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 アメリア・バーレンスは黙々と一人で仕事をすることが好きであった。

 特別暗いわけでも人見知りなわけでもない。

 ただ物事に集中するということが好きなのだ。


 だから就職先も静かに黙々と作業をこなせる場所を選んだのだが、最近、弊害が起きていた。


 




 今日も任された仕事を黙々としようと自分にあてがわれた机に向かって書類を捲る。

 

 誤字脱字や誤算、記入漏れがないかをチェックし、部署毎に書類を分け届けるのがアメリアの仕事である。


 一応宮廷での仕事ではあるが役職は下っ端の下っ端。いわゆる雑用係のようなものだ。


 単調で変わり映えのない内容な癖に変に頭は使わなくてはいけないし、見落としてがあってもいけないので集中力もいる。そんな仕事なので人気などなく、誰もやりたがらなかった。


 しかしアメリアはこの仕事が好きだった。


 物事に集中することが好きなアメリアにとってこれほどまでにうってつけのものはなかった。


 だから誰もが嫌がる仕事でもアメリアは喜んで引き受けた。


 その甲斐あってか細かな作業でも嫌がることなく率先して行い、丁寧で間違いのない仕事をするアメリアの信頼は厚く、誰もアメリアの仕事を邪魔するようなことはしなかった。


 この日までは。


 事件が起きたのはアメリアがこの仕事に着いて3年が経ったときである。


 自分の上司である宮廷内務長官のアルフレッド・マーシャルが長年の勤めを終えて引退することになったのだ。


 そこでアルフレッドの任を引き継いだのがシュティル・ベイリーという若い男であった。


 彼は一見して堅物で厳格そうだったため周囲から怖がられていた。そして見た目だけでなく実際、口数も少なく必要最低限しか口にしないような人間であったため、周囲から彼に近づくことはあまりなかった。


 しかし、アメリアにとって上司が変わろうと自分の仕事は変わらないので、普段通り黙々と作業をこなし、アメリアだけは用があれば普通に話しかけていた。


 アメリアの仕事的に彼に話さなければいけないことが多かったので、仕事の一環としてそうしていたに過ぎないのだが、どうも彼にとっては違うらしかった。


 異変に気がついたのはアメリアが書類の件でシュティルに確認を取ろうと話しかけた時だった。


「申し訳ありません。ここの項目なんですが、財務省からの認が降りてから回した方がいいと思うのですが。」


「………。」


 シュティルは無言のままアメリアの書類に目を通し、確認後了承するように頷いたのでアメリアはその場を辞そうとシュティルの顔を見て一礼しようとしたときである。


(今日も話しかけてくれて嬉しい。もっと話がしたいんだが昼食に誘ってもいいだろうか?)


 何故かシュティルがそう言っているような気がしたのだ。


「へ?」


 あまりにも突飛なことにアメリアは呆けた声が出てしまう。職場で今までこんな声を出したことなど無かったので、いつもなら謝罪するのだが今のアメリアにはそんな配慮など考える余裕がなかった。

 そんなアメリアを他所に、シュティルからの意思はひしひしと伝わってくる。


(びっくりしているのか。そんな声も可愛いな。)


「はっ?!」


(どうしたんだ。急に顔が赤くなったが、熱でもあるのか?心配だ。今すぐ熱を測らなければ。)


 スッとシュティルが立ち上がり、一歩一歩アメリアへ近づいてくるのに対し、アメリアは一歩一歩後退していく。


(何故逃げる?バーレンスさん。君が心配なんだ。熱がないか確認するだけだ。それとももうじっとできないほどきついのだろうか。)


「ひぇっ?!ち、ちちちちち違いますっ!熱なんかないですっ!…てっ、えっ?!どういうこと?!」


(熱は無いのか。それはよかった。だが心配だからとりあえず確認だけでもさせて欲しい。)


「え?!え?!?えっ??!ま、まって…っ」


 パニックになっているアメリアを他所にシュティルはどんどん距離を詰め、アメリアの額へと手を伸ばす。


 ギュッと目をつぶっていれば少し冷んやりとした手が額へと触れ、少しすると離れて行く。ゆっくり目を開けてシュティルを見ると彼は一度だけ頷くとそのまま背を向けて自分の机へと戻る。その間あの饒舌な彼の意思は聞こえてこなかった。


 なんだったんだ?やっぱり気のせいか?


 そう思いかけていたアメリアだったが、シュティルが椅子に座りアメリアに顔を向けると再び伝わってくるのだ。


 うるさいくらいの彼の意思が。


(確かに熱がなくて良かったが、今度は顔色が優れないような気がする。やはり体調が悪いのか?しっかり仕事に励んでくれるのは有難いが無理をしては本末転倒だ。疲れているなら今日はもう帰って休んだ方がいいな。)


「?!????!??」


 アメリアには理解ができなかった。

 

 今まで必要最低限なことしか言わない彼がこんなに饒舌に話すことも、声が聞こえていないのにはっきりと彼がそう言っているとわかることも、そして何故かアメリアに優しくしてくることも。アメリアにとってわからないことだらけで、頭は破裂寸前であった。


 そんな時。

 

「マキシム。」


 シュティルが一人の職員を呼んだのだ。

 声を出して。


「はい。」


 勿論呼ばれた人は呼びかけに応じてシュティルの元へやってくる。すると彼はその人へ短く声で伝えた。


「彼女は早退だ。」


「わかりました。

 バーレンスさん。早退届だけ出して今日はもう帰っていいですよ。ゆっくり体を休めてくださいね。お大事に。」


 アメリアはその日、初めて仕事を早退した。









 翌日。

 きっと自分は疲れていたんだ。だからあんな変な幻聴?のようなものが聞こえてしまったんだ。と自分を納得させて出勤した。


 しかし、気づいて仕舞えばもう無視をすることなどできないほどにシュティルの意思をありありと感じることができた。


(今日も皆元気に働いてくれて頭が下がる。だけど無理はしないで欲しい。)


 自分に向けて言われているわけではないのだがシュティルの視線がそうみんなに言っていた。


「………げんちょう、じゃ、……なかった………。」


 絶望したように呟けば、隣の席の同僚が不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの?まだ体調悪い?無理はだめだよ。」


 同僚は平然とアメリアに言う。もしや皆このことを知っていたのだろうか、と錯覚してしまうほど普通だ。しかし誰もこんなことになっているなんてアメリアには一言も言ってなかった。


 他に考えるられるのはこの現象を知り得ているのは自分だけということ。


 アメリアの血の気の引いた表情を見て同僚が心配そうに覗き込む。


 聞いてみたいものの自分だけだった場合、頭がおかしいと思われてしまうので、アメリアは一旦その事実を無かったことにして、同僚へ「大丈夫…。」と消え入りそうな声で答えるのだった。


 





(今日も皆コツコツと仕事に励んでくれて有難い。特にバーレンスさんは今日も完璧にこなしてくれている。間違いもないし、わかりやすく記入してくれている。心配りが良くできていて人となりが判るようだ。)


(バーレンスさんの字は今日も綺麗で、読みやすい。人への配慮を大事にすることができるなんて本当に素晴らしい人間だ。)


(バーレンスさんの集中力には頭が上がらないな。仕事を早く回してくれるお陰で他所の部署からも感謝されているし、その分無理していないといいのだが。この前顔色が悪かったからとても気になる。)


 う…、うるさい…。アメリアは率直にそう思った。


 いつもなら集中していれば多少の周囲の雑談など耳に入ってこないのだが、これは別物だ。

 

 視線が背中に突き刺さって、シュティルの言わんとしてることが伝わってくるのだ。


 しかも5…、いや7割はアメリアのことを思っている。これがアメリア以外にも伝わっているとなるとアメリアだって居た堪れなくなる。


 だが隣の同僚は依然として平然と仕事をしていたので、周知の事実というわけではなさそうだとアメリアは確信した。


 アメリアだけに伝わってくるシュティルの意味ある視線。


 アメリアは今まで作業に集中できていたときのことを懐かしく感じた。

 あの頃が恋しい。

 褒められたり感謝されたりするのは嬉しいのだが、毎日毎日こうやって背中に語りかけられてはたまったものではない。


 何故こうなったのかアメリアには全くわからない。

 わかるのはやたらとシュティルがアメリアを見ているということと、アメリアのことをどう思っているのかということだけ。


 目を合わせなくてもシュティルの視線はうるさかった。


 そしてついにアメリアは勤め始めてから初めて仕事でミスをしてしまう。


 幸い小さな記入漏れを見逃しただけだったので大事にはならなかったが、他部署から注意喚起を受けたのだ。


 アメリアにとってこの仕事はアメリアの信用度に直結する問題であると同時に、なけなしのプライドをも傷つけるできごとであった。


 集中力には自信もあったし、ミスがないように何度も確認しながら行ってきたのにこんなことになるなんて思ってなかった。


 落ち込みながらも仕事はまだあるので今後同じことは繰り返さないようにしようと思うものの、アメリアの意思とは裏腹にシュティルの視線はうるさかった。


(大丈夫だろうか。ミスといっても小さいものだからあまり気落ちしないで欲しいが、どう見ても落ち込んでいる。励ました方がいいのだろうか。それともそっとしておくべきだろうか。)


(まだ浮かない顔をしているな。何か気持ちを切り替えられるようなことをしてあげたいが…。甘いものなど好きだろうか。それとも一層の事休憩に入ってもらうか。)

 

 シュティルのうるさい視線についにアメリアは我慢の限界を迎える。


 ガタンッと椅子から立ち上がったアメリアは一直線にシュティルの元へ向かうとシュティルの正面に立ち真っ直ぐに彼を見据えた。


「長官。少しお話しがあるのですがお時間ありますでしょうか。」


「わかった。」


 たった一言発しているはずなのにその間もシュティルの視線はうるさかった。


(バーレンスさんが話しかけてくれた。嬉しい。だけど彼女は今日のことで落ち込んでいるだろうし、やはり早めに休憩に入りたいということだろうか?それとも早退したいということか?)


 アメリアをジッと見つめる視線はそう言っているような気がしたのだ。


 



 場所を改め、誰も居ない場所で二人きりとなったアメリアは意を決してシュティルへと問う。


「長官。それはわざとですか?それとも無意識ですか?」


「何がだ。」


 アメリアを見下ろして短く答えるシュティルにアメリアは一息ついて言う。


「私は確かに仕事でミスを初めてして落ち込んでいます。だから今後同じことがないようしたいと思っています。長官が心配して下さるのはとても有難いですが、ほどほどにしてもらえると私も仕事に集中できて助かるのです。」


 アメリアの言葉をただ黙って聞いているシュティルにアメリアは続ける。


「いつも私の仕事ぶりを褒めていただけるのも嬉しいです。字が綺麗とかわかりやすいとか直接言われたことはないので励みになりますが、毎日褒めなくて大丈夫です。」


 アメリアの話に未だ表情を変えないシュティルであったが、次のアメリアの発言により、これまで表情を崩したことのなかった彼の顔色がみるみるうちに変わっていった。


「それと、私は特別長官と親しくなりたくて話しかけているわけではありません。仕事として話をしなければならないことがあるから話しているだけで、全くその気はありません。ですので昼食もお誘い頂かなくて結構です。上司と部下として今後も円滑な関係が築ければそれで十分です。」


 言い終わってからシュティルの顔色が尋常じゃないほど悪くなっているのにアメリアは気がついた。


 腹が立っていたからといって好意を持ってくれている人に、ましてや上官にキツく言い過ぎてしまったかと思ったがこれで自分がしてきたことについて気づいてくれればこれ以上支障をきたすこともなくていい。まぁ生意気だと叱責は受けるかもしれないが…。


 しかし来る叱咤を想像して待っていたアメリアであったが、シュティルからの反応は無かった。


 それどころか表情は変わらないのに顔色だけが悪く、だけど視線はありありとその意思を伝えてくる。


(何故心の内がバレている。声に出していたか?いいや、出していないはずだ。なのに何故?!何故私が思っていることがわかるのだ。…もしやこれまでのバーレンスさんとの妄想まで伝わっているのか?!)


「……妄想…とは?」


 シュティルの視線から伝わってくることに引っ掛かり尋ねるとシュティルはわかりやすく目を見開いた。


(バレている!!思っていることが全てバレている!これは謝るべきか?!それとも腹を括って全てを吐露するべきか?!)


「別に謝罪は必要ありません。ただその視線をやめてくれれば。」


「……視線?」


 ここで漸く口を開くシュティル。

 アメリアはふぅとひと息吐くとシュティルを見据えはっきりと伝えた。


「視線がうるさいんです。」


「………視線が、…うるさい、とは…。」


「長官の考えていることが全てその視線で伝わってくるんです。背中を向けていても突き刺さってきて毎日毎日…。よくも飽きずに私を褒められますね。」


 そう言うとシュティルの悪い顔色がみるみるうちに赤くなっていくではないか。


 口元に手を当て、何かに耐えるような顔をしてアメリアから視線を逸らすシュティル。


 しかし視線を逸らしていてもその目には恥ずかしさがありありと滲み出ていた。


「…たぶん無意識なんでしょうけど、長官はわかりやすすぎるの度合いが桁外れなんだと思います。ですので気をつけた方がいいかと。今のところ私しか知らないみたいですが長官の顔をしっかり見られる人にはきっと全て筒抜けになってしまいますよ。」


「……善処しよう。」


「お願いします。」


 これでやっと以前のように仕事に取りかかれる、とアメリアは安堵した。


 しかし、事はそんな簡単にはいかなかった。






 シュティルへ抗議した翌日から彼なりに頑張っているようだったが、以前よりもそのうるささが増しているのだ。


(バーレンスさん今日も挨拶してくれて嬉し……、って、あぁっ!気持ちが伝わりすぎるからあまり見てはいけないのに目の前にいるバーレンスさんから目を逸らせない!逸らしたく無い!むしろ勿体無い!)


(今日も真面目に頑張ってくれて有難い。ん?ヘアピンがいつもと違うな。新しく買ったんだろうか。とても似合う…って、だめだっ!また見てしまう!!だけどヘアピンがバーレンスさんに似合いすぎて可愛いと褒めてしまいたい…っ!だがダメだ見るな!見るな!見るんじゃ無いっ!!)


(一区切りついたのだろうか、スッキリした顔をしている。とてもいい表情だ。見ているこっちもスッキリするな…、ってまたっ!!見てはいけないと思っているのについつい見てしまう!バーレンスさんが気になってしまうっ!これ以上嫌われたくはないのだからやめなくてはっ!だけど目が離せないっ!どうすればっ!?!)





「ねぇ。最近長官どうしたんだろうね。めちゃくちゃ険しい顔してるから目なんて合わせられないよ。殺されそう…。なんかあったのかな。」


「あはは…。なんでですかね…。」


 アメリア以外には未だ怖がられているシュティルの事実は一向にバレることはなく、寧ろどんどん険しくなる顔に皆恐怖心を倍増させ、話しかけることもなくなっていった。


 そして大変なことに、シュティルへ用事がある時は何故かアメリアを経由するという摩訶不思議な出来事まで起きていたのだ。






「長官。いいかげんにしてください。何を?じゃないんですよ!長官が顔を顰めるからみんな勘違いして長官のこと怖い人って思うんですよっ!何故か長官への連絡係みたいなことまでさせられてるし!私は私の仕事をしたいんです!」


 人気のない会議室でアメリアはシュティルを捲し立てていた。普段なら絶対に身分が上の人にこんな口の聞き方などしないアメリアであったが、仕事の邪魔をされ続けた苛立ちからそんなことなど頭から抜け落ちていた。


「わ、私は別に怖いとは思いませんが…。って別にだからと言って長官に上司以上の気持ちはありませんからっ!!……え?顔が赤い?…てっ!熱もないですし!べ、別に照れてませんけどっ?!怒っているから赤いだけですっ!」


 側から見ればアメリアが一人で黙っているシュティルに向かって百面相している構図になっているのだが、生憎目の前の人物は流暢に言葉を伝えているのだから可笑しいものだ。


(バーレンスさんは本当にいい子だな。そういう正直なところも魅力的だ。だがそうだな。バーレンスさんに負担がかかることはしたくない。こちらから皆に声をかけるようにしていこう。)


「そうですね。皆さんと交流を持てれば長官のわかりやすさもきっと気づくと思います。」


(だが問題はどうやって交流を待つかなんだが。バーレンスさんのように可憐な笑顔も人に好かれる人柄も持ち合わせていない男が急に声をかけてもいいものなのだろうか。)


「別に私も人に好かれてはいませんよ…っ。普通のコミュニケーションができるくらいで…。」


(いいや。バーレンスさんはとても可愛らしい。そして優しく、真面目で仕事も丁寧。人のことを常に考えられるのは美徳だ。現に皆から怖がられている男にも差別なく話しかけてくれているし、気にかけて一緒に悩んでくれている。そんな人が人から好かれないはずはない。まさに証明として私は君が好きだ。)


 シュティルの言葉…いや視線で伝わってきた思いにアメリアはボッと顔を赤くする。


 いつもいつも褒めてくれる人が唐突に自分を好きだと吐露してくればそういう対象として認識していなくても誰だって意識してしまうもので、アメリアも例に漏れずシュティルのことを改めて意識してしまうのだった。


(何かいい手があればいいのだが。)


 そんなことに気がつかないシュティルは一人悩み続けていた。


 自分とは違い、言った本人は全く意識していなさそうでアメリアはだんだんと平然としているシュティルに苛立ちを感じ始め、最終的にぶっきらぼうに言葉を吐き捨てた。


「視線で語るのではなく口を使えばいいのではないですかっ?口がついているのですから有効活用しなくてどうするんですか!」


 フンッと忙しない心臓を隠すように鼻を鳴らせばシュティルは名案だと表情を輝かせた。しかしすぐにシュンと落ち込んだ…ように見えた。


(しかし困ったことがある。普段喋らないのでなんと言えばいいのかわからない。)


「普通に今みたいに思っているまま言葉にすればいいのでは?」


(思っているまま…?)


「そうです。試しに視線で訴えるのでは無く、何か言葉で伝えてみてください。」


 アメリアの言葉に表情は変わらないがシュティルはあからさまに困り慌てふためいていた。暫しあわあわしていたシュティルであるが、意を決したようでキュッと表情…いや、心内を締めると口を開く。


「…付き合って欲しい。」


「…………はっ?!?!」


 予期せぬセリフにアメリアの頭は爆発する。


 今のどこにこんなことになる要素があったのか、アメリアには全く理解できなかったが、アメリアを真っ直ぐに見つめるシュティルの視線で本気で言っていることがありありと伝わり、アメリアは口をぱくぱくさせるしかなかった。


 金魚のように顔を赤くして口を動かしているアメリアにシュティルはフッと見逃してしまうほど小さく笑う。


 そして


「かわいいな。」


 いつもの固く厳し声色ではなく、柔らかさを含んだ声でそう言われてアメリアの顔はますます赤くなり、心臓はバクバクと激しさを増す。


 普段笑わない人が笑ったり、怖い人が優しくなると生じる所為ギャップ萌えというものをアメリアこの時初めて体験する。


 そしてほんの少し、いや…半分ほどシュティルへの想いがひっくり返っていたことは誰も知らない。

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