16話
「なあ、奇跡が“当たり前”になると、生活が壊れるって知ってるか?」
ああ、俺は過去の俺に言いたい。
つい、さっきの事だ。
……。
「なんだ? 何が起きた?」
ガチャで出た「???弾倉」「∞?」が滲みだす。
これって反応してんのか?
急にカードが宙に浮いた。
「おっ!」
「えっ!」
俺もミレーヌも空いた口のまま硬直していた。
条件不明のまま、カードが勝手に浮かび縦に回転。
「ちょっ。待てよ! おい!」
俺は「使う」と決めていない。
なのに
「クロ―、ログが! あなたが使ったことにしてる!」
「マジで! 大マジか?」
神システムが「使ったことにする」暴挙に出た。
「なんだ動けねぇ」
立った状態で手足は硬直。
一応息はでき、顔は動かせる。
「ヤベ! ミレーヌ来るな!」
近づくミレーヌを止める。
今とっさに言えたのはこれだけだ。
後は思考が乗っ取られたみたいに右腕の動きに固定しやがった。
なんなんだコイツは。
勝手に右手の骨格が“再配置”される。
指が折れて回転。
肘から先が“内部構造を持つ金属”に変わる。
血は出ないが感覚がある。
骨を直接、叩かれているみたいな痛みだ。
「痛ってぇー!」
クソっ、逃げられない。
カッコよくも、美しくもない。
ただ無骨な黒い金属の棒で塊。
それはどう見ても――
銃身だ。
ミレーヌの目がほそまり眉間に皺を寄せる。
「……武器じゃない」
「“器官”になってる」
目の前に大きく唐突に現れ点滅する。
【緊急討伐イベント発生! ただちに白の巨漢を倒せ!】
◇
大きな地震か?
いや、地鳴りだ。
しかも巨大な何かが近づいてくる。
職人部屋から外をながめると城壁の高さほどの白い巨人が向かってくる。
目鼻がなく口しかない。
ズガーン!
アレはバリスタからの槍だ。
背後から胸部を貫く。
おっ! やりやがった。
――が
違った。
再生しやがった。
おいおいデタラメすぎんだろ。
「ミレーヌあれ知ってるか?」
「先兵ドゥンケン。戦争の時につかわれる奴等よ」
「おいおい、何おっぱじめる気だよ」
「十中八九、あなたでしょうね」
「おいおい……そんな大きなファン、歓迎するなら100年後だよ」
「そうね。あなた神々からモテモテよ?」
どうやっても切り抜けるイメージがわかねぇ。
幸い、奴は俺たちの位置をつかんでいねぇ。
ゴゴゴゴゴォォォ!
何だ今度は?
谷底から何か吸い込まれるような音がこの腕から響く。
こちらに目を向けた。
ヤベッ
今ので気が付かれた。
「ミレーヌ、出るぞ」
「魔法は使えないわ」
「マジ?」
「今は制約がかかっている。多分この緊急イベントね」
「ってことは。ミレーヌお前だけでも逃げろ!」
「何ばか言ってんの?」
「少しはかっこつけさせろー」
「来たっ!」
ドガッガーン!
軽く払いのけるようにして屋根をはじく。
「チッ……待て」
俺は、引き金を引こうとして――止まった。
胸の奥で、確信がある。
“行ける”じゃない。
“撃たされる”。
嫌な予感が、背骨をなぞった。
「……やめろ!」
俺の意思より先に、
右腕が“固定”された。
ズドーン!
至近距離から放つ。
何を放ったのかわからん。
上半身が吹き飛ぶ。
――だが。
俺の視界が、一瞬だけ“遅れた”。
音が、後から追いつく。
膝が勝手に折れた。
「……っ」
立っているのに、
足元が遠い。
「再生がされねぇ」
「多分、再生自体を追放する弾丸では?」
「激熱だな! でも、そんな旨い事いくっておかしい」
「来たわ! 上!」
あれは、プテラノドンか?
なんでこの世界に。
「キエェェー!」
急降下してくる。
なら狙い撃ってやるぜ!
「……もう一回かよ」
「くらいやがれ!」
ズドーン!
こいつも上半身が吹き飛ぶ。
なんだ? 補正でもあるのか?
これ、弾丸って無料なのか?
なんか不安しかねぇぞ。
「もう、現れないわね」
「ああ、終わったか……」
目の前に再び表示が現れたのは終わりを告げる合図だった。
俺の視界に、嫌な“引き算”が走った。
【緊急討伐イベント完了! 2体討伐完了! 合計10万ポイント獲得しました】
「マジか?」
「凄いわ!」
「ん?」
「どうしたの?」
「なあ、マイナスなんてあるんか?」
「え? どういうこと?」
「……待て」
数字が、逆に流れていく。
「……マイナス?」
ミレーヌが、何も言わなくなった。
「一発ごとに……10万」
「だーやっぱりかー。そんなうまい話しねぇーよなー」
あれ?
おかしい。
ふんっ!
何?
「……戻らない」
力を抜いても、
意識を切っても、
“そこにある”。
【状態:装備固定】
【解除条件:未設定】
ミレーヌが、小さく首を振った。
「……解除条件が“存在しない”可能性もある」
ミレーヌも口をあけたまま表示を見つめていた。
◇
ひとまず俺たちは、倉庫部屋のもう一つの空き部屋に行く。
困ったぞ。
まずは、食事ができない。
いや、利き腕以外で食べればいいんだがかなりムズイ。
これだと多分、寝返りが打てない。
あと服を脱いだり着たりができん。
しかも最悪なのは排泄だ。
生活破壊のカードだぜこれ?
「わっ悪りぃな」
「いいのよ。仕方ないでしょ? はい腕あげて」
「ああ」
着替え中だ。
なんてこった。
――これが“一時的”なら、まだ笑えた。
でも、解除条件は未設定だ。
俺は前途多難。
【緊急討伐イベント発生!】
おいおいマジかよ。
俺とミレーヌは思わず互いに見合わせた。
アイツら、遊んでるんじゃない。
――“慣れさせよう”としてる。




