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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第八章⑥等身大のアイドル

「今回の曲で大変だった部分は?」

 ボクは少し悩んだ末に言う。

「今まで詩織が歌う想定で作っていたので、自分向けのデビュー曲って概念が新鮮で難しかったです」

 それを聴いた社長が「もうデビュー曲のつもりなんだ」と笑った。ボクは自信をもって頷く。

「意地でもデビュー曲にして見せます。この歌はボクたちの魂みたいなものですから。四日で作った超濃縮還元です」

 その言葉に朝香は苦笑する。

「三日目には作り上げた上で、ボイスレコーディングした後、一日で歌としての完成をさせたんです。そのくせに暇が出来ると寝ても覚めても修正したいって騒ぐんですよ、こいつ。しかも、仮完成させた後、修正しては戻してを繰り返すので、結局、無理矢理に完成と言わせたんです」

 それを聞いた社長は笑った。

「実は沙織も時々やるから分かるのよー。曲って小説みたいに改訂しても原曲が使われやすいからね。沙織も一発で完全版を出そうとするタイプよ」

 そう言いながら社長は指を立てる。

「でも、歌手にだってアレンジという手段がある。成長した自分に合わせて歌を歌いこなせば良いと思うわよ」

 社長の言葉にボクは頷く。

「それも手と考えています。ただ、まぁ、今のボクの最高地点を示したいので」

 沙織も頷いて「私も同じ。妥協せずに最高地点を示すことは大事だと思う」と言った。そんなボクに詩織が「緊張してきた」と笑う。もうすぐなのは分かっているようだ。

「月宮沙織というアイドルに出会い、月宮詩織という卵に出会い、こうしてアイドルに仕立てられて。苦しかったけど最高だと思ってます。ボクは彼女を励ましてきて良かったと思います。だって、みんなで笑えていますから」

 それを聞いた社長が問いかける。

「次の目標は?」

 ボクは一瞬だけ悩んでから答えた。

「まずは詩織と輝いて、延命してきた分の借金を取り返すことですね。まぁ、来世になっても取り立てないといけないくらいにいっぱい恩を売ったつもりですけど」

 その言葉を聞いた詩織が苦笑する。

「じゃあ、わたくしは来世でも延命させて、萌歌を束縛し続ける」

 その言葉にボクは「勘弁してくれよー」と言いながらも満更ではなかった。いつまでも詩織と一緒に居たいと思っているからだろう。「さて、いい加減にしないと予定が押しそうだから、本腰入れて審査するつもりだけど。その前にもう一つだけ。自分たちをどう売っていくつもり? それだけは聞いておかないと私が困る」

 それを聞いた朝香が「動画にしておいたんですけどね」と苦笑した。それでも社長は「本人の口から聞きたいものよ」と笑った。なら、ボクが代表して答えよう。

「ボク達、「海とウサギの月」におけるコンセプトは太陽系です。宇宙の片隅で中心になろうとする、小さくて野望のある銀河です。そして、詩織は太陽、ボクは月、ファンは地球というイメージで、月と太陽が絶え間なく巡るのを観測してもらうイメージのアイドルにしようと思っています」

 それを聞いた社長が口角を上げる。

「物語調にするのね、面白い。続けて?」

 ボクは説明を続ける。

「詩織は月兎耳姫と言う名前を捨てて月の兎のお妃様、『兎月妃』として生まれ変わります。一人称はわたくしに変えて、姫って一人称もいずれやめるつもりだそうです。そして、芸名もいずれは本名に変えていくという筋書きになっています。さらに、詩織は太陽というイメージだけでなく、もう一つ、かぐや姫としてのイメージも持たせます。詩織の決め台詞は『わたくし、月の人間だから分からないんですの』です。未熟さを上手に茶化していますが、きっと彼女はいつかファンの住む地球の人間として自分を理解すると思います」

 それを聞いた沙織は笑う。

「なるほど、住み慣れた月である萌歌を旅立って地球の人間達と交流しながら、成長していくのね」

 その言葉にボクは頷く。補足するように朝香が口を開いた。

「そもそもの発端はかぐや姫が月を地球に自慢したこと、って動画では説明しています。萌歌を晒した事件をわかりやすく説明した上で、月に降り立つ計画をする地球の人間を応援するのが詩織の役割です」

 ボクは内心で無茶な物語だよなぁ、と思いながらも言葉を引き継ぐ。

「詩織は地球と関わる中で『等身大のアイドル』を目指します。ただ、今までのような露悪主義ではなく頑張っているところも見せるのが彼女の目標です。一方、ボクは『神話になるアイドル』がコンセプトになりました。月のように闇夜を照らす、誰もが夢に語る存在です。ボクが輝くには太陽である詩織が必要ですが、満ち欠けしながらでもボクは地球から愛される存在になろうと思っています」

 それを聞いた社長が頷く。

「良いんじゃないかしら。少なくとも、私が考えるよりは良いアイデアだと思う」

 社長の言葉にボクは微笑む。朝香が補足するように話し始めた。

「私は地球の核、マグマとしてファンクラブの運営や雑用もする予定です。事務所が居れば、私は要らないかもしれないけど」

 その言葉を社長が笑い飛ばす。

「ちゃんとあなたの分の契約書も用意してあるわよ。うちで働いてちょうだい」

 その言葉を聞いて朝香は呆気にとられた。むしろ、大喜びしたのは詩織だった。

「やっぱり、朝香はただのファンじゃ居られないよね!」

 その言葉にボクは苦笑する。

「まぁ、やることはやってますからね」

 それを聞いた朝香は思わず尋ねる。

「まさか、正社員ですか?」

 社長は苦笑した。

「望むならそれでもいいけど、きっとバイトを始めた理由があるだろうから最初は非正規で行こうかなと思ってた。労働契約の部分は作り直さないといけないから、三人とも、署名は後日になるかもね」

 その言葉を聞いて詩織が「えー」と言う。それを聞いた沙織が笑った。

「内定通知書だけは作らせておいたから、それをもらえるかの勝負がデビュー曲よ」

 それに合わせて社長が言う。

「ファンの呼称は『地球の民』ってところかしらね。そして、詩織は一人の人間として愛されることを覚えながら愛すことを知る。萌歌は超常した存在として自分の限界を超える。……肝心の曲が勝負ね」

 あぁ、本当に歌うときが来てしまった。

「ちゃんとカラオケで録音したバージョンもありますが、聞きたいのは生歌ですよね?」

 ボクの問いに沙織は「もちろん」と笑う。合わせるように社長が「ダンスはしなくて良いわ、さすがに近所迷惑だし」と苦笑した。ダンスの経験者は詩織しかいないので助かる。ちなみに、ボクは運動音痴だ。派手なダンスは詩織に任せる予定だし、朝香に至ってはリズム感覚が無いことを理解した。声だけならギリギリ乗せられるが、体を動かすとなると自分の体の動かす時間を計算できないようだ。正直、ボクにすら理解できない領域である。まぁ、朝香がダンスすることはないだろうけど。

「曲を聴く前に聞いて欲しいポイントを聞こうかしら」

 社長の問いかけにボクは答える。

「ボクと萌歌の歌い分けにも意味があるし、歌詞の内容は理想と現実を対比するようにボクと詩織が対比されて、最終的なアイドル増を描きます。もしかしたら、沙織さんに重なる部分があるかもしれませんね」

 その言葉に詩織が頷く。

「虚像でなく実態としてのアイドルも描いた上で、ファンだけでなくアイドルとしての理想も詰め込んだ。まさしく、わたくしたちの理想、だね」

 その言葉に朝香は頷く。朝香がパソコンでカラオケ版の曲を用意し始めた。

「じゃあ、曲名を聞こうかしら」

 ボクらは顔を合わせると三人で口を合わせる。

「等身大のアイドル!」

 それを聞いた沙織が「娘は愛されているわね」と言いながらも目つきを変える。本気で審査するつもりらしい。社長の目つきも若干、鋭くなった気がする。

 準備を終えた朝香が手でサインを出した。いよいよ、勝負だ。ボクは気を引き締める。

「では、お聞きください。『海とウサギの月』で『等身大のアイドル』です」

 ボクの言葉を皮切りにイントロが流れ始めた。そして、ボクらは運命を賭けて歌い始める――!

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