第10話|上手に焼けましたわー!
ベーコンエピは綺麗に焼きあがっていた。今すぐかぶりつきたいのを我慢して、籠に盛り付ける。
昼食といえど、パンだけじゃ寂しいわよね。
……そうだ。
「ロヴァルド殿下、もう少しお待ちいただけますか?」
「? ああ……」
パンは出来てるのに、といった表情だろうか。
あまりお待たせするわけにもいかないから、手早くやらないと。
昨日仕込んでおいたスープを、小鍋に移して温め直す。
その間にサラダ。
レタスにキュウリ、トマトという、ごく簡単なサラダだけれど、お昼だしいいわよね。
野菜を盛り付け、オリーブオイルに塩と黒胡椒をパラパラかけて完成。
温まったスープをお皿によそってパセリをぱらり。
「お待たせして申し訳ありません」
そう言って、窓際の小さなテーブルに並べる。
テーブルの狭さと華美な食器のおかげで、少し豪華にみえる。……気がするわ。
「私の手作りなので……その、お口に合えば良いのですが」
「……いや、いただく」
ロヴァルド殿下はそう言って、籠の中のベーコンエピを手に取った。
少しだけ観察するように眺めてから、先端を折る。
ぱりっと小気味のいい音。
……ああ、その音だけでもう美味しいのよ!
殿下はそのまま一口。
もぐ、と静かに噛む。
私は不安から思わず殿下の顔をじっと見つめてしまう。
だって他人に、目の前で振る舞うなんて初めてだもの。
焼き加減は?
塩気は?
硬すぎない?
そのままサラダ、スープにも手を伸ばすロヴァルド殿下。
無言のまま、ゆっくりと食べ進めている。
……お口に合わなかったかしら。
それならそれで、何か言ってくれればいいのに。
「では私も失礼して……いただきます」
焼き立てのベーコンエピに手を伸ばし、ぱくりと一口。
んー、美味しい!
塩加減も焼きも歯触りも完璧!
我ながら上出来ね!
次はどんなものを作ろうかしら!?
そんなことを目まぐるしく考えているうちに、
自然と表情が緩んでしまう。
ふと気が付くと、今度はロヴァルド殿下が私をじっと見ていた。
は、はしたなかったかしら……。
パンを飲み込み、笑顔を維持したまま話し掛ける。
「あ、あの、無理なさらないで下さいね」
「無理とは?」
「いえ、あの……残していただいても構いませんので……」
「……何故だろうか」
……貴方が何も言わないからに決まっているでしょう?
とはさすがに言えないけれど。
美味しいと思えないなら、食べなくていいのよ。
「……いや」
いや?
「……表情が良く変わるものだなと」
「え……?」
「女性に言うことではなかったな、すまない」
「い、いえ! そんな謝られるようなことでは……」
バツが悪かったのか、再び無言で食事を続けるロヴァルド殿下。
私の表情が変わるから、見ていた?
……どういうことなの?
それにずっと無表情のままの殿下の方が、凄いと思うのだけれど。
しばらく無言が続く。
けれど息苦しさは感じなくて。
……私が食事に集中し過ぎてるせい?
ロヴァルド殿下が2つ目のパンに手を伸ばす。
気に入っていただけてるのかしら!?
そうよね、こんな美味しいんだもの!
心の中で一人得意顔をしていると、パンを食べずにジッと見つめる殿下に気付く。
「あの……どうかされましたか?」
「……このパンなのだが」
「何でしょうか……? もしかしてお口に合わなかったですか?」
「いや、そうではない。これは名のある料理人が作ったものだろうか」
「え?」
な、なにを言っているの、この人。
私が目の前で焼いていたじゃない!
「私が一から作り、焼き上げましたが……?」
「…………」
……少し驚いている?
サラダだって目の前で作っていたのに。
「そうだったのか、それは失礼した」
「いえ、そんな……」
「以前もらったパンもそれも美味かったのだが……」
確かに、美味しいとは言ってくれていたけれど。
「その、なんだ。こんなに手が込んでいるパンは初めてでな」
それってつまり、プロ並みって言ってくれているの?
「まさか公爵家の令嬢が料理をするというのも、聞いたことがなくてだな」
まぁ普通はそうよね……。
「その、つまりだな」
殿下が言い淀んでいて、少し焦っているようにも見える。
「……こんなに美味しいパンは初めて、ということでしょうか?」
ロヴァルド殿下をじっと見据えて聞いてみる。
すると殿下は明らかに言葉を詰まらせ、顔を背ける。
拳で口元を隠しながら、少し喉を鳴らすと口を開いた。
「……ああ」
殿下は小さく咳払いをすると、再びパンを口に運ぶ。
……もしかして照れてる?
「気に入っていただけたなら、嬉しいです」
そう言って、にっこりと微笑む。
あんなに気難しそうな人が、美味しいと言ってくれた。
……回りくどかったけれど。
それでも、嬉しいものは嬉しいわ。
チラりとロヴァルド殿下を見ると、いつもの無表情に戻ってしまっていた。
そんな真面目な顔をして、「美味しい」の一言が言えないなんて。
……なんて不器用な人なのかしら。
そんな殿下を少し可愛いかも、と思ってしまった。
口には出せないけれど。
──私も、不器用なのかもしれない。
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