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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第四章③一陣の嵐

 そう思ったときになぜかチャイムが鳴る。来客? こんな時間に?

「誰だろう」

 思わずボクは呟く。詩織も首をかしげた。すると、ドンドンドンと扉が叩かれる。

「ボクが行くわ」

 そう告げるとボクは余所行きの声で「ハーイ、今、行きます」と叫ぶ。玄関へ駆けていって。チェーンをしたままドアを開けると、嫌な声が聞こえてきた。

「やぁ、アイドル。今の気持ちはどうだい?」

 そんな台詞に思わずボクは叫ぶ。

「黙れ、この厄介オタク。ついに突撃してきたか」

 近所の人からの文句かと思って余所行きの声を出したけど、損した気分だ。そう思っていると、朝香は笑う。

「おいおい、その口調はまずくないか、アイドルさん?」

「まだ配信者だわ、ボケ」

 そう言い返しながらもボクは嬉しくて扉の鍵を開けた。

「朝香、なんできたの?」

 そう声をかけると朝香がドアを開けて入ってくる。

「いやぁ、一段落ついたところで二人で自殺とかされないかが心配で来ちゃった」

 そう言いながら足で靴を脱ぐ朝香にボクは「鍵は開けたけど、今のままだと不法侵入で警察を呼べるよ?」と笑う。それを聞いて朝香は苦笑すると「恩人にそれはないでしょ」と言い返した。まぁ、恩人だけどさ。

「配信、お疲れ様。予告してなかったから悪いけど、今、スマホで撮影しているから、許してね」

 その言葉にボクはぎょっとする。何を考えていやがる。

「初めまして、姫。後で自己紹介するけど、私は害悪なオタクじゃないよ」

「どこがだよ」

 軽快に言葉を交わすボクと朝香に詩織は戸惑っているようだった。ベッドの隅で縮こまる様子はウサギさながら。かわいい。

「今から莫大な利益を出すつもりで来たんだからさ、頼むよ」

 そう言いながら朝香は部屋に上がると詩織のスマホスタンドに手をつける。

「ごめんね、ちょっと借りるよ」

 そう言いながら詩織のスマホをどけてスタンドに朝香のスマホが置かれた。配信の時と同じ画角だ。なんとなく分かってきた。

「分かった。この撮影は、配信の後日譚みたいな感じで出すつもりなのね?」

 その言葉に朝香は「正解」と言いながらにやっと笑う。そういえば、忘れていたけど、詩織はパソコンが使えないから余り撮影した動画は出していないんだった。大抵が配信のアーカイブだ。まれにある投稿動画のほとんどが外注だと思う。外注先に悩んでいる彼女を見たことがある。

「ねぇ、萌歌。この人、誰?」

 やっと口を開いた詩織の言葉にボクは苦笑する。あー、そうだな。まぁ、えっと……。

「一応、友達? 殺されることはないけど面倒くさい人だね。すぐに気を許さなくても良いけど、落ち着いては良いと思う」

 ボクの言葉に詩織は「そっか」と言う。その間に朝香は詩織のスマホを触り始めた

「へぇ、ロック画面は萌歌なんだ」

 その呟きに「触るな、バカ」と言いながら、ボクは朝香から詩織のスマホを奪い取る。油断ならないオタクだ。

「早く、自分で自己紹介して。ボクがあなたのことを教えても意味が無いからさ」

 その言葉に「それもそっか」と呟いた朝香は立ち上がる。

「初めまして! 私は姫が月に閉じ籠もる以前さえも知っている人間だよ。想像つくんじゃないかな?」

「そんなリスナーなんて二人しか居ないじゃない」

 即答する詩織に朝香はピースサインを見せつける。

「私は冴木朝香! 笑顔がモットーのサオキだよ!」

 その言葉に詩織は目を輝かせる。

「お母さんか! 嘘でしょ! 何で知り合いなの?」

 当然の言葉にボクは苦笑する。

「偶然にも遠くないところに住んでいて、近くのコンビニで働いてたんだよ。で、詩織のSNSを見てたら声かけられて『姫の敵だったら殺す』って脅された」

「そんな言い方したっけ、私?」

 そう言いつつも朝香は「さっきのレス、嬉しかったよ。ボクの月は昇る、か。良い表現だった」と笑った。まぁ、そうだよな。配信主からのレスポンスは嬉しいよな。

「ところで、月兎耳の母こと、サオキはどうして突撃しに来たの? さっき、二人で自殺とか行ってたけど」

 当然の質問を詩織がするので朝香は頭を掻く。

「建前はさ、さっきの言葉で十分。二人が気を抜いた瞬間に落ち込んで死なないか心配だった。でも、本音は姫に会いたかった。それだけだよ。ファンだもん。ついでだから、二人のプロデュースもしようと思って動画を撮ってるだけ。別に動画は使わなくても良い」 その言葉にボクは苦笑する。

「突撃する厄介オタクぶりが記録されているわけですけど?」

 それを聞いて朝香は「あちゃー、黒歴史になっちゃう」と笑う。一生懸命、明るく振る舞ってくれているのもボクたちのためなんだろうな。

「ちなみに、こいつ、特定までちゃんとしているダメな部類だから。ボク、住所なんて教えてない」

「いや、色々と貢献するから帳消しにしてよ」

 朝香はヘラヘラとしながらも上手に言い逃れようとする。突撃したことには変わりないぞ。

「まぁ、詩織が良いならボクは許すよ。一応、友達だし」

 その言葉に朝香は「助かるー」と喜ぶ。だが、肝心の問題は詩織だ。そう思っていると詩織は腕を交差させた。

「ダメだって。警察に行くか」

「え、ちょっと待って、何が悪かった?」

 褪せる朝香に詩織が「嘘だよ、大事な最古参リスナーだもん」と笑う。お茶目に笑えるだけの余裕が詩織にも生まれたようだ。

「姫の黒歴史を知っているからちょっと怖いけど、大丈夫。きっとサオキならあたしを理解してくれてる」

 それを聞いてボクは笑ってしまった。まぁ、かなり怖いレベルで詩織の理解者ではあると思う。

「とりあえず、自分から来た以上、簡単には帰さないよ」

 ボクの言葉に朝香は「お泊まりだー!」と喜ぶ。そうか、お泊まりか。じゃあ……

「雅さんの許可は出ているの?」

 ボクの言葉に朝香は黙り込む。おいおい。ボクが「ちゃんとお父さんの許可をもらいなさい」と叱ると朝香は「今、機内モードにしていて、電話を無視してて……」と言い出す。呆れた娘だ。

「一回、撮影を中止しようか。本音で話そう」

 その言葉に詩織までもが「そうだそうだー」と言い出す。個人情報ダダ漏れな撮影なんて良くないからな。朝香は「えー」と言うが、どうしようもなくダメダメなのでボクは無理矢理に撮影を止めに行った。



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