嫌だろうか?」


 耳元で囁くように聞かれる。


 嫌なわけない。

 顔が熱くてたまらない。

 こんな顔を見られたくなくて、下を向いてぷるぷると首を振る。


「……ありがとう」


 そう言ったロヴァルド殿下の声は、いつも通り低く、けれどどこか甘さを帯びていた。


 緊張と恥ずかしさで死んでしまいそう……。



 ロヴァルド殿下が、少し間を置いて静かに口を開く。


「ロゼリア嬢は私の妃となる。そして彼女の考案したシュークリームは、我が国の銘菓となるだろう。そのお披露目として、この場を借りる手筈だったのだが──」


 ロヴァルド殿下は私に視線を移し、言葉続ける。


「……ああ。もちろん、ロゼリア嬢は何も見ずとも作れるでしょう?」

「は、はい……」


 コクコクと頷くことしか出来ない私。


 レシピを書き起こしたのは私だし、もちろん作れますけど!

 ……そんなに煽るなんて、ロヴァルド殿下らしくないわ。



「……ロゼリア様が?」

「では、リリア様の話は……」


 ふと我に返ると、会場のざわめきが広がっていた。


 こちらを見ていたキリギルス殿下が、振り返り彼女に詰め寄る。


「……リリア。どういうことだ」

「そ、それは……」

「お前が考案したと言ったではないか……!」


 突然、彼女が私をキッと睨みつけてきた。

 逆恨みもいいところだけれど……。


 その視線に気づいたロヴァルド殿下は、彼女を睨み返し、冷たく言い放った。


「まだ何か言いたいことが?」


 しん……と、会場が静まり返り、視線が彼女に集中する。


「も、もういいです!」


 そう告げて、会場から出ていく彼女。

 ……そんな一言で済ませていい話ではないと思うのだけれど。


 甘いのかもしれないけれど……これ以上、彼女を追い詰めたりはしたくない。


 ……もしかしたら、同じ転生者かもしれないもの。


 後のことは、キリギルス殿下にお任せするのが一番よね。


 そう思った、その時だった。


「ロゼリア」


 隣から、低く甘い声が落ちてくる。

 顔を上げると、ロヴァルド殿下がこちらを見ていた。


「疲れただろう。そろそろ帰ろうか」


 私の名前を呼ぶ声、言葉に、体温が上昇するのを感じる。

 そっと差し出された手を、私はにっこり微笑んで取る。


 会場のざわめきが遠く感じられ、まるで世界が二人だけになったかのよう。

 耳元に残る声、掌に伝わる温もりも、鮮明に感じる。


 ……どうしよう。

 まだ、ドキドキが止まらないわ──

読んでいただき、ありがとうございます!

現在コンテストにエントリー中です。

更新も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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