33話
「なんだ。立食パーティーか?」
「これはあれね。踏み込まれてもごまかしが効く奴ね」
視界に広がるテーブルと料理の数々に思わず目が奪われる。
「ヤバイ――」
「どうしたの?」
「俺はソーセージが好きだ。しかも超が付くほどにな」
「はいはい。任務完遂してからね」
やるか。
何か違和感とこめかみの痛みは気になるが。
物陰に隠れ俺は実行に移す。
「やる気、追放」
ミシッ!
「グッ……」
なんだこの頭の痛みは。
「追放!」
まただ。
少し和らいできたか?
続けて何度もやり最後のヤツにやった時だ。
喉の渇き?
イヤ違う。
料理の匂いで空腹か?
どことなくずれている。
何かが足りない。
もっと、もっとと俺の中で何かがうごめく。
「ちょっとクロ―大丈夫?」
「あ? ああ……」
なんだ。
俺は一瞬ミレーヌですら、俺の手にかけようと頭の片隅で過る。
冗談じゃねぇ。
なんでそんな事が浮かぶんだ。
ミレーヌは絶対にダメだ。
俺どうしたんだ。
『クロ―。どんな事でも渇いてきたら、やりすぎよ?』
『そうなのか?』
『どんな力でも制御を失えば暴走。
制御ができれば、掌握よ。あなたはどっちかしら?』
こいつは俺を止めない。
『俺は……』
『あっでもね。制御しない方法もあるわね。
流し先を変える。ふふどうなるかしら?』
俺は周囲を見渡す。
結果は出た。
反抗勢力は、沈静化。
被害は、なし。
だが――
歓声も、感謝もなかった。
誰も喜ばない。
誰も責めない。
ここが、追放されない世界ならいいのに
ただ、
「俺の」何かが変わった。
ログが現れる。
【リクエスト04:達成】
【被害率:0.00%】
【評価:高】
【観測データ:有効】
……。
俺は立ち尽くす。
「……前と同じ選択だ」
「なのに、少し違う」
理由は言葉にできなかった。
ただ、
“選んだ感覚”だけが、短くなっていた。
この時、エラが現れた。
「あれ? もう終わり?」
「ああ、帰ろう」
「ちょっとだけ料理つまむ!」
エラは無邪気に料理に駆け寄る。
「クロ―? あなたはいいの?」
「ああ。よくなった」
「そう」
「ブニ―」
ブニ―が俺の頭の上で俺を慰めている気がした。
……。
その後、何事もなく街道を歩いている。
前は、
カードを見る時間があった。
今は――
見なくても、指が動く。
精神の種 Lv2 は、
もう“選択肢”ではない。
手順の一部になり始めている。
胸元の袋から、
小さく声が響く。
『ねぇ、クロ―』
『……なんだ』
『さっきの判断』
『速かったわね』
責めるでも、褒めるでもない。
事実確認だけ。
『悪かったか?』
『いいえ』
『結果は、合理的だったわ』
一拍。
『でも』
『“迷わなかった”のは、少し珍しい』
俺は答えられない。
アイラは止めない。
『流し先は決めたのかしら? あなたにはその方があっているかもね』
取り返しのつかない変化を右腕じゃなく、
今度は頭の中にも抱えたらしい。
ログが割り込む。
【リクエスト開示:05】
【要求者:投資神】
【内容:指定区域の混乱を沈静化せよ】
【条件:被害最小】
【制限時間:あり】
敵性存在、犯罪、正義の明記がない。
また判断が難しいヤツが飛び込んできた。
だが今回で最後のリクエストだ。
ミレーヌが即、気づく。
「……対象が、書かれてない」
エラは軽い。
「でも急げってことだよね?」
ログ追記。
【制限時間:残り 15:00】
なんだこれは。
考えるほど損な設計じゃねぇか。
クロ―は一瞬だけ周囲を見る。
いつの間にか指定区域に俺たちはいた。
群衆。
怒号。
石を投げ合う人々。
理由は分からない。
調べれば分かる。
だが――
制限時間が減っていく。
俺の思考が渦巻く。
調べれば、 時間が減る。
止めれば、被害が減る。
なら――
カードを見る前に、
もう手が上がっている。
「……やる気、追放」
ほぼ即決。
迷いがなかった。
だが――
ピシッ!
ズキッ!
こめかみに亀裂が入りそうな痛みだ。
「グッ!」
怒号が止まる。
武器が落ちる。
人々は座り込み、動かない。
死者はいない。
怪我人もほぼゼロ。
ログ。
【沈静化:完了】
【処理時間:想定以下】
【評価:高】
ミレーヌは何も言わない。
ただ、
俺を見る時間が、少し長い。
「……早かったわね」
それだけ。
責めない。
肯定もしない。
『ねぇ、クロ―』
『判断が早いのは、悪いことじゃない』
『でもね』
『“正しいかどうか”を考えなくなった瞬間』
『選択は、癖になるわ』
俺は立ち止まる。
『……癖?』
『ええ』
『便利な癖ほど、手放せなくなる』
それ以上、アイラは言わない。
俺は、考えなくなった。
でも、
間違ってはいない。
そう判断できるくらいには、
俺はまだ、冷静だ。
ログ。
【精神の種 Lv2:使用回数 蓄積】
【次段階:解放条件 接近】
楽な方に行く癖。
暴走なのか掌握なのか、それとも流し先を変えるのか。
俺は思った以上に“最悪”に足を踏み入れたらしい。
まただ。
追放したい。
この飢えなのか渇きが沸き起こり始めた。
その時。
俺は目の前にいる。
小さな子を見てしまった。




