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忘却の庭に咲く

作者: 白染
掲載日:2025/12/19

初投稿になります。


まだまだ文章力は低いですが、最後まで読んで頂けると嬉しく思います。ちょっと長めです。

 


 ――ここは図書館。記憶と物語が交わる境界。

 語られるのを待ち望む記憶が、静かに降り積もる場。

 数多の日々が、名もなく本へと姿を変え、誰かの語りを待っている。


 ここは記憶の庭。記憶は待ち望む。新たな輝きへと遂げることを。


 ★


 ここは図書館。記憶の終着地。

 ここは図書館。語られた命の結晶。

 ここは図書館。誰かの想いが咲く庭。


 ここは図書館。ここにはいる。かつての英雄が、戦士が、勇者が。――いつかの日々を生きる人々が。

 ここは図書館。ここにはある。かつての再会が、涙が、喜びが。――名もない誰かの想いが。


 ここは図書館。静かな空間が、この場を覆う。

 上空には語られた記憶達が、恍惚とした星の輝きと化して、この場を踊り狂うように咲かしている。

 夜空に咲く満天の星々。照らされているのは、本として形づけられた記憶達。

 ――それがこの場の在り方だった。


 だから誰もいない。誰も訪れない。


 ――ただ、一人。魔女が佇む。

 朝も昼も夜も。春も夏も秋も冬も。暑さも寒さもない。

 永久の静けさの中で、星の輝きを一身に浴びながら、記憶という名の本をめくり、物語と言う光を灯す。


 それは知らない時代の、知らない人々の、知らない記憶。

 それは美しく、脆く、儚く、切なく。

 それは希望に満ち、期待に膨れ、絶望に酔い、失敗に溺れて。


 そうやって培われた人生という名の記憶が、一つの本としてこの図書館へと辿り着く。

 それは誰の祈りでも、誰の願いでもない。

 記憶は吸い寄せられる。あるべき場所へと還るために。


 ただ、記憶は風化する。自らが懇願した訳ではなく、過ぎ去る時と共に、抗えぬ忘却の波に飲み込まれてしまう。


 ――だから、魔女がいる。

 語れなければ、記憶は風化する。

 語られなければ、記憶は物語になれない。


 そして、忘れられた記憶は、物語になれなかった記憶は、光を失い、永遠の闇へと沈む。


 ――だから、魔女は語る。

 記憶を無くさせないために。語って星にする。


 けれど、触れられぬ記憶が一つだけあった。

 その本は、無題で、白紙のまま。どれほどの時が過ぎ去ろうとも、変わらぬ空白がそこには映し出されていた。


 ここは図書館。ここにあるすべての記憶が紡がれなければならない場。


 けれど、語れない本が、そこに一つだけ、残っている。

 永遠に、語りかけを拒み続ける白紙の沈黙。


 ――このままでは、語れない。


 ★


 ここは図書館。銀河を照らす星々が、一段と輝きを濃くする。


 世界の記憶はいつだってこの場に集結する。

 誰にも忘れられたくない。そんな記憶の叫びが、聞こえてくる。


 一つの本を手に取る。

 それは、まだ魔女が語っていない記憶。そこに紡がれた記憶は、脳内を歩き回るかのように、魔女を刺激する。

 見たことのない情景を、その心に浮かべながら記憶を語る。


 ――わたしの知らない時間、わたしの知らない過去、わたしの知らない知識。


 ここは図書館。記憶は歌う、彼の者を楽しませるかの如く。


 いつかの本を、手に取ってみる。

 相も変わらず、無題で空白の本。


 変わらない。何も変わらない。変わっていくのは星の輝きのみ。


 何も、紡がれない。何も、刻まれない。いつまで経っても何も、語らせようとしない。


 いつまでこのままなのか。それは例え、魔女でも分からない。

 いつか、いつか語らなければならない。魔女が魔女である限り、記憶を語り継がなければならない。


 満天の銀河に咲く光の花。語らない本を待つ間に、それは輝きを増していた。

 いつか光で満ちた時、この場は失われる。


 失われて、そしてまた始まって。その時、この場は墓場となる。


 その前に、語れることを願うばかりだ。


 ★


 ここは図書館。培われた叡智の結晶体。


 世界が世界のままであらんとする限り、叡智は生まれる。

 まるで天啓かのように、都度発明をして、気づき、考えて、それを記してきた。


 作っては記録して、考えては記録して、解き明かせば記録をして。――世界はそうして作り変えられてきた。


 良い方向に、悪い方向に。それは世界の気分次第。

 舌が鼓舞すれば、幸福へと。舌が落胆すれば、不幸へと。


 叡智は味次第。味がなければ叡智は生まれない。記録にも残らない。記録もされない。


 ここは図書館。ここにはある。どんな些細な叡智ですら。


 いつかの本を、また、また手に取る。

 些細な変化すらも起こっていない。同じように無題で空白の本。


 ここに眠らない記憶などない。刻まれない叡智などない。全てが少しずつ刻まれて、この場の輝きを生み出している。


 以前にも増した空の輝きが、魔女の目を穿つ。


 語り継いだ記憶たち。その光の全てが魔女には美しく映る。

 どの光も引けを取らない。一つ一つの光から、世界を生きた証を、刻まれた証を、力強く受け取る。


 いつか無くなるこの場が、美しく咲き誇っていたことを、どこかで誰かが覚えていなければならない。


 ――だから、その前に語ってきてほしい。わたしは忘れないから。


 ★


 ここは図書館。幾千の記憶が身を寄せ合う場。


 世界の無数の記憶が刻まれ、語られ、そして消えていく。

 この場では誰もが主役。誰もが主人公。誰もが英雄だ。


 平等で、不平等な人生。可能で、不可能な選択。そんな荒波の中で、人は成長という架け橋を渡る。

 ある者は逞しく、ある者は勇敢に、ある者は優しく。


 人は記憶を作り上げる。記憶は人を作り変える。

 人が変われば、物語も変わる。


 そこに意味のない記憶などない。


 誰の目につかない記憶でも、そこに生きた証があるのならば、魔女は語る。――意味を、無くさせないために。


 何も描かれていない本を、同じように手に取る。

 いつものように無題。開いてみれば、変わらず白紙のまま。


 白紙のままの本を、そっと優しく撫でる。


 ――どうして、この本は語れないのか。

 ――誰の記憶なのか。

 ――なぜ、いつまで経っても空白なのか。


 長い月日が経とうと、魔女には分からなかった。

 いくつもの物語が灯り、いくつもの物語が咲き、いくつもの記憶が語られる中で、この本だけが沈黙を破らなかった。

 ――いつまでも、静かに、ここに在り続けた。


 これまでも、これからも、まだ図書館は多くの物語をこの身に刻む。

 この先もこの場は無数の輝きを孕んでいく。そして、もっと輝きを満たした時に、この場は失われる。


 いつかは分からない。語った分だけ、星の輝きは増していく。

 魔女に未来は読めない。読めるのは、記憶だけ。


 ――だから、あなたが。あなたもいなくなってしまう前に、わたしに教えてほしい。


 ★


 ここは図書館。幾重の記憶が今も生まれ、刻まれ、巡る場。


 誰かが生きた証が、誰かが残した思いが、誰かが託した叡智が、誰かが歩んだ軌跡が。


 ここにはある。ここにない記憶はない。ここに灯せない物語はない。


 記憶たちは語られるのを、今か、今かと待ち望む。

 それぞれの生まれ、歩み、出会い、別れ、そして終わりへと向かう記憶が、一冊の本となって。


 長い時間をかけて、魔女は無数の記憶を語ってきた。

 いずれ免れぬ終焉へと向かうこの場から、消え去られてしまう記憶を、物語を、忘れさせないために。


 ――それなのに、あなたは何も語らせようとしない。


 無題の本を開き、そっと指でなぞる。何かを刻む様子もなく、静かに佇んでいる。


 何も変わらないまま、何も刻まれないまま時は流れていく。


 無題で、空白で、白紙で。

 この本だけ、まるで時間の流れが止まったの如く、動き出す素振りがない。


 ――なぜ、なぜ語らせてくれないの。


 どれだけ疑念の意を唱えようと、本は無垢な真っ白を映し出す。沈黙を破ることをしなかった。


 この場にある限り、本には記憶が宿るもの。

 それは例え、喜劇だろうと、悲劇だろうと、語るに足らない人生であろうと、些細な知識だろうと、この場にある限り、それは宿る。


 ――ただ一つの意味あるものとして、本に記憶が宿るのだ。


 魔女はそれを語り継ぐ使命がある。

 世界が忘れようと、魔女が忘れない存在として、語り継ぐ運命にある。魔女はそれを必ず忘れない。


 ――だと、言うのにあなたは何を怖がっているの? あなたは本当に記憶なの?


 ――答えはいつまでも、語られない。


 ★


 ここは図書館。全ての記憶が刻まれる場。


 魔女は記憶と共に、この場を照らし続ける存在。

 記憶は星々となってこの場を。魔女は語り部となって記憶達を。


 互いが互いを尊重し合うこの場は、いつも輝きに満ちている。


 どちらかが欠ければ、どちらも存在しなくなる。

 誰に言われずとも、それを理解し合っていた。それが、正しい在り方なのだと。


 ある本を抱えて、魔女はその場に寝転ぶ。

 静寂に包まれたこの場で、魔女改めて抱えた本を見つめる。


 これまで多くの記憶を物語として輝かせてきたが、この

 本は未だに語れていない。

 何度も手に取り、何度も開き、何度も問いかけてきた。その度に、白紙のページは無感情なまでの冷たさを答えてきた。


 ――なぜ?


 そんな疑問が、魔女の中に沸々と膨れ上がっていく。

 膨れ上がって、そして最後に残るものは何か。それは魔女には分からない。

 だけど、それはこの本を語らない理由にはならない。


 ――早く、あなたの記憶を語らせてほしい。


 ここに眠るのは悲劇か、喜劇か、はたまた何でもない日常なのか。


 知りたかった。いいや、知らなければならない。

 遠くない未来。あなたを知っている存在がいなければ、消えてしまう。それは魔女がいる限り、許したくない。

 だから、お願いだ。あなたを、教えて。あなたをーー。


「あ、なたは、何者、な、の、?」


 ――音。魔女の鼓膜を揺らしたのは、音と認識できる何かだった。


 この場に鳴り響く本の音でも、ページの擦れる音でも、足音でも、服が乱れる音でも、何かの魔法とかの類でも、そのどれでもない。


 だけど、魔女はどこかで痛感していた。この音は知らなければならない者の、悲痛の叫びだと。

 その叫びに同調するように、魔女は空白の本を抱きしめた。


 ――いつまでも、あなたを知れなくてごめんなさい。


 そんな感情と共に、一粒の熱が頬を伝う。

 魔女はそれを知らなかった。いくつもの記憶を語ってきたのにも関わらず、『それ』を知らなかった。


 やがて、『それ』は指先へと落ちて、――そして、抱えた本を潤した。


 ――瞬間、淡い熱が指先に伝わった。


 まるで長い眠りから覚めるかのように、ようやく目覚める命の鼓動のように。

 暖かく、温かい光が本を包み込む。その光と共に、これまで冷たかった本に血が巡る。


 無題だった本。そこに一つの文字が刻まれた。

 細く、淡く、儚く。それでも刻まれた一つの『名前』


 ――『魔女』。


 その名前を見て、魔女は手が震えていた。気づけば、本を地面に落としてしまう始末。


 この場でいくつもの記憶を語らなくてはならない者の名。

 いや、名前なんて大層なものではない。が、この名前に該当する人物を魔女は一人しか知らない。


 これまでいくつもの記憶を灯して来た少女の。

 ただの一度も己を振り返ったことのない少女の。


 誰も、知らないはずの少女の――『わたし自身』の記憶が刻まれようとしていた。


 ★


 ここは図書館。全ての記憶が灯される場。


 目の前に広がるのは、数多の記憶の数々。

 意図様々な記憶も、まだ、語っていない記憶も、これまで語り継いだ物語も、ここには森のように広がっている。


 図書館は、記憶の森。入り組んでいるように見えて、単純のようにも見える。

 複雑怪奇のように見えて、ただありふれた物語達でも、魔女にとっては新鮮なものだった。


 ――ただ、今は手元の一つの本しか目に入らなかった。


 空白の本に魔女の名前が刻まれてから、どれだけ経ったか。

 本を開くことも、語ることもせずに、ただ手元に置いているだけの日々。


 誰かの記憶を語る時も、その本は手放せずにいた。

 いつも、この本は魔女の意識を引っ張っていく。まるで、自身の名を刻まれた本を開け、と主張してきているかのようで。


 ――そこに描かれている景色は何なのか。


 魔女として生きた一人の少女の記憶は、どのようにして描かれているのか。

 それを考えると、本を開くのに躊躇いが、恐怖が、戸惑いがあった。


 長い年月、魔女は多くの記憶を読み解いてきた。

 それは英雄の凱旋、戦士の誇り、人々の未来――。


 そこには必ず『夢』があった。『願い』があった。

 ――皆が平等に持つことを許される輝きがあった。


 だから、それらがない魔女の記憶には、何があるのか。そんな畏怖な気持ちが、本を開かせるに至らなかった。


 魔女の記憶を灯したい。その気持ちに偽りはない。

 刻まれた記憶を語ること。それは『彼女』も含まれている。


 ようやく、そう、ようやく目を覚ました本。

 ずっと語れなかった、語ることが出来なかった名無しの記憶。


 そんな『彼女』だけを、仲間はずれにする訳にはいかない。だから、開かなければならない。


 静かに、震える手をそっと本に添える。

 情けない。自分の記憶を語ろうとしているだけなのに、このザマは何か。


 魔女は自分自身のことを何一つとして知らない。


 いや、自らを省みることをしなかった。魔女はいつも、他者の記憶だけを追いかけていた。

 ――まるで、それが当たり前かのように。

 ――まるで、それが宿命のように。


 けれど、それは根本的な間違っていたのかもしれない。


 使命としては正しいことをしていた。

 忘却へと向かう数々の記憶を語ることは、魔女にしか出来ないこと。


 それは『わたし』の役目。何もかもを知らない『わたし』の唯一知っていること。


 ただ、本当は語るべき記憶があったのかもしれない。

 語らなければならない記憶があったのかもしれない。


 そうでなければ、いま、手元にこの本があるはずがない。


 いつまでも語れることを待った。――待ったのだ。

 そんな小さな魔女の願いが、叶おうとしているのだ。


 それを『わたし』自身が否定してどうする。『わたし』が『彼女』を否定してはどうする。


 小さく息を飲み込む。

 そして、魔女はそっと本を開いた。



 ――そこには何も書かれていなかった。


 ★


 ここは図書館。語らぬ記憶が沈む場。


 過去の栄光は、水底へと還ろうとする。

 沈んで、沈んで、沈んで――。誰にも救い上げられずに、深い眠りへと入ってしまう。


 溺れれば、いずれは無くなってしまう。

 それが記憶だ。息が出来なくなれば、誰がそれを呼び覚ませるのか。


 ――だから、魔女がいる。

 ――だから、図書館がある。


 世界の記録者として、記録達が溺れ、迷わぬように優しく包み込まなければならない。


 そう、何度でも言おう。魔女は記録者だ。

 語れるのを、救われるのを待っている記憶達の拠り所だ。


 ――わたしは、記録者。

 ――わたしは、語り部。

 ――しかし、わたし自身の記憶は、ない。


 開いた本を、撫でるように見つめる。

 そこに広がるは、いつぞや本を開いた時と同じ。変わらずの白紙のまま。


 どれだけページをめくろうと、そこには何も書いていない。

 一つの文字すら刻まれていない。無が広がるばかり。


 だからこそ、魔女は分かった。それが、何を意味するのか。――魔女は分かっていた。

 これが、これこそが彼女の記憶なのだ。


 だれかの記憶を語るだけで、『わたし』自身の歩んできた物語などない。

 己という自我がない『わたし』が、彼女の記憶を追いかけることはできない。


 だから、空白。これまで歩んできた軌跡は、誰かの後を追いかけてきただけ。


 ――空っぽなのだ。何もかも、魔女がこの場にいたその日から。


 魔女は語るもの。

 そこに願いも希望もいらないはずなのだ。


 魔女は紡ぐもの。

 そこに夢などないはずなのだ。


 だから本は、その魔女に答えた。――答えた結果が白紙の本なのだ。

 恐らくは目覚めるはずのなかった本。それが、魔女の一つの渇望に答えて、目覚めてしまった。


 願いも、希望も、夢も、ない。そんな彼女のーー魔女の物語。


 この先、何年も、何十年も白紙のままだろう。

 生きてるようで、死んでいる。

 何者でもない。何者にもなれない。


 ――空白


 魔女を表す言葉で、これ以上の物語はない。

 他人の記憶を、追うだけの魔女に、それ以上もそれ以下もない。


 図書館は刻むべき記憶をはき違えない。

 だから、何も――何も違わない。


 ならば、この空白を語ろう。魔女として彼女を救い上げるために。


 本を持ち上げ、床に座りながら、魔女は語る。――語ろうとする。


「わ、たし、は、だ、れ?」


 おおよそ、語るに相応しくない音が響いた。いま、何か語ったのか。


 いや違う。何も語れなかった。何を語るべきなのか、分からなかったのだ。

 何せ、魔女に記憶と言える、物語はない。


 それが自らの音に乗って、この場に響いたのだ。


 何度も本に目を通す。

 通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。 通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。通す。


 変わらない。変わらない。――変わらない。

 何一つとして、語るに至れない。


 目に映る景色は、無色透明なまっさらなもの。それを語ることは、幾重の記憶を語ってきた魔女ですら不可能。

 ――空白を語ることなど、できない。


 結局のところ、前と何も変わらない。

 ただ悪戯に『魔女』と名前が記されただけで、この本は、変化を遂げることはなかった。


 そう。名前が刻まれただけ。

 本来ならば、この本は名前すら刻まれることは無かったはずだ。


 取り急ぎ、魔女と名付けられてしまっただけで、これを名前ではない。


 名前も、物語も、何もない『わたし』を表している本に、魔女の願いが届いてしまった結果の産物だ。

 適当で、中途半端。それが、この本だ。


 本があるなら、そこに語るべき記憶もある。

 そこに語るべき記憶があるのならば、それは語らなければならない。

 誰かの記憶を、誰かの生きた証を、誰かの育んだ結晶を。それが、この場での魔女の役割であるならば。

 魔女が魔女である限り、その役割から逸脱してはならない。


 ――他と違うのは、今回は誰かではなく、自分の記憶であること。


 語ることの出来ない『わたし』の記憶。

『わたし』が『わたし』として、役割を放棄しない限り、この本はずっと変わらない。


 ――ならば、役割を放棄するのか。


 違う。それはしてはならない。魔女は役割を放棄することを許されない。


 語る。それは魔女に残された唯一のこと。

 この場にいる魔女にしかできないこと。それを自らが箒してしまっては、いけない。


 考えた。

 ――空白しかない『わたし』を語るにはどうしたら良いか。

 考えた。

 ――なぜ、『わたし』は『わたし』のことを知らないのか。


 初めての経験だった。

 過程がどうあれ、魔女がこんなにも、自らのことについて考えたことはない。

 今まで、自分の在り方という者について、ここまで思慮したことなど、なかった。


 魔女の役目は、記憶を紡ぐこと。

 記憶という名の本に、物語と言う光を充て、その存在を無くさないこと。


 そこに自らの存在について、割り込む余地はない。


 今まで語ってきた記憶達を、思い返す。


 ある人間は勇者として、世界に蔓延る『悪』を打ち倒していた。

 それは紆余曲折ある、決して平坦ではない人生。

 ある時は喜び、ある時は悲しみ、ある時は苦しみ、ある時は嘆き――。


 ある人間は人里の多い集落で生まれ、何不自由なく過ごしていた。

 そこに激動という言葉は見つからず、人生と言う言葉を体現したかのようで。

 ある時は楽しみ、ある時は笑い、ある時は泣いて、ある時は悩んで――。


 ある人間はどこで生まれたのか、自らが把握していなかった。

 そこに待ち受けるは暗闇と光。絶望と希望が隣り合った人生を歩んでいき。

 ある時は僻み、ある時は恨み、ある時は信じ、ある時は歓喜して――。


 ――あった。

 どの物語たちにも願いも希望も。


 ――色がついていた。

 魔女みたいに、無色透明な記憶ではなかった。


 そこには感情があって。

 意思があって。

 心があって。

 名前があって。

 誰もが同じ色をしているようで、誰もが違う色をしていて――。


 思い返して、思い返して――そして、ようやく理解するのだ。

 ――魔女は、ただ記憶を読み上げる存在でしかないことに。


 魔女にとって、記憶はただ読み上げる者。

 それを忘れないように、忘れさせないように、誰もが生きた証を無くしてはならないように。

 読んでいて、楽しい物語には幾重も出会えた。出会えてなお、魔女は理解しきれていなかった。

 ――だから、『わたし』を知らなかった。


 魔女は語ることしかできないから。語ること以外に何もできないから。だから魔女はここにいる。

 そんな存在に、他の色を見せる資格などあるはずがないのだ。


 それはきっと、幸福なことなのかもしれない。――そして、酷く残酷なことなのかもしれない。


 ――誰も、自らでさえ、その記憶に触れることができないのだから。


 ――ああ、そうか。そうだったのか。

 そこまで至って、魔女は初めて自分という存在を理解した気がした。


 この本は誰かの記憶を語ることで存在し続けている。

 そこに一片たりとも、『わたし』という自我も私情を挟むことも許されない。――それは、この場ではお気に召さない行為らしい。


 図書館からすると、きっと『わたし』はかなり面倒くさい存在なのだろう。

 生まれたての赤子が、何年もその身の時を止まらせたまま、時間に身を置いた結果がこれだ。

 成長を知らない無垢な無機物。

 無機物に、自我はない。無機物に、私情など関係ない。


 何を刻むにも、何も刻めない。

 他人を覗き見ること『だけ』しかしない存在に、物語を刻めという方が無理ある。


『わたし』は誰。

 それを『わたし』自身が知らないのに、これまで歩まなかった記憶に委ねるのは、虫が良いと言う話。


 魔女は『わたし』を知らない。誰もが知っているはずの『それ』を魔女は知らない。

 この身体は『わたし』のものではあるけれど、魂は借り物なのだから。


 ならばどうすればいいのか。――否、『どうすれば』など誰かに問うことなどできない。

 だって魔女はそもそも、誰かではないから。


 ――だったら、どうすればいい?


 結局、問題は振り出しへと駒を戻される。

 一歩ずつ解いてきた糸を、知らない間にまた雁字搦めにされた感覚。これが、今まで自らを省みなかった代償なのだろうか。


 ――でも。それでも。それらを知ることができた。それらの感覚を知ることができた。


 振り出しに戻されても、魔女が持ち帰ることができた手土産がある。

 感情の波に揺られながら、初めて感じることができた『わたし』。

 ――なら、また考えるだけだ。


 何度も何度も戻されても、その度に魔女が何か一つ持ち帰れるものがあれば良い。

 それを人々は成長と呼ぶのだろうと思いながら、魔女は考える。


 ――何度も、何年も、何十年も、何百年も、時間をかけてしまったが、魔女に初めて自分に歩み寄れる時間が、いま、初めて作られたのだ。


 ☆


 ここは図書館。誰かの記憶が刻まれ、だれかの記憶が語られる場。


 この図書館で、記憶を語る存在が一人。

 その存在は、世界の記憶を語り、物語へと昇華させるのが役割だった。


 ――魔女。


 それが、その存在の名だ。名なんて大層なものではないが、それが自らを称するのには正しいのだと、どこかで感じ取っていた。


 そんな魔女が今まで語ってきた記憶は数知らず。自分でも数えるのは、骨が折れるのではないかと思う所存。

 でも、それでも。光を灯した物語の数々を、一つも忘れたことはない。忘れてはならない。忘れることは許されない。そんな物語たち。


 だから、ここに語ることのできない記憶がある時、魔女は初めて困惑の色を見せた。

 それが困惑なのかは、魔女からすれば分からない。誰かから教えられたことがない。


 だから、魔女はその感情の揺さぶりを困惑とすることにした。


 困惑すれど、魔女には対処が分からない。

 何せ初めてのことだ。名前も、中身も空白。語ることしかできない魔女に、それ以上も、それ以下のこともできない。


 できないから困った。

 できないから悩んだ。


 そんな訴えが本に通じた結果、『わたし』が生まれた。生まれてしまった。


 魔女は『わたし』を知らない。『わたし』は魔女のことを知らない。

 魔女の物語は空白だった。そこに刻まれたのは適当な名だけ。中身に刻まれる物語はなく、まるでこの無を語れ、と言うかの如く。


 だから、魔女はその通り、空白を語ろうとした。

 それが『わたし』の意志なら、その訴えに魔女は正しい回答を叩きつけようとした。


 無に刻み込まれる空白に、意味を与えようとした。

 そこにどんな想いを込められたのか、誰に語れることでもないけれど。


 ――だから、それが出来なかった時、魔女は深く悩んだ。


 どうしたら語ることができるのか。

 悩んで、悩んで、考えて、考えて、魔女は一つの問いが脳裏に浮かんだ。


 ――『わたし』は誰なのか?


 魔女は答えを持たない。その問いに対しての答えを持ち合わせていない。

 そもそも、自分は何なのかなど考えたこともなかったのだ。考える必要などないと思っていたから。

 だが、そんな疑問が魔女の中に芽生えてしまった。気付いてしまった。


 それは不安や恐怖といった感情にとても似ていたけれど、どこか違っていたような気がすると魔女は感じていた。

 この感情を抱いてしまうということは、何かを間違えているのだろうかと悩みもしたけれど、結局答えは出なかった。


 答えは応えない。応えないくせに、いつも思考は振り出しに戻ってしまう。

 そうして、魔女は少しずつ自分の理解を深めていった。


 ただ、振り返えってなお、持ち帰れるものは少ない。

 それほどまでに、自分という存在は、何も持ち合わせていないのだ。


 空白で、色がなくて、何もない魔女の、自分を求める旅路。

 長くて、果てしない道のり。そこに近道なんて言うものは存在しない。

 小さいながらも、一歩と呼べない足跡ながらも、魔女は歩き続けた。


 ――そう。考えて、考えていって。


 そうしているうちに、前よりも少しだけ、この問いの答えに近づけた気がした。

 答えが何なのかは分からない。だけど、この感情を抱いた時点で、答えは近い気がした。


 ――『わたし』は誰?

 この疑問を持つということは、自分が何者なのか知りたいと言うこと。


 だけど、知るために何が必要なのか。記憶なのか、そこに至れるための物語なのか。

 否、そのどれでもない。


 魔女にはこれまで歩んできた人生はない。

 自らの体に、借り物の魂だけで、この場にいることを許されているだけ。


 自分には何もない。だから、魔女の思考は同じ場所を彷徨う。

 自分を知りたい。知りたい。知りたいはずなのに、何もない自分を知ることができない。


 ――『わたし』は誰?

 同じ場所を彷徨って、遠回りをして、ぶつかって、足を挫いたりして。――そして、魔女は辿り着いた。


 自分が何者かを知りたいのなら、自分のことを知れば良い。自分のことを知るためには、自らを知る必要があるから。


 ――知るためには、まず在らなければならない。

 ――在るためには、示さなければならない。

 ――示すためには、与えなければならない。


 だから、魔女は思考を巡らせる。

 自分を知るために、自分に与えられるものを考えるために。


 自分に必要なものは何か。誰にもあって、自分に存在しないもの――。


「な、まえ」


 ――名前。

 そうだ、名前だ。自分にはまだ名前と呼べるものがない。

 いや、もしかしたらあるのかもしれない。ただ、どこに問いかけたところで、その声は返ってこない。


 当たり前だ。この問いには答えがないのだから。答える人もいないのだから。

 だから、答えのない問いに委ねるのではなく、自らが答えて、自らが付ければ――。


「――ぁ」


 その声は無邪気なものだった。


 今まで綴じたままだった頁に、ようやく言葉が流れ出したように。

 巡ることのなかった内側に、静かな温度が宿ったように。


 あった。

 答えはここにあった。


 ――なんだ。答えなんて、求めてしまえば簡単ではないか。


 そんな音が漏れ出してしまうほど、酷く単純だった。


 今まで答えだけを欲していた。

 答えだけを欲して、自らその答えを生み出そうとしなかった。


 そう。答えのない問いをずっと求めていたのだ。

 そのようでは誰も分かるはずがない。


 なら、どうしたら良いのか。


 魔女の物語は空白。これまでも、恐らくこれからも変わらない。

 嘆いていても変わらない。答えを求めても、誰も答えられるわけがない。


 ――だから、紡げばいいのだ。自らが空白に書けばいいのだ。


 自らが、自らを俯瞰して、空白の本に刻み込む。

 生憎と、自分に歩み寄った時間は沢山あった。今なら、魔女は『わたし』の人となりが少し理解できている。


 そうすれば、この本は語り出す。本と題された記憶は語るのだ。


 こに空白があるのなら、そこに自分を与えればいい。そして、その答えが示すように、魔女は深く考えるようにして、自らにも名を刻んだ。


 名前を得るのは辛かった、

 名前を得るのは怖かった。


 ――それでも自らが刻んだ名前を抱きしめたいと思った。


 ――ライラ。


 それは新たな生命の誕生。自らに刻み込んだ名前は、心に、体に浸透する。

 名前にはどうやら意味が込められるらしい。


 ライラ。

 魔女は少し考えて、ある物語からその名前を拝借するように、自らを名付けた。

 意味は、確か、そう――夜の天使。


『わたし』はまるで朝焼けを知らない夜。この図書館に朝は訪れない。そこに眠る物語たちを導く存在。

 一人の天使として、物語たちを願わく場所まで連れていく者の名だ。


 名付けて、少し気恥ずかしさを覚える。魔女から天使へと昇格。自分でつけておいて自惚れるにも程がある。


 ――ただ、今はそれでいい。そうやって『わたし』は私を認めていければいい。


 そうして、長らく息を潜めていた魔女の本は、歓喜の声をあげるかのように、淡い光に包み込まれた。


 ――『魔女』ライラ


 題名に新たな名前が刻まれた。ただ、魔女という肩書きは消えることはない。

 ――『わたし』は魔女だ。そこに偽りがあってはならない。


 そして、ライラはこの物語の始まりとなるその一文を、自分の本の最初のページに刻んだ。


 ――ああ。ようやくだね。ようやくあなたを語れるね。長く時間をかけてごめんなさい。


 ――そして、今こうして紡がれている物語は始まりの音を告げた。


 ☆


 ここは図書館。全ての記憶が紡がれる場。

 そして今、新たに生まれた一つの輝きが、一つの終着点を迎えようとしていた。


 何も齎さなかった魔所は、自らに新たな一歩として、自らに名を与えた。


 ――『魔女』ライラ。


 それはひとえに夜に寄り添う者。

 静寂の中に優しさを湛え、光の届かぬところにも、そっと手を差し伸べる者。


 夜の天使とは上手く言ったのもだ。

 ここは、人間からしたら死後の世界と同義。そこに蔓延る存在として、これ以上の名目もない。


 人間の死は、物語の死だ。その行きつく先がこの図書館。ここでは何も生まれない。


 ――だからライラには、物語と言える記憶がなかった。


 ライラの本には、空白が一つだけ。それ以上も、それ以下でもない。悲劇も喜劇も、何にもない。そんな空白が一つ。


 そんな空白の本に、始まりの言葉を刻んだ時、図書館に満ちる星々の光が、より一層輝きを増した。


 ――それは喜びだった。

 ――それは始まりだった。

 ――それは永遠だった。


 そこでライラは知った。

 ライラには物語を『始めるための時』が来ていなかっただけなのだと。


 考えて、考えて、考えて、そしてようやく見つけた。

 未熟で、まだ色づき始めたばかりの――でも確かに『わたし』と呼べる何かを。


 記録者としての使命は変わらない。

 語り部としての在り方も変わらない。

 けれど、それらに『わたし』という意味を与えることが、ようやくできた。


 ――今まで、他人の色を語ることしか出来なかった語り部の、自らを語る物語が幕を開けたのだ。


 それを祝福するかのように、星々は輝きを増していく。

 煌びやかな壮観に息を飲むものもいるだろう。

 ただ、この図書館が星の光が満ちた先に待つのは終焉だ。全ての物語が消え失せ、虚空と化す。


 その先に何が待ち受けるのか。

 ――物語たちの死が始まる。畏怖すべき死が、図書館の崩壊と共に音頭を鳴らす。


 そこからはライラだけが、物語を知る存在になる。

 何のために語り継いできたのか。それらの物語を亡き者にしないためだ。

 誰に言われた訳でもない。ただ、ライラがここにいた時からそれだけは知っていた。


 ――終わりを迎えた者へ最後の贐を渡すこと。


 そう。ライラは知っていた。ここは終焉を迎えるために存在する場所。

 すべての記憶は、すべての物語は、星々となり、やがて空へと還っていく。その終わりを見届ける者――それが、ライラだった。


 たとえこの図書館が失われようとも、語られた物語たちは、彼女の中に確かに宿っている。


 それらは決して、無へと帰すものではない。

 一度でも、誰かが生き、誰かが願い、誰かが夢を紡いだならば、たとえ世界が終わろうとも、その輝きは消えることはない。


 一つの本を、大事に抱える。

 空白だったその本には、もう確かな存在が刻まれている。

 名前を持ち、問いを持ち、迷いながらも自らを知ろうと歩みだした『ライラ』という存在が。


 図書館の空を満たした光たちが、静かに流れ落ちる。

 まるで、長い夜の終わりに降る、星の雨のように。



 ――もう、この場の終わりは近い。

 崩壊が、終焉が、滅びが、喉元まで迫ってきている。魔女ライラが語るべき記憶は終わろうとしていた。


 全て、全て語った。ライラが『わたし』を確立するまでも、ライラは語ってきた。

 語らなくても、この場は滅ぶ。語っても、この場は滅ぶ。

 星の光が満ちた先にある終わりと、満たされなかった終わり。


 今は、その後者に近い。崩壊の兆しが、静かに、確かに、辺りに現れ始めていた。――その理由は一つだけ。

 まだ語られていない一つの本。それを語り終えた時、この場は完成を迎えることが出来る。


 魔女としての役目。ライラは、それをいま、果たそうとしていた。


 語るべき記憶が、途中から押し寄せてこなくなった。――それはもう、ライラが語るべき記憶は無くなったということ。


 見え始める崩壊の兆し、語り終えた図書館の物語たち。

 ここまで至って、ライラの記憶は刻むべきものを終えた。


 だから、あと一つ。

 最後に、まだ語り終えていない最後の物語を語って、ライラの役目は終わりだ。


 ライラは語り始める。自らが刻んだ記憶を。

 これまで生きた『わたし』のために。――そして、すべてを終わらせるために。



 語り終えて、ライラは名残惜しみながら、本を抱える。

 そして、それを羽ばたかせるようにして、ライラは一つの言葉を紡ぐ。


「わたしは、ライラ。物語たちの語り部――ここに生きた全てを、忘れない者」


 はっきりとした音だった。

 この音が、この場を締めくくる最後の音だ。


 思い返す。語ってきた数えきれない物語たちを。

 ――そして、ようやく芽生えた『わたし』という存在を。


 言葉は静かに、しかし確かに世界に染み渡る。

 それはやがて、最後の物語となって、すべてを包み込む。




 ――図書館の崩壊は、始まった。


 ☆★


 ここは図書館。星々輝きがすべてを覆いつくした場。


 ――終わりの時は訪れた。

 世界の物語たちは、その命を燃やし尽くした。

 かつてあった悲劇も、喜劇も、絶望も、希望も、誰かが生きた証も、すべて光となり、そして今、静かに消えようとしている。


 崩れ落ちる本棚たち。音もなく崩れる壁。流れゆく無数の本たちは、空へと溶けていく。

 その中で、ライラは一人立っていた。空へと帰す物語たちを、静かに見守っていた


 崩壊したとしても、この場は壮観を保っている。この崩壊すら、もはや芸術の一つとして見て取れるものだ。


 崩壊はつまり、物語たちの死。


 でも、忘れてはならない。図書館そのものは消えても、そこに刻まれた記憶は消えないということを。


 なぜなら、その記憶を抱く者――ライラが、ちゃんといるから。

 語られたものは、もう二度と無には帰らない。語る者がいれば、世界は、命は、繋がり続ける。


 図書館はそのために存在していた。

 最初から、最後まで、ただそれだけを信じて――。


「さようなら。わたしの愛したすべての物語たち」



 やがて、すべてが静寂へと飲み込まれる。

 光も、音も、存在も、すべてが静かに、優しく、終わっていく。

 それは恐ろしいものではなかった。――それは、祝福だった。

 すべてを語り尽くした者にだけ与えられる、穏やかな旅立ちだった。


 最後に残ったのは、一つの微かな光。

 それは星となり、夜空の彼方で、静かに、静かに瞬いていた。


 その星の名前は、誰も知らない。

 けれど、それは確かに存在する。

 ここに、世界に、誰かが生きた証として。



 ――ここは図書館。すべての記憶が紡がれた、最後の物語の庭だった。

 そして今、ライラという一つの灯火が、静かに、永久に、夜を見守っている


読みにくいし、面倒くさい魔女のお話でした。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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