36話
「力は追放できる。だが、結果は追放できない」
俺はどこかでそう思ってしまった。
「使うかどうか、じゃない」
「使わない、って判断もある」
俺は今まで使うことばかりを考えていた気がする。
迷っていない。
でも、まだ自信もない。
“判断する存在”になったと思いたい。
……まだ、思いたいだけだが。
まただ。
報酬もよこさねぇくせに偉そうにリクエストなどよこす。
ログ表示。
【リクエスト開示:07】
【備考:契約外】
【理由:観測継続】
【内容:指定区域の敵性存在を排除せよ】
【条件:殺害禁止】
【報酬:なし】
俺は即決めた。
「……やらん」
俺は“便利さ”のために人を壊すんじゃない。
ミレーヌもどこか安堵している。
「……それが、正しいわ」
エラは少しばかり慌てていた。
「えー? でも面倒事にならない?」
俺は答えない。
◇神界TV
賭博場にはいつもと違う雰囲気が漂う。
観測ノイズ。
オッズ未確定。
警告ログ多発。
神々は不穏な様子を隠せないでいた。
「放置か?」
「なぜ動かない?」
「観測モデルが崩れるぞ」
……。
「想定外が起きるかもしれない」
「いや、もう起きている」
◇一方クロ―側では
空間の軋み
地面の違和感
一般人の悲鳴
「……待て」
「俺は、何も――」
アイラが初めて焦りだす。
こんな動揺した姿はみたことがない。
『クロ―、離れて!』
『この世界、管理が崩れて――』
なんだ?
何が起きている?
クエスト対象の暴走
神の管理システムが処理不能
クロ―は“原因ではない”
「まずい、ミレーヌ、エラ、手を!」
手を掴むはずが、ミレーヌは俺を抱きしめる。
エラも叫び、俺に抱き着いてきた。
「クロ―!」
アイラは布袋ごしに俺にしがみつく。
ブニ―は俺の頭にしがみつく。
光じゃない。
転移演出じゃない。
重力に引きずられる感覚。
◇神界TV
ゴッズタイムのパニスも司会も神々も慌てふためいている。
「座標ロスト!」
「干渉不能!」
「観測は続いている――!」
◇クロ―たち
黒い空間に星々のきらめきのような光。
これまで俺が味わった追放後の転移とはまるで様子が違った。
どちらかというと、日本から異世界に来たときに近い。
近づく大きな光に飲み込まれる。
光が収まった。
足場がある。
視界に広がる光景は圧巻だった。
広大な自然と山々が広がり、
見たことのない山頂付近の広大な大地に俺たちはいた。
静か。
空気が“重い”
世界が呼吸している。
圧倒されていた。
そんな悠長なことを許さないといわんばかりの敵がきた。
突然四つ足の巨大なライオンを真っ黒にした魔獣が飛来してきた。
理性など期待もできず
感情ももちろんない。
知性の欠片も感じさせず
圧倒的存在感を放つ。
来た早々これかよ。
俺はすぐに使った
「やる気、追放!」
ん?
どうした?
不発なのか?
レベルを下げる。
「……喜怒哀楽、追放」
これも不発だと?
アイラは急ぎ言った。
『機能してる』
『でも、相手が“対象外”』
ここでは
“精神を壊せない存在”がいる。
そういうことだ。
それなら、対応はまだある。
「……なら、やるしかねぇ」
効かないなら、効かせようとするな。
壊せる方法を選ぶだけだ。
俺は、いつもの銃身を構え突っ込んだ。
この質量で殴る。
ミレーヌは、氷結魔法で援護をする。
だが、いつもより威力がでかい気がする。
エラは身体強化で肉弾戦だ。
モーニングスターの威力が桁違いに見える。
ミレーヌの魔法で足を固め、エラが全身をくまなく殴打。
俺がとどめに、脳天に銃身を叩きつけた。
脳漿をまきちらしそのまま横倒れになる。
「おわったな」
「ええ、なんかいつもと違うけど」
「あたしもみなぎる力がはんぱないんだけど? あは♡」
そこに見慣れぬ人の頭ほどの大きさの金色をした卵状の物が見えた。
ブニ―が突然飛びつき、勝手に食らう。
「おいおい、ブニ―それ喰ったら腹壊さねぇか?」
丸飲みし卵状に膨れる。
――が
それで終わらなかった。
眩い光がブニ―を中心に放つ。
その光の中で明らかにブニ―が膨張していく。
「おい! ブニ―! 大丈夫か?」
光が収まり、現れたのは犬サイズの黄金ブニー。
「……は?」
なんだこれ。
「わーブニ―が金の犬になった!」
エラは逆に大喜び。
ミレーヌは慎重に見る。
「以前のブニ―のままかしら?」
狂暴化を心配しているようだ。
そこでアイラが突然袋から飛び出した。
「ここなら……実体化も余裕ね」
アイラが光で包まれると、黒いドレスの美女が突然現れる。
あっけに取られている俺を見るなり、言う。
「……小さい子の方が好み?」
「違ぇよ」
アイラは、一瞬だけ幼くなるが俺の反応を見てすぐ戻る。
今は、黒いドレスの美女の姿で俺に寄り添う。
安心したせいか、ミレーヌたちも自身の異常さを吐露する。
「魔力が異常よ。何かしら? 今までの数倍に感じるわ」
エラも歓喜している。
「身体強化が過剰反応の超強化よ。何これ?あたし最強? あは♡」
俺はスキル不発なだけで、それ以外は変化を感じない。
俺だけなのか?
俺だけ不遇か?
この世界は俺以外を変えた。
ログが懲りずに現れる。
【リクエスト開示:08】
【備考 観測強化】
【理由 精霊王世界/直接干渉不可】
【内容 周辺探索および状況把握】
【追加条件 魔獣10体撃破】
【報酬1 撃破ごとに 追放ポイント+1000】
【報酬2 完了報酬 +10000】
なんだ。
今までと違い随分と破格な対応だな。
アイラは言う。
「ここはおそらく精霊王の管轄する世界ね。
だから彼らは干渉できないのよ。見るだけね」
「なるほど、俺に未知の場所を報酬やるから教えろってことか」
「まあ、そうでしょうね」
◇神界TV
「いいね、これは最高の賭けができるよ」
「未知は、最高のコンテンツだ」
「リクエストも報酬も与えられるならこれ以上はいらないね」
逆に神たちはこれまでとの違いを感じ、狂喜するほど盛り上がる。
「いいぞ! やれやれ! やっちまえー!」
彼らの娯楽は終わりを見せない。
◇クロ―たち
これまでと違って、これならいいだろう。
報酬あり。
生存に直結。
戦闘経験が必要。
俺たちにも都合がいいぜ。
「……やる理由は十分だな」
ミレーヌも幾分嬉しそうだ。
「そうね。あなたが精神追放で迷わずに済むならなおさらよ」
エラは、気楽だった。
「あたしの力も増したから、皆であばれちゃおう!」
アイラも乗り気だった。
「この感覚は久しぶりね。まるで故郷に戻ったかのようよ」
ブニーは見た目が変化しても変わらずだ。
「ブニ―」
俺の足にすり寄る。
なんだ? お前はにゃんこか?
さて、俺たち自身が追放されない世界であるといいんだけどな。
「壊すかどうかじゃない」
「何を、どう壊すかだ」
「ここは――」
「選ばなきゃ、生き残れねぇ世界だ」
「ええ、そうね」
「うん、いこー!」
「ねぇ、クロ―。意気込みもいいけど、あのサイズがまたきたわ」
「エラ、ミレーヌ援護たのむ」
「わかったわ」
「あたしのパワー見せてあげる」
「ブニ―」
この時、ブニ―は口から閃光を放ち二体飛来してきた内の一体の羽を貫通させる。
「げっ!」
おいおい。でたらめだな。
……楽しい。
それが、一番まずい気もしたがな。




