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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第五章⑤死神に愛されて

「大丈夫だよ。ボクの知らない姫を支えてくれていた人だから」

 そうとだけ言うと、ボクはトイレに入った。正直、尿意も便意もなかったけど。彼女たちを二人にしたかった。そんなボクの思うように朝香が詩織に語りかける。

「不安だよね。怖いよね。なんか、詩織を見ていると一匹の黒ウサギに見えるんだ。心は真っ白いくせに、体は真っ黒なウサギさん。どんなに白くなろうとしても体だけは白くなれなくて悩んでいる寂しい人」

 その言葉にボクはトイレの中で頷く。詩織をよく例えていると思う。

「正直さ、私も怖いんだ。実際に近くに来ると想像していた何億倍もの重大でヤバいオーラがある。こりゃあ、並大抵の人間なら振り回されるだろうって思うよ」

 その言葉にボクは笑いそうになった。凄い言い方だと思う

「でも、私は負ける気がしない。振り回そうとする姫を振り回す自信がある」

 なんて凶暴なんだ。タダでさえ扱いづらい詩織を弄ぼうとしているのか。想像だけでスケールがでかい。

「絶対に詩織を死なせないし、詩織に殺されない自信もある。私は詩織が中学の時から、月に閉じ籠もって、出てからも、ずっと励ましてきたんだ。もし、疑うならSNSアカウントを見せても良い。本当に、私が月兎耳の母なんだ。だから、意地でも萌歌の代わりになる。何なら萌歌を超える。姫以外の全人類が敵になろうと私は全人類を薙ぎ倒そう。そして、二人っきりになったら言うの。『敵は滅んだよ』って」

 どこのホラー映画だ。世紀末映画でもびっくりだわ。全人類が敵なんて言い方したらボクまで薙ぎ倒されることになる。やめてくれ。ボクはいつまでも詩織の味方で居たいよ。

「ねぇ、本当に信じて良いの?」

 ボクの思いとは裏腹に詩織は朝香を信じようとしていた。ボクは黙って聞くほか無かった。

「私なんて非力な人間だ。だけど、萌歌が神様になろうとするなら、私は死に神にでもなる。そして、姫を脅かす人間から守りぬくよ」

 そう言いながら、朝香は笑った。

「逆に言えば、死に神が見放すまで死ねないぞ。死に神が来ないってことは、死なないってことだからな」

 なんか決め台詞みたいに言っていて、悔しいけどかっこいいと思った。詩織のしぶとさは折り紙付きだが、ますます拍車がかかった気がする。朝香に任せれば安心な気がした。

「あたし、どう生きれば良い?」

 いきなり自分の人生の賽を投げる詩織に苦笑しつつ、ボクは朝香の答えを待つ。すると、朝香は思わぬことを言い出した。

「どう生きたい?」

 ボクは意図が分からずに戸惑う。だが、詩織には分かったようだ。

「生きたいように生きて良いの?」

 それを聞いて朝香は笑った。

「私は敵を倒すと言っただけで、全人類を倒すつもりはないよ。あなたが敵だと思うものを教えて欲しい。私が敵を教えるわけじゃない」

 それを聞いて、詩織は力強く言う。

「あたし、ママを超えたい」

 その言葉に朝香は力強く応える。

「なら、私も頑張るけど姫も頑張らなきゃ。姫の思うように沙織を超えれば良いと思う。逆に姫が諦めたら、私は沙織を追いかけないよ? あなたが敵だと思う人間とだけ、私は戦う。だから、困ったら頼って。全力で応援するから」

 そんな朝香の言葉を聞きながら、ボクには出来ないやり方だなぁと感嘆していた。ボクは逃げ腰だったから、あそこまで本気で向き合えなかった。

「じゃあ、企画会議を再開しないとね。次はママのお話をしなきゃ」

 そう切り替える詩織を朝香が「偉いぞー」と褒める。うまくいきそうで良かった。

 ボクは形式だけ整えるために使ってもいないトイレの水を流す。そして、外に出ると何食わぬ顔で言った。

「なんか決まった?」

 本当は大きなことが決まったことくらい知っている。だけど、あえて聞いてみる。これも宣言させる方法の一つだ。

「多分、詩織はめげないよ」

 そう答える朝香に「そっか」とだけ答えておく。聞いていたんだから深追いしても意味が無い。

「じゃあ、企画会議に戻ろうか」

 ボクはそう切り出す。それを聞いて、詩織が手を上げた。

「あたし、キャラブレ防止のためにもキャラを作りたいです!」

 その言葉に「詩織は素のままで良いと思うけどなぁ」と朝香が呟く。ボクもそう思うが、一応、付き合おう。

「そもそも、詩織ってどんな設定だっけ?」

 その言葉になぜか朝香が早口で応える。

「月に引き籠もったかぐや姫! 星に憧れ、地球を眺める!」

 そんな朝香を詩織は「さすがだね」と笑った。合っているようだ。

「ついでに言うと、カラオケでは沙織以外の歌を歌わなくて、滅多にしない外出ではいつも沙織のグッズを買っていた。話も沙織のことが多かったし、ずっと月宮詩織を沙織が貫いていたのは変わらない」

 それを聞いて、詩織が笑う。

「だって、ママだもん。憎いけど憧れちゃう」

 そんな詩織をボクはぼーっと見つめていた。なんか、疲れちゃった。

「凄いね、萌歌は。ママのことを明かしたら失神しちゃうと思ってたのに、全然平気だった」

 そんな詩織にボクは「酷いな。人の心はある?」と言った。これが平気に見える神経を疑いたかった。しかし、フリとしては良かったらしい。

「だって、あたし、かぐや姫だもん。人を弄んで不老不死の薬を残すような気まぐれな人外だよ。姫が普通の人間なはずがない」

 朝香の前で『病みクラゲ』として開き直ったボクが言うことではないが、なかなかに酷い。でも、それが詩織のキャラだよな。

「これだね」

 ボクの呟きに朝香も「これだよね」と笑う。詩織のキャラは決まった。

「今の言葉を忘れないで。詩織のキャラが決まった瞬間だよ」

 その言葉に詩織は首をかしげる。こりゃあ、まだ、会議が必要なようだ。

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