9話
◇神界TV
「ゴッズタイム! 今日もやってきました。
莫大な金を手にできるのはどの神か? 解説のパニスです。レッツエンジョイ!」
画面の端で、別の映像が高速で切り替わる。
いくつかの名前がオッズ表から消えた。
「今のは?」
「……映す価値がなかっただけだ。短すぎてな」
オッズ表の更新が止まり、クロ―の欄だけが残る。
他の名前は、次の更新でまとめて消えた。
倍率だけが、ゆっくりと動き続けていた。
この瞬間、人間を駒にした賭場は神たちで溢れかえる。
熱気がさらに増す。
場内の照明が落ち、メイン映像が切り替わる。
そこに、クロ―の映像が映し出される。
画面には詳細は出ない。
演出用のぼかしと、数値だけが重ねられていた。
――視聴維持率:上昇
――感情反応値:低
――演出成立判定:未達
――感情消費効率:低
「……数字が伸びないな」
「形式は踏んでいるが、反応が薄い」
「“条件”は満たしたが、“見せ場”になっていない」
誰も画面を食い入るようには見ていなかった。
神々が見ているのは、映像ではなく――横に並ぶ数値だけだ。
「注目株のクロ―です」
「……ですが、今回は“感情”が足りませんでした」
「形式的な反応は確認できましたが、
内的変動が観測できない」
「世界側としては、成立扱いできませんね」
「これは世界側の判定が分かれるところですね」
「果たしてこの追放は打倒なのか、システム側の動きが注目されます」
神々たちはざわつく。
映像に対してでなく、処遇について追加を求める声が多い。
「いいじゃないか、このヒヤヒヤ感が」
「調子に乗らせすぎると、収拾がつかん」
「まだ見ていたい」
「追放イベントや襲撃イベントの追加はないのか?」
方々で共通しているのは足りないということだった。
「様々な声が上がってきました。
システム側がこれをどうするのか、今後の動きに注目していきましょう」
神はニヤつく者が多い。
それは分かっているからだ。
「……ああ。世界が、次を用意し始めた」
「もう走り出しているな。止められん」
「新しい情報が入ってきました。今回の長きにわたる勇者チームは全滅しました。
したがって全滅エンドに賭けた皆さんの最終オッズはこちらです」
「おおぉお」
神々の声があふれる。
安定的な運用がされていた勇者が全滅というのは穴に近い。
「これだから、勇者はわからねぇんだよな」
「これまで結構勝ってただろ?」
「いや~こいつらは決定打に欠けるんだよな」
「もっとこうさ、クロ―のように何しでかすかわからない奴じゃないとな」
今日も神の賭博場は熱気に包まれていた。
◇
一方その頃クロ―は――
夜伽の女が去ってから、ぼんやりしていた。
与えられた部屋でごろ寝をし、天井を眺める。
「わけがわかんねぇ」
なんで追放された?
何が今回お礼として足りなかった?
その直後の助言はなんだった?
しかも誰だ?
疑問は解消されない。
ただ言えるのは――
「俺、追放されても怖くなくなった」
――いや、違う。
怖がる“余地”が、もう残っていない。
というより、あらゆることで怖さが激減した。
怖いと思う感情が削れていること自体、危ない。
自分自身を守る感覚というか危機感か。
それが、薄れているんじゃないかと。
でも――
「白い空間に行ってない。
……つまり、まだ大丈夫なはずだ」
堂々巡りの考えを一旦落ち着かせるため、立ち上がる。
その時不意に響いた。
パリンッ。
まるで空間の一部が割れたかのような感覚。
唐突に脳裏にいつもの声が響く。
【おめでとうございます! 襲撃イベントが発生しました。
今から24時間以内に発生します。勝利条件は、襲撃者の死亡。
手段問わず駆逐してください。
勝利時1体につき、1万追放ポイントが獲得できます】
なーマジか?
襲撃しゃうって、アホなの? バカなの?
今の手持ちは、カードは2枚。追放ポイントは61,000ポイント。
《誤認ラベル》(弱)
《追放ノイズ》(弱上)
何が最善だ?
今回は賭けだ。
追放ノイズを使えば……
――流れを変えられる、
かもしれない。
どっちにしろ、追放は避けられない。
ポイントも減る。
――だからこそ、選べるのは“その後”だけだ。
……クソが。
「あいつら、見るものしか信じねぇ」
なら――
見るものを、壊す。
あいつらは、
次に何を打つべきか、分からなくなる。
なら決めた。
俺は切る。
「《追放ノイズ》(弱上)行けッ!」
「得はしねぇ」
でもかまわねぇ。
……正しい判断ができなくなったな。ざまーみろ。
そう思った瞬間、こめかみの奥が、ぎゅっと締めつけられた。
視界の端がざらつく。
音が、少しだけ遅れて届く。
ああ、これが反動か。
吐き気はない。
立っていられないほどでもない。
でも――確実に、何かが削れた感覚があった。
怖くは、ない。
それが一番おかしかった。
命を弄ばれて、次は襲撃イベントで、逃げ場もない。
普通なら、喉が詰まる。
息が浅くなる。
足が震える。
なのに、何も起きない。
「……本当に、削れてきてやがるな」
自分で言って、少しだけ眉をひそめた。
慣れちゃいけない。
これは、慣れる類のもんじゃない。
でも、もう戻れない。
あいつらは、見るものしか信じない。
なら、見せるものを壊した。
それだけだ。
勝った気はしない。
得もしていない。
ただ――向こうが、間違える。
それで、今は十分だった。
◇神界
「おかしいな。ゴッズタイムの内容と少し違うな」
「追放ログが欠損している」
ログの確認をする神は一瞬思考する。
「だが、今は異常はないな。観測値は安定している」
「それに――面白い」
ならば問題ないといいたげにつぶやく。
「軽い追放だった」
「精神はまだ保っている」
「なら、壊れるまで続けよう」
一瞬思案する様子を見せる。
「それならば、より過激なイベントの投入でいいのでは」
神は過激なイベントを世界システムに要求をした。
それが誤判断であると、知る由もない。
◇ミレーヌ
ログを見て迷う。
正確に書くと
神が“危険”と判断する。
でもログは壊れている。
書きようがない。
それなら仕方ないわ。
正確に書けば、
この人は“反応しない”。
でも、それは危険判定になる。
だから私は、
分類できる言葉を選んだ。
クロ―を守るために黙る。
これは正当な方法よ。
――正当だと思わなければ、私は壊れてしまう。
それだけは、許されない。
だから私は、“危険”よりも“面白い”を選んだ。
――神と、同じ基準で。




