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タイムスリップ北海道  作者: いばらき良好
第二部 世界のゆくえ
18/30

12の2 英仏宣戦

 政府・軍部連絡会議に集まったのは二〇名であった。

 原田と岩田陸将の他、米内光政総理、吉田茂外相、賀屋興宣蔵相、そして陸海空軍の大臣、総長、第一部長、作戦課長たちであった。

 原田は次長クラスの三人、石原莞爾陸軍中将、井上成美海軍中将、大西瀧治郎空軍中将とは旧知の仲だ。石原が近付いて来たので挨拶した。

「石原さん、お久しぶりです」

「原田知事、いや今は前知事ですな。ご無沙汰致しました。今日はわざわざ御足労戴きまして有難うございます。皆をご紹介致します」

 そう言って石原は、米内総理はじめ各大臣を紹介してくれた。これから戦争の話をするので、各人の表情は硬かった。


 会議は、米内総理が上手く進行した。

 二日前の九月一日にドイツがポーランドへと侵攻した。これに反対して、英仏は日独に宣戦布告した。

「原田さん、歴史ではどうなっているのですか」

 と言って米内総理から質問を振られた。

「史実で日本はアメリカの圧力により、一九四一年十二月八日にハワイ真珠湾攻撃で米英中蘭に戦争を仕掛けます。アジアの植民地支配を終わらせますが、原爆攻撃により一九四五年八月十五日に敗戦しました。今回のようにポーランド侵攻で、英仏が日本に宣戦布告するなど歴史にはありません」

 歴史は常に変動しているというわけだ。


「なるほど、本も読みました。その上で負けない工夫もしました。一番良いのは戦争をしないことです。しかし不本意ながら、英仏から戦争を仕掛けられてしまいました。外務大臣、欧米の様子はどうですか」

 米内総理の問いに吉田茂が答える。

「米英仏伊の戦力は普通ですが、独国の軍備増強は『歴史本』よりも多いようです」

「軍備は石原次長の方が詳しいでしょう。お願いします」


 石原は席を立って説明を始めた。

「分かりました米内総理。ドイツ陸軍は機械化に力を入れています。Ⅲ号戦車、Ⅳ号戦車、Ⅴ号戦車を長砲身に改良して大増産しております。海軍では空母を建造中。空軍ではゲーリング総司令官が空軍〝歩兵〟師団を四〇万人も作って無能さを晒して更迭され、新しくエアハルト・ミルヒが総司令官になりました。さらにジェット戦闘機が準備されている模様です」

「我が日本もターボプロップを装備しているし、同じことでしょう。一方で、英仏はなぜ日本を敵にするのでしょうか」

 米内総理はなげきつつも、海軍大将として戦う腹は据わっているようだ。


 原田が挙手して答えた。

「歴史的に植民地政策であった英仏は、魅力のある北海道が欲しいのでしょう。最高の医療と科学技術がありますから。しかし北海道は専守防衛を行っていますので属国にはなりません」

 岩田陸将も原田を補佐した。

「石田知事の下で自衛隊は日本に協力いたします。あくまで北海道を基点としてですが、周辺事態に対処いたします」


「分かりました。では、どうやって戦争を終わらせるかについて考えましょう」

 米内総理は海軍大将、あらかじめ話は付けてあったのであろう。軍令部作戦課長の富岡定俊大佐が立ち上がった。

「海軍はインド洋を制圧して英本土とインドおよびオーストラリアを分断、南アフリカで日英仏講和にこぎ着けたい考えであります」

「いわゆる制海権ですね」

「はい、そこで米国には中立か味方になってもらいたいのです」


 これには石原が噛みついた。

「他国のことは頼りにしないことです。日本が戦い始めるなら、日本が終わらせるという主体的な戦略が必要です」

「ごもっとも。外交のことは政府に任せて下さい。大義名分はどうしますか」

 米内総理が間に入ると、石原が手を挙げた。

「陸軍は、英仏の各植民地を独立させて『亜細亜大洋州機構』で纏めます」

 石原が持論を説いた。このアイデアは三軍に浸透しているような感じだった。

 原田は、歴史で学んだ史実の「大東亜会議」を思い出した。東條英機は東部アジア地域だけだったが、石原は全アジアとオセアニアを考えているようであった。


「空軍から何かありますか」

 ここで満を持して山本五十六航空総長が手を上げて発言した。

「我が空軍は陸海戦闘地域の上空を制圧しますが、空母の運用について、局地戦の開始とともに空軍に指揮権を移して貰いたい。もちろん船は艦長が動かしますが、航空戦の攻防には母艦の移動も必要不可避なのをご理解戴きたい」

「飛行機乗りに船が動かせるものか」

 軍令部第一部長の福留繁少将が割って入った。

「ならば広い海で、航空偵察なしで、戦艦は戦えるのか」

 山本航空総長の方が器は大きい。会議は騒然となった。

 そこで山本と同期の吉田善吾海相が助け船を出した。

「空軍には元海軍士官も居ますから大丈夫でしょう。永野さんも如何でしょうか」

 永野修身軍令部総長は一呼吸置いて答えた。

「航空戦の間だけなら良いだろう」

 永野が言っているのは「飛行機が飛んでいる間」という意味で、山本の言う「戦闘中」の意味とは、範囲が違うだろうと原田は感じた。

 山本も気付いていたのであろうが、事を荒立てなかった。

「感謝します。なお史実で戦艦大和は『大和ホテル』と揶揄されました。今度は最前線で戦ってもらいたい。空軍も不惜身命で戦う決意です」

 史実の連合艦隊長官・山本五十六は、永野にそう苦言を呈した。これは山本自身にも痛い発言であると誰もが思った。戦争とは苦いものなのだ。


 最後に米内総理がまとめた。

「今日これから御前会議において、怖れ多くも陛下に開戦の御裁可を頂戴いたします。杉山参謀総長、永野軍令部総長、山本航空総長、吉田外相、異存はありませんね」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 原田が裁決を止めた。

「戦争をしない方法はないのですか。英仏を相手にしないとか。こんなに簡単に戦争を始めてしまって、いいのでしょうか」

 これには石原も呆れて言い放って来た。

「世界の陸地面積の半分以上が英仏だ。その両国が攻めてくる。日本は甘い顔を出来ないのは判るだろう。ライオンとトラに狙われたオオカミなのだ。無視出来るのは巨象のアメリカぐらいのものだ」

 原田は、そんなものかと思った。「戦って勝つ」という石原の主張は、この時代では正しいのであろう。

「それでも自分は、国民の、子供たちの笑顔を守りたい」

 原田の主張は当然とばかりに、会議室に響いた。

 午後には宮中で御前会議が開かれ、本日九月三日夜のNHKラジオ放送「英仏からの宣戦布告を受けて立つ」をもって開戦と決定された。

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