27話
「ふぅ~」
エラが俺を見上げる。
「何やってのクロ―?」
「いやな、ヤバすぎだろ? だから深呼吸」
ミレーヌはため息交じりだ。
「こんな状況で深呼吸なんて太いわね」
目先のピンチっぷりときたら半端ねぇ。
でたらめに殴っていたら、ダメな場所はわかった。
今は魔獣が沸いている。
でも挙動が鈍い。
しかも攻撃が当たっても“確定しない”
どんだけ、バグゲーなんだよ。
積むぞこれ。
俺はともかく、ミレーヌの疲労がヤバイな。
エラは異様に静かだし。
この壁に括りつけている松明も、周期的に暗くなりやがる。
ログが表示されない時点で、神の慌てぶりが見て取れる。
どうなっちまうんだ?
世界は動いているが「進めない」
おかしな現象だぜ。
さて、どうすっか。
突然声が響く。
なんだ?
「殴れば、進める」
「殴らなければ、詰む」
「詰んだ状況は――賭けに向いている」
姿は見せねぇ。
位置も分からん。
だが明確に感じる。
“近い”
俺は得体のしれねぇ奴との遭遇に、
どこか期待しちまう。
「……ポイントを、貸そうか」の声と同じ奴だ。
なんとなく。今回は“介入”ではなく“取引”
突然まばゆい光が俺たちを包む。
エラは俺にしがみつく。
「え? クロ―」
ミレーヌは膝まづく。
「これは……」
光の人型といえばいいのか?
横にならんで3つある。
名乗りも当然しねぇ。
なんなんだ?
まず一番左手の奴がしゃべりだす。
「分析終了」
「君は現在、マイナス十万ポイント」
「通常ルートでは回復不能」
一拍置いて、
「だが」
「世界側に異常が発生している」
俺は事実だけを言う。
「は、はぁ……。まあそうだけどよ」
何だこいつ?
計算ヤローとでもよべばいいか?
次は中央の奴だ。
「いや~久々だよ!」
「配信が壊れかけるの!」
「ここで終わったらさ?」
「神界、白けるでしょ?」
なんだ?
ぶっちゃけすぎじゃね?
馴れ馴れしい。
感嘆符多めだし。
まあ、いい。
こいつは、配信ヤローだな。
最後に一番右手の奴だ。
「提案する」
「ポイントの前借り」
「返済義務付き」
「答えはシンプルだ。“はい”か“YES”か“承知しました”の3択だ」
「え? 何言っちゃってんの?」
「それ、全部同じだろうが」
こいつは、契約クソヤローだな。
「十五万ポイントを渡す」
……。
「マジか。大マジなのか?」
「嘘ではない、これは真実だ」
うまいぞ。
何をさせられるかわかったもんじゃねぇ。
これって白紙委任状にサインしろと言っているに等しいぞ。
今の俺の所持ポイントはマイナス10万だ。
そこに、15万ポイントが上乗せされる。
つまり――
今すぐ使える追放ポイントは、5万。
ガチャが、5回回せる。
「ねぇクロ―。あなた全部ガチャに突っ込む気?」
「夢と希望とロマンがある」
「それ言う人、大抵ギャンブラーよ?」
「その銃の弾もポイントいるんじゃないかしら?」
「ぐぬぬぬ」
「ダメよ? ぐぬぬぬとか言ってごまかしても」
「俺は運命と戦わなればならない」
「はいはい。わかりました。クロ―の好きにすればいいわ」
ミレーヌはため息をつく。
「あたし、応援するし」
エラは俺の手を両手で包む。
そこで先の神が口を開く。
「返済条件を伝える」
「ガチャで引いたカードのうち
最も価値が高い1枚を没収」
「どの神に渡るかは、 ガチャの結果で決める」
……。
まて、俺はまだ何も答えてないぞ?
「もう一つある」
「なんだ?」
「3柱から1つずつ、合計 3つのリクエストを受けよ」
「完遂するまでくりかえされる」
「残り2柱分は、調整される。今はまだ言えない」
これならたしかに手っ取り早い。
でもこれって、どっかでみたことねぇか。
借金チャラにするかわりに、何ちゃらしろって。
よくある手口にみえるんだが。
「……自由は増える」
「その分、首輪も増える」
ミレーヌはどうやら警戒している。
「やめて」
「それは貸しじゃない」
「完全な契約よ」
エラは、一瞬だけ、楽しそうに笑う。
「いいじゃん」
「だってさ」
「クロ―、もう殴る気でしょ?」
まあコイツはいつもそうだ。
止めない。
理解していると言えばいいのか?
一歩先を見ているとも言えるか?
でもな。
今のままじゃかわらねぇ。
だから決めた
俺は短く言う。
「借りる」
理由は説明しない。
……。
【契約成立ログ】
【ポイント借入:成立】
【投資神:3】
【資金提供:5柱分】
【返済条件:未達】
やっとだ。
「……ガチャ、回せるな」
神の気配が、さらに一段近づいた。
数じゃない。視線だ。
見られているという感覚が、皮膚の内側に貼り付く。
ミレーヌは歯を噛みしめ、エラは楽しそうに目を細める。
同じ光景を前にして、反応は真逆だった。
俺は、手のひらに残る重さを確かめる。
これは救いか、首輪か。
どっちでもいい。
進めるなら――引く。




