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タイムスリップ北海道  作者: いばらき良好
第二部 世界のゆくえ
26/30

18の1 海上自衛隊

 護衛艦「すずなみ」は「おおよど」「ちくま」と共に横須賀に帰港した。

 秩父宮様をお見送りして原田が戻ると、護衛艦指揮の斉藤司令官が真剣な表情で報告して来た。

「大変です。フランス艦隊の多数が東京に向かって来ています」

「詳しく聞こう」

 シンガポール往復のこの旅で原田は、石田知事から臨時危機管理監に拝命されていた。

「北海道統合幕僚長の岩田陸将から、フランス艦隊が東京に向かっているとの連絡がありました。命令は東京防衛でありますが」

 斉藤司令官の歯切れが悪かったのは、自衛隊が初参戦することだけではなく、臨時とはいえ危機管理監の原田の方が、統幕長より上位にあたるということであろう。

「まずは情報収集だ。敵の数と位置は」

 原田の問いに、斉藤司令官が応じる。

「帝国海軍の無線から、フランス艦隊は戦艦八、空母一、巡洋艦五、駆逐艦多数であります。現在、父島沖を北上中。なお帝国海軍の留守部隊は呉にて出港準備中であります」

 留守部隊と言っても少数で、大多数が連合艦隊として、豪州上陸支援で南方にいることを原田たちは知っている。

 つまり今の海上即戦力は、東京湾にいる原田たちの護衛艦三隻しかないようであった。


「日本の危機です。戦いましょう」

 原田は戦うことを宣言した。元々は平和主義なのだが、日本国民の安全のためには、戦うべき時には戦うしかない。

 斉藤司令官も緊張した顔で頷いた。

 原田は、大浦仁艦長、斉藤司令官と共に艦橋に立った。

「では改めまして、危機管理監から斉藤司令官に命令します。敵艦隊から日本を守るために戦え。以上です」

「敵艦隊から日本を守るために戦え。了解しました」

 これで政治的な儀式は終わりだ。戦闘はプロに任せた方が良い。


「我ら『すずなみ』『おおよど』『ちくま』は三〇ノットで八丈島沖に向かう。厚木の第五航空軍および呉の留守艦隊とコンタクトを取れ。大湊と千歳も忘れるな」

 平時は静かな斉藤司令官だが、今は全身から昇る熱気と気迫が伝わって来る。

「了解。八丈島沖に向かいます」

「艦内の全隊員へ、戦闘配備。これは実戦である。繰り返す、これは実戦である。SSM(艦対艦ミサイル)の点検、よくしておけ」

 大浦艦長が艦内に喝を入れた。

「艦内のデータから敵の情報を精査しました。フランス戦艦は『ダンケルク/ストラスブール/ブルターニュ/プロバンス/ロレーヌ/クルーベ/オセアン/パリ』、空母は『ベアルン』です」

「留守艦隊の伊藤整一少将から、明日二十六日〇六〇〇時に砲戦を予定する、以上です」

 つまり援軍の来る明朝まで敵を食い止めれば良いわけだ。


「レーダーに感あり。上空を味方空軍機が飛んで行きます。その数およそ一〇〇機」

 原田は腕時計を見る。十二時五分であった。

「長丁場です。戦の前に腹ごしらえを、交代で昼飯を食べておきましょう」

 原田の提案に、斉藤司令官が返事した。

「原田さん、お先にどうぞ。戦闘は夜でしょうから、休憩していて下さい」

「有難う。じゃあ、よろしく」

 原田は仕官食堂に一番乗りして、チキンを頬張った。忘れていたが今日はクリスマスである。


 厚木にある第五航空軍司令官の吉田喜八郎大佐は、大本営空軍部から敵艦隊発見と攻撃命令を受け取った。

「父島北東沖五〇〇キロを戦艦八、空母一、巡洋艦五、駆逐艦多数の仏艦隊が、二一ノットで日本に向かっている。第五航空軍はこれを攻撃せよ。以上です」

 通信参謀が読み上げた。

「了解した。館内放送で、すぐに飛行隊長の岩橋譲三大尉を呼べ。さらに戦闘準備の警報ならせ」

「はっ」

 通信参謀は走って行った。天気はあいにくの曇天である。

 まず、吉田司令官は仏艦隊の位置を確認したかった。

「東京から小笠原までの地図は在るか」

「はい、在ります」

 すぐさま参謀たちが動き出した。

「緊急、飛行隊長の岩橋大尉へ、吉田司令官がお呼びである。繰り返す。緊急、飛行隊長の岩橋大尉、吉田司令官がお呼びである。警報、全員に告ぐ、敵艦隊発見、戦闘準備」

 館内放送の後にサイレンが響いた。鳴り終わる前には、広いテーブルに地図が並べられ、岩橋大尉も走ってやって来た。

「岩橋大尉、入ります。吉田司令官、お呼びでしょうか」

 吉田司令官は、敬礼を返す。

「緊急事態だ。フランス艦隊が攻めて来た。父島北東沖五〇〇キロ、戦艦八、空母一、巡洋艦五、駆逐艦多数だ。我らはこれを迎え撃つ。地図ではこの辺だろう」

 赤い木片の駒を小笠原諸島の北東に置いた。

「味方潜水艦からの情報でしょうか、フランスは全力出撃のようであります。厚木からだと片道九〇〇キロ、往復一八〇〇キロなので単発機と双発機の両方行けますが、いかが致しますか」

 岩橋大尉は、吉田司令官にお伺いを立てた。

「航続力に余裕のある双発機で、索敵と攻撃をやってしまおう。失敗は許されないので、ここは奮発して魚雷および北海道の空対艦誘導弾も使おう」

 高価で高性能な誘導弾だが、ちょうど数日前に北海道から補給があったところだ。

「では、索敵および護衛に双発戦闘機『キ83』を四〇機、爆撃及び雷撃に双発爆撃機『銀河』を六〇機で出撃します」

 岩橋大尉は、吉田司令官に出撃許可を求めた。

「よし、頼むぞ。日本本土を守護するのが、我ら第五航空軍の役目だ」


 それから大慌てで魚雷や爆弾の取り付けが行われ、三〇分以内には一〇〇機の準備が叶った。これぞ訓練の成果であろう。

 今日は北風が強いので、北に向かって離陸する予定だ。

 準備出来た機体から、エンジンの暖気が始められ、飛行隊長の岩橋大尉が先頭の「キ83」に座乗した。

「無線の状態はどうだ」

 岩橋の問いに、戦闘一番から四番、爆撃一番から四番、雷撃一番から二番の小隊長一〇名が「良好」の返事をした。

「まず、『キ83』がその俊足を活かして敵艦発見と露払いを行う。『銀河』は後から付いて来て、爆撃と雷撃を行え。いくぞ」

 時刻は十二時、「キ83」が続々と空に舞い上がって、敵に向かって南下した。最高時速は八一二キロも出る。

 一〇分後、伊豆諸島近海で北海道の護衛艦三隻を追い抜いた。やはり戦うべく南下していたようだが、飛行機と船ではスピードが違い過ぎる。岩橋は、眼下に敬礼を送って、先を急いだ。


 一時間を過ぎたところで、岩橋は散開命令を出した。

「飛行隊長の岩橋だ。『キ83』は散開して敵艦を発見せよ」

 高度三〇〇〇メートルから雲の下に降りて、四〇機は左右に散開して行った。それから間もなく第一報がもたらされた。

「戦闘四番小隊より、敵艦隊発見。東経一四六度、北緯二九度三〇分」

「飛行隊長より全機に告ぐ。東経一四六度、北緯二九度三〇分に集まれ」

 岩橋の「キ83」も最大速度で、左翼方向の座標進路へと向かった。

「よし、いたぞ」

 仏艦隊だ。その数は三〇数隻あり、フランス唯一の空母は「ベアルン」に違いない。

 巨大な戦艦は、四連装砲塔が二基あるのがダンケルク級戦艦の二隻、連装砲塔五基なのがブルターニュ級戦艦の三隻、連装砲塔六基なのがクルーべ級戦艦の三隻である。

 少し小振りなのは一万トン級の巡洋艦で五隻。さらに駆逐艦は一八隻くらいであろう。


「敵の艦上機が上がって来たぞ。撃ち落とせ」

 上空を旋回しながら、岩橋は命じた。

 座学によると、ドボアチンD376は翼幅一一・八メートルの高翼単座艦上戦闘機である。形状は旧式の複葉機から下の翼を一枚抜いた形であり、最高速度は四〇五キロしか出ないそうだ。

 そこに翼幅一五・五メートルの「キ83」が、高速で襲い掛かり、鷹が小鳥を獲るようにして、ドボアチンを撃ち落とした。

「敵の航空機はたったの二〇機か。余った銃弾で敵戦艦を撃つ。行くぞ」

「キ83」は、二〇ミリ砲と三〇ミリ機関砲を機首に二門ずつ装備しており、襲撃機としても利用出来た。

 高度をぐんぐん下げて、眼前に迫る戦艦の艦橋に、銃弾の雨を叩き込んだ。艦橋の窓が割れるのが見える。おそらく艦橋内で弾が跳弾して、人的被害を起こしているに違いない。

 機首を引き起こして空へ上がると、敵を狙う「銀河」が待っていた。


「爆撃開始」

 岩橋は爆撃を命じた。爆装は四〇機である。

 次々に「銀河」からASM1とASM2の空対艦誘導弾が、敵艦隊に降下して行った。

 空母「ベアルン」が撃沈、ダンケルク級戦艦二隻が中破、ブルターニュ級戦艦一隻が中破、クルーべ級戦艦二隻が大破、巡洋艦五隻が撃沈、駆逐艦六隻が撃沈。


「雷撃開始。敵の被害戦艦を狙え」

 航空魚雷を抱えた「銀河」二〇機が降下し、狙いを付けて次々と魚雷を放った。敵艦も機銃を撃って来る。

 ダンケルク級戦艦二隻が撃沈、ブルターニュ級戦艦一隻が撃沈、クルーべ級戦艦二隻が撃沈、駆逐艦三隻が撃沈の大成果であった。

「よくやった。戦果を確認して基地に帰るぞ」

 日本軍機一〇〇機は、ぼろぼろになった仏艦隊上空を旋回して、帰投した。帰路で無線を打つ。

「ハツ岩橋譲三飛行隊長、アテ第五航空軍。大成果なるも戦艦三、駆逐艦九が残存するなり。第二次攻撃隊を要請する」

 しばらくして返信があった。

「厚木は雨と強風なり。さらに第二次を出すと夜間着陸に無理がでる。ここは海軍に任せて、第二攻撃隊は取り止めとする。大戦果は御苦労。無事に帰投してくれ」

 あの吉田司令官が絶好の機会を逃すはずはない。それほどの天気なのであろう。

「しょうがない。やるだけはやったさ。明日がある。明日だ」

 飛行隊長の岩橋は、そう言って自分を納得させた。


 夜の二十一時、敵のフランス艦隊まで六〇キロとなった。

 すでに護衛艦「すずなみ」から発進した哨戒ヘリが、位置特定のために敵の上空に到達している。

 昼間の空軍による波状攻撃で、フランス艦隊は一二隻にまで数を減らしていた。

 すでに空母は撃沈しており、残る戦艦は三艦であった。

 しかし、たった一艦でも見逃せば、日本本土のどこかが艦砲射撃される。野放しの敵艦隊などあっては困るのだ。

 だから今晩は、原田たちの三艦で守り通さねばならない。

 哨戒ヘリは、敵艦隊の上空から現地情報を自衛艦隊に送っていた。

「SSM発射」

 斉藤司令官は命じた。

 夜の暗闇の中に次々と巡航ミサイルは消えて行った。発射菅は四発×二基の八発なので、三艦では二四発になる。

 90式艦対艦誘導弾(SSM‐1B)は、最大射程一五〇から二〇〇キロをマッハ0・96の速度で飛ぶ。着弾はアクティブレーダーホーミングなので、諸元を入力しておけば、勝手に当たる。

 弱点としては、弾頭の二六〇キロ火薬では戦艦の装甲は貫けないということだ。

 それでも船は人間が動かしているので、ミサイルが当たれば決して無事では済まない。

「三戦艦に全弾命中、火災発生です」

 哨戒ヘリからの報告が入った。


「よし、接近戦で決着させる。最大戦速」

 斉藤司令官は、今が勝負どころだと判断した。

 カメラでは炎が見えた。およそ三〇キロ。

「距離二〇キロでアスロック発射」

 アスロックは対潜ロケットで、最大射程二二キロを飛び、落下傘で着水後は、音響誘導短魚雷となる。

 VLS垂直発射装置から、アスロックが宙に飛んで行った。


「敵戦艦、発砲」

 その瞬間、原田の脳裏に炎が見えた。ちょうど時空転移の前に光を浴びたような痛い気分であった。

「危ない。避けて」

「取り舵いっぱーい」

 原田の第六感に、大浦艦長も反応した。左回頭中にも、CIWS(近接防御兵器)が作動して、空中に二〇ミリ弾を猛烈な勢いでばら撒いた。

 数秒後に砲弾が落ちた近くの海面から、尋常じゃない衝撃が伝わって来た。

「凄い、これが戦艦か」

 艦内のCIC(戦闘指揮所)で原田は唸った。当たれば一発でお陀仏である。


「アスロックの魚雷が命中しました」

「よし、敵戦艦の足は止まったぞ。魚雷戦よーい」

 各艦六発の短魚雷を積んでいる。

「魚雷発射」

 進路を調整しつつも、片舷ずつ魚雷を放った。

「砲撃戦よーい」

「目標、敵艦隊の右翼から、撃て」

 一二七ミリ単装速射砲が猛烈に火を噴いた。「おおよど」と「ちくま」は七六ミリ単装速射砲である。

 戦艦でも駆逐艦でも構わずに撃ちまくった。敵もこちらの発砲炎目掛けて撃って来る。

 いつしか二十三時になっていた。

「戦闘終了。いったん北に退く」

 斉藤司令官は、砲塔内の全弾を撃ち尽くして、戦場を離脱した。


 明朝、伊藤整一少将の留守艦隊が昨晩の戦場に到着すると、仏艦隊は傷ついた駆逐艦五隻のみで、仏艦隊司令長官のエミール・ミュズリエ少将は白旗を上げて降伏した。

 戦艦はダメージが酷いため、鹵獲を恐れて自沈処理したそうだ。

 無線報告を受けて、原田たちは北海道への帰路についた。

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