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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第三章⑥月と地球の関係

「では、また」

 ボクはそう言うと朝香を連れて外に出た。そして、玄関の扉を閉めてから朝香を抱きしめる。

「なんか、終わっちゃった」

 ボクの言葉に朝香は苦笑した。

「頑張って気を張ってたからね。疲れたでしょ」

 その言葉にボクは素直に「うん」と言った。それを聞いて、朝香が頭を撫でる。

「私は、あなたを応援しているよ」

 その言葉にボクはなんか浸ってしまった。朝香と居ると凄く落ち着く。

「月が、綺麗ですね」

 ボクの言葉に朝香が大笑いした。

「月もない日に何を言ってるの?」

 その言葉にボクは「今日は新月だっけか」と空笑いする。直接、告白する気分じゃなかっただけなんだけどな。そんな思いをくみ取っているのか、朝香はしんみりと言った。

「はっきり言わなきゃ分からないよ」

 その言葉にボクは意地を張る。

「新月でも空に月は昇ってるんだよ。ほら、あそこにあるでしょう。あれだよ、あれ」

 何もない真っ暗な虚空を指さしているボクに朝香は「ああ、多分、あれかな」とうやむやな肯定をする。でも、ボクは知っているんだ。新月って正午に天頂に昇るから、本当は今、地球の裏に居るんだよ。

 ボクの幻に笑いながら寄り添ってくれる朝香は優しすぎた。幻と断定しない優しさが心地よかった。煮え切らないよね。ボクも悪い人間だ。

「よかった、あるよね」

 そんなことを言うボクに対して、朝香は苦笑する。

「大事な姫が待っているのに、よくそんなこと言えるね」

 ボクは笑うことしか出来ない。だが、そんなボクを見て、朝香は言う。

「大丈夫。私は、見えようと見えなかろうと、月を眺めながら待っている。心配しなくて良い」

 見えようが見えなかろうが愛してる、ってか? 悔しくなってボクは呪いをかけることにした。

「味方で居てね」

 ひらがなにして、たった七文字の呪い。これを聞いたら思わず立場を表明したくなる。でも、今、ここで立場を表明することは、ボクへの思いを言わざるを得ないはず。そんな呪いを朝香は気持ちよく打ち返す。

「今は、友達で居よう」

 上手にやられたな、と思ってボクも対抗する。

「既に親友以上だと思っていたんだけどな」

 それを聞いて、朝香が「ぐらぐらじゃない」と笑った。別に、ボクは親友以上って言葉を恋人という意味で言ったわけじゃないよ?

「ボクはバカだから、もっとしっかり言ってくれなきゃ分からないよ?」

 関係性を宣言させるために、ボクはバカだと自虐する。それを分かっている朝香は顔をしかめながら言う。

「きっと、言っても分からないから。だから、また会って、会い続けて、時間をかけて証明するよ」

 お互いに面倒くさい人間だ。それが良いんだけどね。

「また会おうね」

 ボクの言葉に朝香は「大丈夫、私は意地でも会うから。厄介なファンだからね」と笑った。本当、オタクって人間は怖いよ。

「月だけ見てれば良いから、夜だけで良いのに」

 ボクの言葉に朝香は「バカだね」と苦笑する。ボクはバカだよって宣言したばっかりなんだけどな。

「それでも夜は明けちゃうよ。私と夜を過ごしても、姫と夜を過ごしても。なら、私は姫と萌歌が今は時間を過ごすべきだと思う。私なんて後で良いよ」

 朝香は厄介なオタクなはずなのに、しっかりとした良識があるから素敵だと思う。若干、こじらせ気味なボクは耳元で囁く。

「一生、許さない」

 それを聞いて、朝香は笑った。

「一生、恨んででも私を忘れるなよ」

 今日しか知らないはずなのにボクらは凄く心が通っている気がした。だけど、それでも安心して背中を見せたときに刺されたら嫌だ。ボクは朝香の牙を抜こうとする。

「味方で居てくれるならキスをする」

 その言葉に朝香が「冗談じゃないならビンタするよ?」と怒る。そう来るか。なら、強引にでも彼女を味方にしよう。

 ボクは無理矢理に彼女へ向き合うと強引なキスをした。朝香が目を丸くしたのが分かる。それでもボクは唇を離さない。

 ……なのに、彼女はボクを拒まなかった。ボクが唇を離すまで彼女はボクを抱きしめていた。

 唇を話したボクに朝香は言う。

「そこまでして、宣言させたい? 曖昧にしたいって言っていたくせに」

 その言葉にボクは笑う。

「だってさ、今からボクは一人で決戦に行くんだよ? 明確な味方もいないのに頑張れるわけがない。逃げたくて仕方ないんだよ」

 その言葉に朝香は苦笑する。

「このまま、日をまたぐまで家に帰らなかったら怒るからね? ちゃんと戦ってきて。私だって、今のキスを許さない。ずっと根に持って生きるから。だから、戦ってこい」

 味方って言葉を使わずにボクを励まそうとする朝香にボクは少し寂しくなる。でも、彼女は自分なりの線を引いて、ボクの味方になろうとしてくれている。

「絶対の味方じゃないけど、味方なんだね」

 ボクの確認に朝香は「言わせないでよ」と笑った。それを答えとしておこう。

「行ってくるよ」

 ボクはそう言うと、朝香に背を向ける。朝香は何も言わなかった。歩きながらボクはイヤホンをして『宿命』を流す。朝香に最低なことをした自覚はあったが、それをしないと自己不信や恐怖で逃げてしまいそうだった。だから、これでいい。

 ボクは覚悟を決めてスマホでSNSを開いた。DMを解放していたせいで大荒れになっているが、今から何かしても手遅れだ。ボクは放置して投稿画面を開く。

〈もうすぐ帰ります。今まで配信を続けていて、偉かったね。姫をもっとみんな褒めて欲しい。コメントやリアクションは全て無視しているので、大事な話が合ったら落ち着いた頃に連絡をください。今は何を言っても受け付けません〉

 ボクは全てを打ち込むと推敲もせずに発信した。そして、自分のプロフィールのトップに投稿をピン留めする。これで、しばらくは大事な話は来ないはず。

 リアクションがすぐついた。一番手が月兎耳姫じゃないなんて新鮮だ。ボクは一瞬だけ動画サイトを開いて、詩織の配信を見る。詩織が「萌歌ー!」と泣き叫んでいた。芸名が機能していないな。病みクラゲじゃなくて空見萌歌として生きていかないといけないかもしれない。

 ボクは止血できて居るであろうハンカチとを取るために包帯を外した。そして、ハンカチを取る。夜風が染みるが、まぁ、悪くはないかな。これで一応、何も知らない人なら自傷に気づかないだろう。……無理か、服が汚れてるし。

「なるようになるし、したいようにするさ」

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