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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第六章③宇宙規模の恋

「で、何の話をしていたの?」

 その言葉に朝香は「天体観測の話」と笑う。どうやらごまかしたいつもりらしい。ボクも適当に「かぐや姫とお月様と地球のお話」と煙に巻く。それを聞いた詩織はなぜか「月の人間だから分かんないや」と呟いた。今、そのキャラ付けを持ってくるか。それを聞いた瞬間に朝香が大笑いする。

「そっか! かぐや姫が始まるには、まず、かぐや姫を地球に連れてこないといけないんだ!」

 その言葉にボクまで吹き出す。

「いつまでも月に安住させていたら話が始まらないね!」

 それを見て、詩織が首をかしげる。当たり前だろうな。こんな話が詩織に伝わるとは思えない。

「まずは竹の中に詰めて、転生させないといけないね!」

「地球って素晴らしいですよーって、住み慣れた月から引っ張り出さないといけないのか」

 ボク達を見ながら詩織は「お月様って快適なんだよ?」と惚けた。そうだろうな、そこからスタートだよな。

「住めば都だからさ、地球に住まない?」

 ボクの提案に詩織が「よくわかんない」と答える。まぁ、分からなくて良いよ。

「案外、かぐや姫は月に帰りませんでした、みたいな信じられない結末があるかもね。地球って豊かで素晴らしいから」

 ボクが朝香の肩を叩きつつ、そう言うと朝香は「月は穴だらけで木も生えてないし貧相だよね」と悪口を言う。言ったな?

 ボク達が目だけで喧嘩をしていると、詩織が「あっ」と呟いた。まさか、意味を理解したのか?

「なるほど、かぐや姫と月と地球ってそういうことか」

 その言葉に思わず、ボク達は振り向く。本当に理解したのか。

「お月様って住みやすいんだよ? 地球ほど厄介じゃないし、静かで誰も居ない。姫だけのお月様だから大好き」

 その言葉にボクは苦笑する。ボクが大好きと言われてもなぁ。思わず眉をしかめるボクを見て、朝香が気持ちを代弁する。

「いずれは月にも地球の人間が来ちゃうんだよ。ガガーリンとか。移住計画も出てきて大騒ぎだ。それこそ、誰かさんが『月は良いですよー』って言いふらしちゃったから、一気に人類は月を目指すだろう。そのときにかぐや姫がいじめられないようにするのが私の役割。だけど、いじめられる前にかぐや姫も地球で生きることを覚えて欲しいな」

 詩織は頬を膨らめて反論しようとする。ちなみに、ガガーリンは月に降り立っていない。地球は青かった、の人だ。

「でもさ、かぐや姫はお月様に帰るんだよ?」

 本当にかぐや姫はお月様が大好きなことで。ボクが言い返してみた。

「別にかぐや姫の話は一つじゃなくて良いよ。かぐや姫はいつまでもお月様を想いながら地球を愛しました、とか。それでもボクは良いと思う。多様性の世界だからさ、ボク達の物語を作ろうよ」

 それを聞いて詩織は「えー」と呟いた。そうだよな、お月様が大好きだもんね。分かる。

「とりあえず、朝香の家に行こう。きっと待ってるよ」

 ボクがそう言うと朝香も「ご飯が食いたいから行かなきゃね」と笑う。その言葉にボクは「きっと赤飯だよ」と苦笑する。それをきいた詩織が「お赤飯、好き!」と叫んだ。詩織は純粋だなぁ。ボクと朝香は顔を見合わせて、苦笑した。お赤飯までが遠いんだよ。

 荷物を適当に持ったボクは詩織に「鍵を閉めて」と伝える。そんなボクに朝香はついてきた。

「ねぇ、今後の計画とか決まってるの?」

 朝香の質問にボクは「うっすらと?」とだけ答える。それを聞いて、朝香は「知りたい」と言った。なので、ボクは素直に答えた。

「とりあえずボクは二日目の徹夜をして曲をどうにかする。で、明日のお昼から夕方まで寝て、夜からお昼まで作業するのをオーディションまで続けるよ。逆に、お昼から夕方までの間は朝香に詩織の面倒を見てもらう。ただ、何もせずに待っていろと言っても詩織は我慢できないと思うから、朝香には動画編集をしながら姫に様々な企画をやらせて楽しませて欲しいと思ってるかな。作戦会議は二人が起きて、朝ご飯を食べた後からお昼ご飯までの間にすれば良いし」

 それを聞いた朝香は「じゃあ、色画用紙とかいっぱい持ってきて詩織と遊ぶことも考えないといけないね。なんか、プロフ写真になるようなモチーフでも作らせようかな」と呟く。「いいね」とボクは呟きながら、どんなものを作らせようか考え始める。海とウサギの月……。海月、月兎耳、かぐや姫……。

「あー、だめだ。デザインは下手なんだよな。今までのプロモーション動画も詩織主体だったから視覚的なセンスはボクにないかもしれん」

 その言葉に朝香が苦笑する。

「例えばさ、部屋にある月兎耳といっしょに海月の折りがみやウサギ達を書いたお月様の絵を貼っておいて写真を撮るだけでも見映えは良いと思うよ」

「じゃあ、そこらへんは任せるわ。詩織と一緒にやってあげて」

 思い切り丸投げしたボクに口を尖らせながらも朝香は「まぁ、なんとかしますよ」とだけ言った。


「お待たせー」

 アパートのエレベーターの前で待っていると詩織が遅れてやってくる。

「詩織は〈海とウサギの月〉のアイコン写真、どうしたら良いと思う?」

 そんなことを尋ねる朝香を見ながら、ボクは大変なことに気づいて「あっ」と叫んだ。

「なに? 忘れ物?」

 そう尋ねる詩織に首を振る。それを見た朝香がエレベーターのボタンを押した。まぁ、忘れ物はしていないから、それでいいのだけど。ボクはニヤニヤしながらスマホを取り出す。そして、カメラを起動すると、朝香を指さしながら撮影を開始した。

「まだ、地球がかぐや姫に対して愛を叫んでいないんだよ。一度でも、朝香が詩織に対して『愛してる』って言った?」

 その言葉に詩織は首を振る。なんとなく流れを理解したのか、朝香の顔から血の気が引いた。そうです。公開処刑です。

「間接的に好きなのは伝えてるけど、直接的な愛を叫んでいない。そりゃあ、かぐや姫も地球に来ないわけだ」

 ボクの言葉に朝香は言葉を失う。そうだろうね、ボクも最低なことをしている自覚があるよ。

「昨日の場面って、多分、カメラが撮っているんだよね。で、さっき話したことは適当に再現ビデオを作って説明すれば良い。大事なのは、かぐや姫が地球に来るところから語り始めることなんだよ!」

 ボクの言葉に詩織がニヤニヤとした。内容を理解しているらしい。わくわくするよね、と内心で呟くとエレベータが到着したようで扉が開いた。

「さぁ、かぐや姫。これは地球に降り立つためのエレベーターです。今から地球を代表して朝香がかぐや姫に地球に来るように求めます。あなたはお月様であるボクから離れて、地球に行く勇気を持つことが出来るでしょうか?」

 ノリノリで演出するボクに朝香が「嘘でしょ……」と呟く。こんな悪乗りも良いだろう。詩織はニコニコしながらカメラの前に立つと「あたしは今でもお月様が大好きだよー」と投げキッスをした。うーん、あくどい。これは面白い。

「さあ、朝香。宇宙エレベーターに乗ってください。そして、かぐや姫に愛を叫んでください! かぐや姫のストーリーはここから始まるんです!」

 ボクのナレーションに朝香は「天まで届く構造物は壊されると思うんだけど?」とツッコむ。バベルか。まぁ、でも。

「バベルだって、一回ぐらいは見逃されても良いでしょう。さぁ、早く! 他の住人の迷惑になるよ!」

 ボクの現実的な言葉に諦めたのか、朝香は無人のエレベーターに乗り込んだ。そして、意を決したように片膝をつく。

「姫。私が君を全力で守ろう。一緒に月を眺め、太陽が出たら笑い合おう。地球は月なんかよりも複雑で、鮮やかで、騒がしいかもしれない。だけど、水や空気、食べ物だけでなく、娯楽も豊富だから楽しいよ。」

 そこまで言うと朝香は手を差し出した。

「私の手を取ってくれないか、姫。竹の中に入ってくれたら、私が竹を割って君を育てよう。新しく生まれ変わった君は確実に人々を虜にするはずだ。そんな君を私は一人にしない! どうか、手を取ってくれ」

 朝香は目をつぶってうつむいた。

「……愛してます」

 ボクは爆笑したいのをこらえて詩織に近づくと背中を押した。そんなボクを見て、詩織は「行って良いのかな」と呟く。そんな詩織を見捨てるようにエレベーターが自動で閉まろうとする。ボクは爆笑しながらエレベーターの扉を押さえた。

「お月様はいつでも帰ってくるのを待っているよ。大丈夫。お昼間と新月の頃には見えないけど、ずっとお月様は見守るから。行っておいで」

 ボクの言葉に頷いた詩織はドアを開き直したエレベーターに乗ると朝香の手を取った。

「あたしと一緒に居てね」

 その言葉を聞いた朝香は詩織を抱きしめる。

「……ありがとう」

 そこまで言わせたところでボクは大爆笑した。

「最高! めっちゃ良い演出だった!」

 そう言いながらエレベーターに乗り込んで開閉ボタンを押す。そして、地上へのボタンを押すが、朝香がすねたようにボクの足を蹴った。

「二度とアドリブはやらねえからな」

 そう言いながらも楽しそうじゃないか。ボクは「またやらせるよ」と言いつつ、撮影を止めた。これは月で語り継ぐべき神話だと思う。最高傑作だ。

「詩織、少しは朝香のことを好きになった?」

 ボクの言葉に詩織は「面白い人だってことはよく分かったよ」と答える。好きと言わないのはボクの前だからだろうか。後で、二人きりの時間を作ろう。そう思いながらボクはエレベーターが地上に着くのを待つ。

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