15話
倉庫小屋の職人部屋が空いていたので、占拠中だ。
掘っ立て小屋より綺麗だし、拾い。
俺はぼんやりと自分の手持ちを眺めて気が付いた。
「あれ?
俺、今いくらだ……」
追放ポイントおかしい。
なんだこりゃ?
「……10万?」
「は?」
……。
「ちょうど 100,000ポイントかよ」
手持ちはたしか……61,000ポイントだったよな。
おっ、いきなりかよ。
【追放ポイント獲得:39,000】
【討伐イベント補正:+15,000】
【異物混入(汚物)加点:+9,000】
【観測不能期間ボーナス:+8,000】
【ログ欠損処理補正:+7,000】
「……要するに、
全部“事故扱い”で加点されてるってことね」
唐突に視界に現れる。
ずいぶんな時差さだな。
んな時差しらねぇーよ。
しかも、どれもがでかい。
ミレーヌは顔近づけ眉をハの字に差上げる。
「……これ、正規処理だったら半分も出ない」
それやべー予感しかしねぇ。
「うわ……これ絶対、後で殴られるやつだろ」
これまたアレか神連中らがまたイベントこしらえているんか?
「ええ。でも……今は“正当な結果”よ」
そんな正当いらねぇー。
でもポイントはいるな。
「なぁ、ヤバくね?」
「何がと聞いても?」
「悪りぃ。10万ポイント全部つかって追放ガチャ引いたらさ」
「多分、良い意味で危険だし、悪い意味でも危険だわ」
「それって最高に良いカードを引くのと
最高に悪いカードを引くのと両方いいたいのか?」
「そうね。大正解よ」
俺は立方体を召喚し、面に映る自分の面を見て悩んだ。
引くべきか引かぬべきか。
◇神TV
「やってきました! ゴッズタイム! 今日も注目のクロ―。追放ガチャの運命はいかに!」
壁面に映し出されるクロ―の拡大映像。
それを見て、神々は野次を飛ばす。
酒瓶を片手に持ちながら、干し物をかじる一柱。
らっぱのみでグイグイと飲み干す一柱。
おつまみを爆食いする一柱。
女神娘のグラビア魔導本を見てニヤニヤする一柱。
基本デタラメで皆好き勝手にくつろぐ。
映像に釘付けの神々は、とくに常勝の続行派たちだ。
「来たぞ! 今回は何を引く!」
「止める? この流れで?」
「払い戻しする気かよ!」
中止派は沈黙を守る。
それもそのはず、狂気が目の前にある。
「今止めたら、全部“返金”だぞ?」
そんな責任は、中止派には負えない。
せいぜい言えるのは重箱の隅をつつくように荒さがしだ。
「……39,000?
端数処理どうなってる?」
続行派の神々は口々に言う。
「ちょうどいい」
「10回分だ、回させろ」
中止派の連中らは、何かと揚げ足取りに躍起だ。
「なぜ端数が出る!」
「補正が暴走している!」
中立派の神々は静観している。
「……オッズが跳ねたな」
◇
俺がガチャを回す理由は単純。
「今なら、回さない方が後悔する」
この追放ポイントが不滅とは限らないからな。
今後、何らか難癖つけて没収もありえるだろうし。
そもそもこのポイントが永久に俺のものだと言えない。
期限ぎれとかもいいそうだしな。
怖ぇーよ、まったく。
「ミレーヌ、俺はやるぜぇぇぇぇー!」
うぉぉー! 俺はやるぞ! やってやるんだ!
「はいはい。気を付けてね」
「行け! 俺の10万ポイント!」
立方体が勝手に回転しだす。
いつもなら、演出を止めていた。
でも今回は違う。
俺、設定変えてないし。
一瞬だけ表面の面が回転で引っかかる動き。
色が見たことない中間色。
表面は発光しなめらかに輝く。
音が遅れる。
ミレーヌが黙りやがった。
俺たちは固唾をのんで見守る。
……。
「……それ、見たことがない」
「当たり?」
「ハズレ?」
ウハハハ 何これ楽しすぎんだろ。
「どちらでもない」
回転がさらに早まる。
一つの光の玉になると今度は急に減速しゆっくりと止まろうとする。
なんだ?
何がくるんだ?
カードが現れた。
色や形状は変わりない。
違うのは表記だ。
《???弾倉》
効果:未確定
弾数:∞?
条件:記録不能
備考:観測干渉あり
「8が横になった? 芋虫か? それとも……無限?」
「違う」
「“そう見えてるだけ”」
「クロ―
それ、“使えたら終わる”カードよ」
「それね……
“引き金を引いた人間”のログも消える可能性がある」
カードを見つめたまま、俺は立方体に触れなかった。
引き金も、条件も、効果も分からない。
それなのに――
「使えたら終わる」という言葉だけが、妙に重い。
「1枚しかねぇって。これ」
「今回は10万で1枚のようね。その分弱よりも上だと思うけど」
大きく息を吸い込み吐き出す。
「なあ、ミレーヌ」
「……なに」
「これ、撃たなきゃ平気ってことはないのか?」
彼女は、即答しなかった。
その沈黙が、答えだった。
「……“存在しているだけ”で、観測を歪める」
「だから、引かれた時点で……もう」
言葉を選んでいる。
いや、選べなくなっている。
俺はカードを裏返した。
すると、一瞬だけ――
視界の端で、数字がにじんだ。
【追放ポイント:100,000】
表示が、わずかに揺れた。
戻る。
揺れる。
戻る。
「……今、見えた?」
「ええ」
ミレーヌの声が、硬い。
「ログが……“確定しない”」
「こんなの、初めてよ」
次の瞬間だった。
周囲の音が、ふっと消えた。
風も、軋む音も、
神のアナウンスさえも。
――静かすぎる。
俺は笑った。
「これさ……」
「俺が引いたってより、世界が引かされたんじゃね?」
ミレーヌは答えなかった。
ただ、強く唇を噛んでいた。
◇神TV
その直後、
神TVの映像が――落ちた。
「なんだ? 何がおきた?」
神々が集まる賭場に映し出された壁面映像が一瞬ブラックアウト。
リアルタイムで動くオッズの数字が止まる。
続行派が爆笑。
「ぎゃははは、何だよアレは、番狂わせもいいところだ」
中止派が騒ぐ。
「これは不正だ! 調べろ!」
静観していた一柱が言う。
「奇跡ってのはな」
「だいたい、取り返しがつかねぇ」
このカードがどうなるのかまだ誰にもわからない。




