34話
「ダメだ!」
力を行使しようとした。
飢えと渇きの延長線上にある。
俺は、止められないことを――知った。
クソッ!
前の少女と目があったとき、
すぐ後ろに佇む物がいる。
猫だ――
とっさに猫に視線と意識を向けて力を流す。
「やる気、追放」
その瞬間、猫はうずくまる。
目が合わない。
呼吸をしているか確認する。
何度みても、目が合わないことに気づく。
触ろうとして手を止めた。
「生きてる……よな?」
何とか回避できた。
……違う。俺は“守った”んじゃない。“外した”だけだ。
アイラのいう“流し先を変える”。
それが今できた。
もう一度目線を戻す。
子どもが何をしているか。
泣いているのか、立っているのか。
距離は、数歩しかない。
走れば届く。
声をかけることもできる。
それだけの時間は、確実にあった。
なのに、俺は動かなかった。
子どもは泣いていなかった。
叫んでもいない。
ただ、その場に立って、
周囲の大人たちを見上げている。
助けを求めているようにも、
状況が分かっていないようにも見えた。
俺は一歩も踏み出さない。
踏み出さなかった理由を、
探そうともしなかった。
考えれば、迷う。
迷えば、時間が減る。
そうやって、何もしないことを
選んだまま、時間だけが進んでいく。
“守った”ではなく“何もしていないのに時間が過ぎ去る”。
俺は結局何もできなかったのか。
『実践したのね。今回はいいけど次はどうなるかしら?』
『そんなの、わかんねぇよ』
……考える前に、体が動いたな。
銃身で殴ってた時の方が、気持ち的には軽かった。
悩む暇も考える時間もねぇ。
次から次へと使うように仕組まれているとしか見えない。
また視界に現れた。
ログ。
【リクエスト開示:05】
【内容:区域内の混乱を沈静化せよ】
【条件:死者ゼロ】
【制限時間:短】
またか……。
◇神TV
「ゴッズタイム! 今回は最後のリクエスト5回目になりました。
さあ、あなたはどっちに賭ける?」
「こんにちは、実況兼解説のパニスです。
やはり精神の種、きましたね。
狂わずにここまで保っているのは、人にしてはなかなかやりますね」
「今回意外な声として、
闇落ちファンファーレを聞きたくないという神が60%にも及んでいます。
もはや、応援的な賭けに近いのでしょうか」
「とここで、別のA地域からの情報です。
昨夜未明、勇者集団がスキルに溺れ、クーデーターが勃発。
首謀者ともに健在、ここでも賭けが行われていますが、いかに」
「さらに情報です。B地域の新規召喚者は残念ながら全員脱落しました。
一人の離反による巻き添えで全員奈落の底に転落。
救出の見込みも助かる見込みもほぼ0になりました。
これにより今回の賭けで大きく損をした神々がでました。
さらに召喚するとのことなので続報を待ちましょう」
「さあ、最新のオッズ表示です。レッツエンジョイ!」
◇一方クロ―は。
対象は“反抗勢力の一部”なのか?
だが明確な犯罪者ではない。
よりによってまた、目の前でおきやがる。
どうなってんだ。この地域は。
あいつ等か?
武装はしているが、動きに迷いがある。
クソッ!
時間制限が判断を急かしやがる。
敵が動き出す。
ミレーヌが口を開く前に――
「やる気、追放」
音が遠くなる。
人の声が意味を失う。
手触りが一定になる。
何人目か分からなくなる。
俺は再び使いまくった。
……。
混乱は即座に収束。
被害ゼロ。
ログ。
【リクエスト05:達成】
【評価:高】
戦闘は確かに終わった。
だが――
楽だった。
早かった。
迷わなかった。
そもそも、“正しいかどうか”を考えていなかった。
ただの……作業。
そう言葉にした瞬間、
胸の奥が少しだけ冷えた。
昔なら、こんな言い方はしなかった。
殴った時も、撃った時も、
そこには必ず理由があった。
怖かったとか、必死だったとか、
何かしらの感情が、後から残った。
でも今は違う。
終わったあとに残るのは、
「終わった」という事実だけだ。
成功した。
条件は満たした。
被害は出ていない。
それだけで、
全部が片付いた気になっている。
「……ああ」
「俺、今」
「“使いたい”って思ったな」
ミレーヌは何も言わない。
ただ、視線が一瞬だけ鋭い。
「まだ大丈夫だ」
「選んでるのは、俺だ」
そう思えた。
それが、少し怖かった。
そうでなければ困る。
選んでいないのなら、
今までやってきたことに、
意味がなくなる。
守るためだった。
進むためだった。
生き残るためだった。
そう言い聞かせれば、
胸の奥のざわつきは、
一瞬だけ静かになる。
――その一瞬が、
妙に心地よかった。
慣れたわけじゃない。
ただ、拒む理由を探すより、
使う方が、ずっと簡単になっただけだ。
……本当に?
指が震えていないか確認する。
呼吸を整えようとして失敗する。
心拍が遅すぎることに気づく。
ログ。
【精神の種 Lv2:使用回数 蓄積】




