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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第三章
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第三章②ボクの曲

「ところで結局、最初の中間テストの曲は何?」

 ずっと話を聞いているだけの母親がそう尋ねた。ボクは思わず「忘れてた」と呟く。そうだよ、朝香にクイズを出している途中だった。

「クイズ! ボクの曲を古い順に出だしを歌ってください!」

 思い出したようにボクが言うと朝香は気を引き締めるように頬を叩いた。

「じゃあ、まず、『思い出』から! “君との前世を思い出せたら”!」

「案外、音程はとれてるね。発声はド素人だけど」

「いや、指導は求めてない!」

 朝香と軽口を言いつつ、ボクは朝香の本気ぶりに感心していた。

「バッチリだった。で、この歌は最初の中間テストの曲だと思う?」

 ボクの一言に夕香が「やっぱり、思い出の曲って一番最初に公開したくない?」と笑う。それに対して朝香は「いや、一応、楽譜がないだけで姫は自分の曲を出してたから一番最初って思ってなかった説もある」と反論した。どちらも良い線を行っている。動画として出したいと言われたときにボクと詩織がした会話を再現したようだ。

「初めての出会いを前世からの出会いと錯覚することってあるよね」

 ボクは意地悪な笑いを浮かべて、そうコメントしておく。その言葉に盛り上がっていた二人が悩み始めた。

「萌歌さんって優しいから案外、ストレートにヒントをくれそう」

「いや、結構ね、意地が悪いよ」

「お姉ちゃんが攻めるからじゃない?」

「えー、嘘だー」

 そんなやりとりをする姉妹を傍目に父親が紙に小さく〈これではないな〉と書いて見せてきた。なるほど。そう思うか。

「お母さんは一回しか聞いていないけど、この曲が一番好きだったからこれにしてみる」

「うそー、じゃあ、私もそうしようかな」

 そんなことを言う夕香にボクは意地悪を仕掛ける。

「朝香が当たっていたらもう一枚、ボクがサインを書いてあげよう。で、夕香ちゃんが当たったら姫のサインをもらってきてあげる」

 それを聞いて、予想通りに二人が動揺した。

「待って、ガチで悩む」

「私も姫のサインが欲しいんだけど?」

 そんな二人に微笑みながらボクは「どうせ朝香は姫に会いに来ると思うからあげなーい」と呟く。あくまで、夕香ちゃんが良識ある人だと信じているからこその提案だった。

「ちょっとーお姉ちゃんだけずるいー。私も会いたいー」

「写真を見せびらかそーっと」

 そんなことを言い合う姉妹に癒やされながらボクは「制限時間つけちゃうぞー」と笑う。それに対して、二人が焦るのを見ながらボクはゆっくりと鼻歌で『思い出』を口ずさんだ。

「ちなみに、私たちには何か無いの?」

 朝香の母親がそう尋ねるので、ボクは言葉に詰まった。

「何か欲しいものあります?」

 ボクの言葉に母親は「え、じゃあ、宿命を作ったときのノートとか」と言い出す。それを聞いて雅さんまで「ネタ帳が気になるかもしれない」と言い出す。えー、大事な物なんだけど。

「コピーで許してくれるなら……」

 ボクの言葉に二人が目の色を変えた。

「細かな表情まで重要になるわね」

「まぁ、見え透いてるかな」

 皆さん、楽しそうで何より。

「じゃあ、時間にしましょうか!」

 ボクは怖くなって勝手に時間を制限した。

「じゃあ、これだと思う人は挙手で!」

 ボクの言葉に誰も手を上げなかった。嘘でしょ……。

「何で分かったの……?」

 ボクの言葉に「まぁ、自分でそれっぽい雰囲気を作ってたから違うなと思った」と朝香が答える。そんなものなのか。

「じゃあ、二曲目。朝香、頑張れ」

 ボクがしょげながらそう言うと、朝香は緊張した面持ちで口を開く。

「じゃあ、『誰かが望む明日』だね。“明日を望む人へ聞いてみる”!」

 ボクはつまらなそうに「正解」とだけ言う。即座に四人が考え始めた。

「なんか、二曲目って感じじゃないよね」

「むしろ、一曲目じゃないなら自信がついた頃でしょ」

「配信日が四年前だからまだまだじゃない?」

「妥当だね」

 四人が協力プレイしているのを見ながら、ボクはなんか負けた気分だ。もちろん、この曲ではない。

「もしかしたら一曲目で自信をつけてるかもしれないじゃん」

 すねたようなボクの言葉に朝香が「言い方がさっきと同じだから嘘だと思う」と笑う。つまんない人。

「答えをどーぞ」

 ボクがすねたように言うと四人は声を揃えて「違うね」と答えた。ボクはそっぽを向きながら、朝香に「三曲目」とだけ言う。もう、正解とすら言う気が無い。

「次は『汗』だね! “気づいたら情熱が流れていた”!」

「本当、気持ち悪いレベルのオタクだね」

 ボクの言葉に「褒めていただきありがとうございます」と朝香が頭を下げる。むしろ、怖いよ。なんで無名作家の曲を続々と言い当てるわけ?

「なんか違いそうだね」

「雰囲気で分かるね」

「これ、もはや曲で判別するゲームじゃなくない?」

「見え透いているな」

 思わずボクはイラッとする。

「わかりやすくてごめんなさいね!」

 そう怒鳴るボクに四人とも笑って「こりゃ違うな」と呟いた。もう、それが答えで良いです。


「朝香、四曲目!」

 そう言いながらボクは一生懸命笑いをこらえる。次が本命だ。頑張って自棄なフリをしないといけない。「次は『夢』だね。“終わりとの中間地点に夢を置き”。これでしょ」

 唐突な断言に「えっ」と思わず呟くボク。その反応を見て四人が確信を持ったようだ。

「これだね」

「中間テストから安易に発想できそうだし」

「間違いないね」

「うん」

 明らかにムードが変わってしまったのに困惑しながら「卒業記念で思い出の曲を歌うかもよ?」と言っておく。すると、朝香が爆笑した。

「あ、そういえば、卒業配信で詳しくは言わなかったけど、この曲を思い出の曲って言ってた」

 それを聴いて四人が笑い出す。なんか、墓穴を掘ったらしい。

「わーかーりーまーしーたー、全部用意します! 夕香、色紙持ってきて!」

 ボクが諦めたようにそう言うと、四人は口々に「わかりやすいなぁ」と言った。ごめんなさいね!

「ちなみに『声』は詩織の歌声を褒めた曲。『網膜の奥』は出だしの“目に焼き付けるだけじゃ足りないから”が示すように細胞レベルで覚えていたいって詩織を大事にする曲」

 ボクの解説を聞いて、朝香が「結構、萌歌ってストレートな曲を書くよね」と笑った。複雑なことを考える割には表現は素直なんです。悪かったですね。

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