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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第八章⑤メインディッシュ

 そんなボクに対して、朝香が囁いた。

「詩織さ。今日、また、成長したね」

 その言葉にボクは首をかしげた。すると、朝香が言葉を続ける。

「今まで迷惑をかけたり傷を重ねることを恐れた挙げ句、暴れてた。でも、引退しようと、死のうと、アイドルは簡単にやめられないって勉強したでしょう?」

 その言葉にボクは苦笑する。

「まだ、その意味に気づくのは先じゃない? 今はやっと言葉として知ったレベルだと思う」

 朝香は「そんなものかねー」と笑った。でも、人間が意味を理解した瞬間って、もっとわかりやすい。だってさ。

「まだ、詩織は生きているだけで影響を与えることに気づいていない。死んでも誰かの中に残ることを理解してない。幸せを振りまいて、感謝されながら死ぬことを理解していない。そして、悪いことをしたときにも他人の中で自分がトラウマとして残ることを理解していない。全部を自分の言葉で言えるようにならなきゃ、理解には程遠いよ」

 その言葉に朝香は「そっか」とだけ呟くと離れていった。ボクは試すように詩織に問いかける。

「今、詩織は忘れられたいって思う?」

 その言葉に詩織は「思うけど、無理だって悟った」と答えた。少しは勉強したのかな? ボクはちょっとだけ発破をかけるつもりで言葉を紡ぐ。

「ボクは婚約を破棄したけど、ずっと心に詩織を残していたい。何なら、来世でも、その次の世界でも、ずっと詩織と笑っていたい」

「私もだからね? むしろ、私たちを詩織が忘れたら、私は来世の君を呪うよ? 同じように忘れられちゃいけないんだよ、詩織は」

 朝香とボクの言葉に詩織は「どうしたの、いきなり」と言いながらも笑った。

「大丈夫、迷惑でも必要なら人間は叩き直してでも残そうとするもの。今だって、みんな、わたくしのために頑張ってくれている。元の形が残る程度に愛してくれているのは伝わってる。だから、来世で拒まないでよ? わたくしが追いかけるんだから」

 ちょっとは成長したようだ。ボクは微笑みながら「よく言った」と手を叩いた。それに合わせて朝香も手を叩く。

「詩織、少しは自分のことを好きになったでしょう? じゃなきゃ、そんなこと言えない」

 朝香の言葉に沙織が笑う。

「生きることは究極の自己満足だからさ、自己満足を捨てたら死にたくなるよ。自分のために自分や他人を愛して、自分のために自分や他人を動かさないといけない。他人のために動いても依存するだけで、進まない」

 それを聞いた朝香が口を尖らせた。

「それを萌歌がいっぱい言ってるはずなんですけどねー。そんな直接、言って良いんですかね? 詩織に限らず、人間って生きていくために食べたり、寝たりするけど、その中に愛すや愛されるもあるんだよー、とか」

 それを聞いた社長が笑う。

「まぁ、答えって教えるだけじゃないからね。自分で導かせることもしないといけない。そういう意味では沙織の教育も間違ってないのよ」

 ボクは苦笑する。

「結局、口で否定しようと行動で愛されたがっていることを理解しないと始まらないですからねー。言葉だけを見て見過ごしてもいけないし、行動だけを見て汲み取りすぎてもいけない。ただ、忘れられようとしても、ボク達は忘れない。だって、ボク達が詩織を欲しているからね。詩織をこだわる理由は唯一無二だからとしか言い様がないけど、彼女が自分の代わりを探す限り、問題は続くんでしょうね」

 それを聞いた詩織が「ちょっとわけわかんない」と惚ける。そう言いながらも、詩織は未来で意味を理解してくれるだろう。ボク達のエゴも自身のエゴも理解した上で、適切な未来を掴むために必死になれると思う。

「感性まで疑えばきりが無いし、他人であるボク達の本音を予想しても妄想以上にはならないから、推測ばかりしてないでねってこと」

 ボクの言葉に詩織は「はーい」と笑う。本当に分かっているのだろうか。ボクは思わずうつむいてしまう。究極的に信じて良いのは結果だけ、とか言い出さなきゃ良いけど。言葉や行動を信じる難しさはボクだって知っている。だから、今だって言葉を尽くしすぎている。それでも、彼女は……。

「心配しすぎよ、萌歌ちゃん。大丈夫。朝香ちゃんや私も居るんだから不安にならなくて良い」

 沙織の言葉にボクは顔を上げる。そうだよね、みんながいれば大丈夫だよね……。

「私が愛を教えられなかったせいで、ちょっと愛に鈍感になっちゃったけど、周りがこれだけ愛せば少しは学ぶわよ」

 そう言うと沙織は手を叩く。

「ほら、社長。この子達のデビュー曲を聴いて、契約書にサインさせるわよ。帰って特訓しなきゃ。萌歌ちゃんが送ってくれた歌を含めて、全曲歌えるように仕上げないと、この子達に申し訳ないわ」

 その言葉に社長が「もうちょっとだけ萌歌ちゃんを見極めさせてちょうだい」と笑う。そんな社長に「まだ話すのー?」と言いつつ、沙織は椅子に座る。そうか、次はボクの番か。

「昼夜逆転生活の成果、見せつけてやれ」

 朝香の一言にボクは苦笑する。

「最高に青春だった」

 ボクの答えに詩織が「歌う前から合格掴んできて」と笑う。いや、それは厳しいでしょ。そう思いながらも社長に向き直る。

「空見萌歌、23歳。大学卒業から二年目のフリーターってところです。音楽を続けていたので正社員で働いたことはありませんが、携帯販売でそれなりに稼いでます」

 ボクの自己紹介に社長は笑う。

「さぞ、営業もうまくやっているんでしょうね。額は知らないけど、良い感じの生活しているし」

 社長の誘いにボクは「アイドルをやったら収入下がるかもですね」と挑発してみる。それを聞いた社長は「お、やる気だね。下積みは苦労するぞー」と笑った。そうだろうけど、ボク達もめげる気は無い。

「大丈夫です。とっくに収入なんて見限ってるので」

 ボクの言葉に社長は口角を上げた。

「それでこそ、挑戦者よ。沙織を追っかけて何年くらい?」

 社長の問いにボクは「もうすぐ10年ってところです」と答える。それを聞いた沙織が「じゃあ『巡る鞄』当たりの世代かしら?」と呟いた。ボクはそれに対して首を振る。

「もっと前の曲が刺さって沙織にはまった人なんです。『血塗れの産着』で“生むために死んでも良い”って歌っていましたが、あの歌詞が刺さったんです。辛いのに辛いのさえ伝えられなくて、言葉一つ生み出せない自分には欲しい言葉だった。今でもボクは歌のために死んでも良いと思っています。むしろ、死んだ先の世界を見れるなら、一度くらいの臨死体験は望むところです」

 ボクの言葉に詩織が「わたくしに怒っておいて、それはないよ」と口をとがらす。でも、これくらい言わないとボクの熱意は伝わらない。

「ボクは曲に命を賭けています。『血塗れの産着』が命の大切さや尊さ以外を伝えたように、自分の曲が誤解されることは分かっている。それでも伝えたいことを曲にし続けてきました」

 それを聴いた社長が沙織の方を見て尋ねる。

「今、歌えたりする?」

 それを聞いた沙織は首を振った。

「無茶言わないでちょうだい。あの歌は、詩織を身籠もったときに書いたの。出来れば歌いたくない曲なのよ? 聞くのだって避けてるのに」

 ボクは沙織をじっと見つめる。

「近いうちに、生歌で聞きたいです」

 ボクのファンコールを聞いてか、詩織が同調する。

「ママがママになるときの歌か。聞きたいな?」

 それを聴いた社長が大笑いする。

「こりゃー、コンサートが楽しみだねぇ。“赤い旗を庭に立て”だっけ?」

 曲の一部を混ぜてくる社長に苦笑しながら、沙織は言う。

「歌わせたいのは分かったわよ。でも、今は歌わない。最高の状態に仕上げてから二人に聞かせたい」

 それを聞いた社長が「ちぇー」と言いながらもボクに目を向けた。次は何の話題が飛んでくる?


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