4話
その日の夜。俺は、火を落とした厨房に忍び込む。
そいやさっき、厨房の端で皿を洗ってた小僧がいた。
俺と目が合って、すぐ逸らした。
……あいつも腹減ってんだろ。
でも、今日は俺が生きる。悪いな。
空いた時間に何度も来ているから、俺はわかっちゃうんだな。
おっ。まずはパン発見! 角食丸々1本、これウマー。
さてメインの奴はっと。
あった! こいつだ。
本日のターゲット! 愛しのソーセージちゃん。
連結して連なっていやがる。ありがてぇ。
全部は食えねぇ。
保存もできないからな、食う分だけいただくぜ。
あとは、火起こしの魔導具一式ゲット。
そんでもって。
すたこらさっさー。
走りながら笑みがあふれちまう。
うははは! 大勝利!
人気のない廃材置き場の裏庭。
事前に目をつけていた場所だ。
さっそく火をおこし、棒に刺したソーセージを焼く。
しばらくすると――
いい匂いだな。これ絶対旨いヤツじゃん。
「ふぅーふぅー」
ハムっ!
うまい。
――その瞬間だけ、怖さが消える。
肉汁がー! うめぇー!
しかも皮がパリッとくる。
「取ったどぉー!」
思わず万歳しちまった。
いやマジでこれヤバイ。
パンにはさんで食うとこれまた格別。
こうして2日目。俺は今日も生きている。
「……明日もこれが続けばいいのにな」
いや、明日もこれをやる。
そうしないと、心が先に折れる。
3日目の朝だ。
追放がまたされた。
外者パーティーだ。
まあ、予想はしていた。
だって俺、消耗型の追放カードしかない。
しかもそれは秘密だ。
これで連携なんぞ、できるわけがない。
けど、同郷の奴等だ。
一応聞いてみる。
「なあ、俺何かしたか?」
「いや。何もしていない」
「……それで追放か?」
「ああ。何もできないからだ」
それだけだった。
俺は、理由も弁明も与えられず切り捨てられた。
何をやれと言われても、最初から勝負にならない。
「……要するに、足手まといは切る。そういうことか。」
はあ、難儀だな。
4日目がきた。
とうとう来たといったところか。
奴隷としても売れない。
戦力にもならない。
消費した魔力の回収代にもならない。
これ以上の損失は看過できないという。
だから人として追放すると。
どういう意味だ?
俺は神官に尋ねた。
「汝は、もう人扱いはされない。つまり家畜でもない」
「どういうことだ?」
「娯楽だ。逃がさない娯楽だ」
「は?」
「お前は、狩の対象になった。せいぜい生き残るんだな」
……狩り?
どう見ても輩と言える城内部の奴等が胡乱な目で俺を見る。
「ぎゃはは、聞いたか? 人狩りができるぜ」
「誰だターゲットは?」
「あいつだよほら、あそこにいる」
本気か?
「おいおい冗談じゃねぇよ」
風切り音。
避けた先に、矢が突き刺さった。
――来た。
俺は走った。
――ああ
これは処刑じゃない。
娯楽だ。
そう思ってしまった自分に、吐き気がした。
クソッ、人に狩られるってことかよ。
奴等は笑いながら追いかけてきた。
アレは本気じゃない。
なぶり殺しを楽しんでいる。
なんて世界なんだよ。
俺は必死に駆けずり回る。
◇女精霊
私は精霊ミレーヌ。
目の前でクローが駆けている。
私は、神からの指令で任務を受けてここにいる。
でも、ここまで一人を残酷に追い詰めるのはどうかと思う。
私がここに来たのは明白。
今回神が賭けたのは彼。
連続追放で神の中で今、一番勝ち続けている。
もう神格はあがったころじゃないかしら。
ひどい賭け事よね。まったく。
正直今回の件は、私も絡んでいるとはいえ、心が揺らぐ。
こんなのってない。
……このやり方を続けたら、世界そのものが歪む。
でも任務は彼を監視し、私も監視されているから、手を抜けない。
だから、今回監視の目を盗むことにした。
それは――念話。
こればかりはいくら神でも見抜けない。
でも、ごめんね。
あまり多くを語れないんだ。
今の私じゃ。
『ねえ、そこの君』
「あっ? なんだってんだ?」
やっぱ怒るよね。
でも今は。
『突き当たり。壁に窪みがある。登って越えて』
様子を見ていると彼はすぐにわかったみたい。
たやすくよじ登り、壁の向こう側に消えた。
今言えるのはここまで。
――明日も彼が生きていたら。
私はきっと、もう戻れない。
私は、そのまま誰にも気が付かれず闇に姿を消した。




