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タイムスリップ北海道  作者: いばらき良好
第二部 世界のゆくえ
24/30

17の1 大艦隊

 開戦から一年と三ヶ月半の一九四〇年十二月二十一日。

 日本軍はオーストラリア侵攻作戦を来月に予定し、着々と準備を進めていた。

 それを知ったイギリスのチャーチル首相。

 インド独立、カナダ売却、北アフリカを放棄したイギリスにとってオーストラリアは、とても重要な土地であった。何よりも対日戦の形勢を逆転させたい。そこでオーストラリア救援に、東洋艦隊を向かわせた。

 驚くのはその規模で、戦艦一一隻、空母四隻、巡洋艦一一隻、駆逐艦三〇隻。イギリス海軍全体の三分の二の艦数を繰り出して来た。

 日本の主な保有艦艇数は、戦艦一一隻、空母四隻、輸送用の護衛空母一五隻であるから、同数の戦艦・空母をぶつけて来た計算だ。


 日本海軍で軍令部次長の井上成美中将は、アフリカ各地における独立主義的協力者から、この情報を集めて、スラバヤにいる豪州軍総参謀長の石原莞爾中将に連絡を入れた。

「海軍の井上です。去る十二月二十日に敵の大艦隊が南アフリカを出港しました。日本の連合艦隊はシンガポールにいますから、まもなくインド洋決戦でしょう。豪州作戦を少し延期しては如何でしょうか」

 陸海軍が仇同士だったのは昔のこと。現在は、まあまあ意思疎通が取れている。

「日露戦争と同じで連合艦隊が勝つと信じています。逆に陸軍は予定を早めます」

 石原は敵艦隊接近にも動じず、日露戦争でバルチック艦隊を破った連合艦隊の故事を持ち出した。

 ちなみに当時の満洲軍総参謀長は天才・児玉源太郎であった。児玉は参謀次長から満洲軍総参謀長に転出した。石原自身が豪州軍総参謀長に転出した理由、それは日本勝利の再現であった。


 豪州軍の計画は、オーストラリア北部のダーウィンに上陸して、輸送船や護衛空母などを総動員して、東西両翼からオーストラリアを制圧する予定だ。

 井上はなまじっか海の専門家ゆえに、最悪のケースを想定してしまったが、陸海空軍のトータルで考えると、日本軍が世界一強いのは間違いない。

「それでは前田利為大将と決行日について再考します。井上さん、有難う」

「こちらこそ、ではまた」

 井上は、北海道技術で出来たデジタル高性能無線電話を終えた。


 同じく二十一日、原田は秩父宮様のお供としてシンガポールに来ていた。

 戦時中ということもあり、石田知事は護衛艦を三隻も出してくれて「臨時危機管理監」の職務を原田に与えてくれた。

 基準排水量四六五〇トンの「DD114すずなみ」を旗艦にして、二〇〇〇トンの「DE231おおよど」と「DE233ちくま」を付けてくれた。

 赤道直下のシンガポールは蒸し暑い。今の気温も三四、五度はあるだろう。

 戦争の傷跡もあったが、焼け残ったビルに北海道の全館空調システムを取り入れることで、亜細亜大洋州機構の本部や会議室として使えるということになった。

 原田は秩父宮様たちと、現地のレストランで優雅に英国風のランチを食べ、会話をしながら、ゆっくりと紅茶も嗜んだ。


 ところが午後になると、シンガポールは大鍋をひっくり返したような騒ぎとなった。

「どうかしましたか」

 原田は外に出て、走る海軍士官に尋ねた。

「イギリスの大艦隊がやって来る。戦艦一一隻、空母四隻、その他多数だそうだ。出港準備で忙しいから、これで」

「すみません、有難うございました」

 海軍士官はあわてた様子で走って行った。

「殿下、海戦が始まります。すぐに日本へ戻りましょう」

「はい、分かりました」

 第一に秩父宮様のお命を守らねばならない。敵の捕虜になってもダメだ。そんな原田の心配をよそに、泰然自若として慌てない秩父宮様。さすが高貴なお方である。

 待たせていたハイヤーで港へ、さらに歩いて船に戻った。


 護衛艦「すずなみ」で原田らは、第一五護衛隊司令官の斉藤貴志海将補にも事情を説明し、急いで出港してもらった。停船中の奇襲では余りにも無防備だからだ。

 シンガポールから東へ二〇キロ退避した海上で、

「宮様、具体的に英艦隊との決戦は、相手次第ですが、三、四日後だそうです」

 斉藤司令官が情報を集めてくれた。

「少し安心しました。奇襲では無かったのですね。油断さえしなければ、連合艦隊は負けません。我々は足手まといにならないように帰りましょう」

 三隻の護衛艦は単縦陣で横須賀に向かって舵を取った。


 連合艦隊司令長官の小沢治三郎中将は英艦隊の情報を聞いて、その多さに驚いた。

 戦艦一一隻、空母四隻、巡洋艦一一隻、駆逐艦三〇隻だという。英国は本気だ。

 オーストラリア侵攻作戦のためにシンガポールに居たのは、小沢司令長官の指揮する戦艦「大和/長門/陸奥/扶桑/山城/伊勢/日向」の七隻と航空重巡四、雷装軽巡五、駆逐艦一九の主力艦隊であった。

 インド方面援護のためにスリランカに居たのは、山口多聞(少将)司令官の指揮する空母「赤城/加賀/蒼龍/飛龍」の四隻と防空軽巡六、駆逐艦二〇の機動艦隊であった。

 戦艦は一一対七と不利である。「大和」の性能に勝敗の行方がかかっていた。

 主力艦隊と機動艦隊は南下してジャワ島西方沖のココス諸島周辺で合流し、英艦隊との決戦を画策した。


 三日後の二十四日、豪州北部ダーウィンに日本の豪州軍が上陸した。石原総参謀長が動いたようだ。オーストラリア侵攻作戦は開始された。

 連合艦隊は、英艦隊を探してさらに南下した。英艦隊がオーストラリア救援に来るのは解かっている。そのために石原らはダーウィンに上陸して、自らが標的となってくれているのだ。

「探索の『三座水偵』が発艦して行きます」

 空軍の連絡参謀・大畠次郎大佐が教えてくれた。

「ああ、頼むぞ」

 戦艦「大和」の昼戦艦橋にいる小沢司令長官にも、空に上がって行く「三座水偵」が見えた。頼むから敵艦を早く見つけてくれ。戦艦対決までに航空戦で漸減しておきたいものだ。

「レーダーに感ないか」

「はい、放射状に飛ぶ味方機だけです」

 戦艦と空母には対空レーダーと水上レーダーが装備されている。未来技術の導入で、そのレベルは高い。フェイズドアレイまでは再現できなかったが、回転式で二〇〇キロ先の航空機を探知できた。

 惜しむらくは航行速度だろう。全体の艦速は戦艦「山城」の最高速二四・五ノットに合わせてあった。

 戦艦「大和/長門/陸奥」は最大船戦速三〇ノット以上に機関改装されているので、まだまだ余裕がある。

 もし、低速の別動隊として戦艦「扶桑/山城/伊勢/日向」を切り離した場合、その主砲四八門が無駄になる。

 ここは焦らずに時期を見るしかない。


 翌朝二十五日午前一〇時、そんな小沢司令長官のもとに朗報がもたらされた。

「小沢司令長官、英艦隊を発見いたしました。敵は二群。

 英第一艦隊は、戦艦四、空母一、巡洋艦四、駆逐艦一〇で速度二七ノット。

 英第二艦隊は、戦艦七、空母三、巡洋艦七、駆逐艦二〇で速度二〇ノット。

 二群ともダーウィンに向かっています」

 大畠空軍連絡参謀が説明した。敵は兵力分断の愚を冒してまでも、速さを優先させたらしい。二七ノットで日本の戦艦群を振り切るつもりなのだろう。


「山口多聞少将に命令。引き続き機動艦隊の指揮を執れ」

「三川軍一中将に命令。第二艦隊(扶桑/山城/伊勢/日向)を分離、指揮を執れ。駆逐艦八隻を付ける」

「主力艦隊は三〇ノットで英第一艦隊に追い付き、砲戦と雷撃戦を仕掛ける。以上」

 矢継ぎ早に小沢司令長官は命令を下した。

 戦艦「大和」は第二艦隊を置いて、ぐんぐんと速度を上げると、他の艦も三〇ノットに加速した。三〇ノット(時速五五・五六キロ)で走る巨大戦艦とは豪気だ。


「『疾風』四〇機、『流星』三八機、英第一艦隊に向かいます」

 空軍の塚原二四三中将が動いた。その六分後にも、

「『疾風』四〇機、『流星』三八機、英第二艦隊に向かいます」

 空軍参謀が伝えてくれた。空母は四隻だが、「赤城」と「加賀」にはカタパルトが二基ずつあるので、発艦が速かった。

「最高時速は『疾風』が六九七キロ、『流星』は六三〇キロですが、イギリス艦載機はシーファイアが六三一キロ、ソードフィッシュが二二四キロであります。空中戦で我が空軍は負けません」

 空軍参謀が性能を比較して説明する。練度も高いので期待できそうだ。


「距離五〇〇海里です。敵予測進路へ転舵しても、よろしいですか」

「許可する」

 航海参謀と宮里秀徳(大佐)艦長に任せた。戦艦「大和」は僅かに左へ回頭した。

「空戦にも依りますが、二十六日深夜三時に最接近いたします」

「夜戦か、いいだろう」

 小沢司令長官は、零観で夜空に照明弾を落とそうかとも考えた。


 東に二七ノットで向かう英第一艦隊には「艦爆の神様」こと江草隆繁少佐(三十歳)率いる「流星」三八機が攻撃を仕掛けた。

「第一目標は空母だ。いいか、絶対に沈めるぞ」

 江草は、航空無線で全機に伝える。

 英第一艦隊は三縦陣で、前後を重巡が固めた中央には戦艦が四隻と空母一隻が居り、軽巡一隻と駆逐艦五隻ずつが左右に対で一列に並んで、水雷防衛をしていた。

「空母はアーク・ロイヤルだ」

 外交情報に加えて、速度や二万二〇〇〇トン級の大きさから、そう判断した。


 戦艦のポンポン砲が、対空弾を連続して射上げて来た。

 さらには、スピットファイアの海軍版であるシーファイア戦闘機が、二〇機以上も直援に上がっている。

 これには味方の嶋崎重和少佐(三十一歳)率いる「疾風」四〇機が、二〇ミリ機銃を掃射して襲い掛かった。

「今のうちだ。一番隊、我に続け」

 江草の「流星」一番機は、空母アーク・ロイヤルに向かって急降下し、目標を定めたところで五〇〇キロ通常爆弾を投下した。

 後ろの僚機も続いて投下したであろう、ポンポン砲を後ろに見ると、空母から炎が上がっていた。艦中央の甲板を突き抜けた一発の爆弾が、どうやらガソリンタンクを直撃したらしい。他は至近弾として水柱が四つ上がった。

「よし当たったぞ。二番隊、三番隊、空母にトドメを刺せ」

 江草は上空で指揮する。

 煙の上がっている空母の左右前方から、五機ずつの「流星」二隊が急降下して、爆弾を投下した。その一〇発のうちの二発が、空母に当たって爆発した。

 直後に空母アーク・ロイヤルは、艦尾から海底に沈んで行った。轟沈である。

 上空では数機のシーファイアが戦っていたが、母艦沈没のショックからか、「疾風」に圧されて撃墜または海に不時着した。

 英艦隊の三縦陣は、もはやバラバラであった。


「次の目標は四戦艦、雷撃を開始しろ」

 江草の周りに上がるポンポン砲弾。8の字に旋回して避ける。

「流星」の四番から六番隊の計一五機は、各隊がそれぞれ雷撃を行って、戦艦四隻を小破させた。

 今回は秘蔵の北海道産・高性能爆弾も用意していた。

 ASM1 八〇式空対艦誘導弾(慣性+アクティブ・レーダー)重量六〇〇キロを四発。

 ASM2 九三式空対艦誘導弾(慣性+赤外線画像誘導)重量五三〇キロを四発。

 誘導弾を抱えた七番隊の八機は、ダメ押し爆撃で戦艦四隻に二発ずつ命中させた。

 ハイテク誘導弾は当たって当然であり、戦艦の船足を遅くしたが、おしいのはその威力の小ささである。

 未来のアルミ合金で出来た護衛艦と、鋼鉄の塊である戦艦とでは、防御力が別物であった。


 一方、英第二艦隊は、巨大な輪形陣を採用していた。

 上空に達した「雷撃の神様」こと村田重治少佐(三十歳)は、「流星」の航空無線で「疾風」隊長の板谷茂少佐(三十歳)に「凄い光景だな」と思わず叫んだ。

「ああ、戦艦が二・三・二の七隻、空母が三隻、小さい艦艇は三〇隻くらいか」

 板谷も驚いたようだ。

 航空偵察の報告の通りなのだが、聞いてイメージするのと実際に見るのとでは、迫力が違う。

 村田は、初弾での命中を狙った。

「ASM1及びASM2を、空母に当てろ」

 輪形陣の真上を「流星」三八機が通過し、一二発の誘導弾が、英空母三隻に吸い込まれて落ちて行った。

 全弾命中で、空母三隻は炎上した。


 高速軽快な戦闘機「疾風」四〇機に対して、炎上前に空へと上ったシーファイア戦闘機は少なく、その数は二四機。

「雷撃に移れ」

 空中戦を横目に、村田の「流星」は海面上低空に降りる。得意の魚雷攻撃だ。

 二六機の「流星」は、個々の目標に向かって魚雷を投下した。

 上空にて村田が確認した戦果は、戦艦七隻小破、空母三隻撃沈、巡洋艦二隻撃沈であった。


 小一時間半、小沢司令長官のもとに戦果報告が入る。

「報告。英第一艦隊、空母撃沈、戦艦四隻各小破から中破、速度二〇ノットに低下」

「了解した」

「報告。英第二艦隊、空母三隻撃沈、戦艦七隻各小破、重巡二隻撃沈、速度二〇ノットのまま」

「ご苦労」

「新たに『流星』五〇機、英第一艦隊に向かいます」

 塚原空軍中将は、勝負を賭ける気らしい。小沢司令長官は「この勝負は勝ちだ」と思った。

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