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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第二章
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第二章⑥試練と過保護

「なんとなく、朝香が婚約者に似ていたのもあって、同情しちゃって。それに、喧嘩したばっかりの時に朝香は優しくしてくれたから、ボクが甘えちゃったんです」

「ふむ、つまり、これは不貞だと」

 なんとなく話の筋が見えてきた。朝香に対して本気なのか、ということか。返答次第ではお互いのために会うなとか言いそうな勢いだな。

「今回の喧嘩は正直、大きすぎたので不貞に当たるかは怪しいところです。半分、喧嘩別れのようなものですし。まだ宣言はしていないですけど」

 ボクは朝香のことが嫌いじゃないから、手放したくなくて、気持ちを曖昧にした。こういうところが悪いのだと分かっているのだが、簡単には治らない。良くも悪くもボクはダメな人間が好きだ。

「なるほど。朝香のことは嫌いじゃないし、婚約者との喧嘩もそれだけ重大だったと。どんな喧嘩だったんだい?」

 地雷原をタップダンスしている気分だ。早く逃げたい。そう思いながらボクは話し続ける。

「彼女が配信中にボクを晒したんです。今まで互いの活動には不干渉でいたのに、彼女が一方的に約束を破りまして。そのせいで、ボクが有名になってしまいました。今日、ボクの曲が有名になったんですけど、ボク自体が有名になりたいわけじゃなかったので喧嘩になりました」

「それで、うちの娘をたぶらかしたと」

 思わずボクは「たぶらかしたって言い方はないですよ」と言い返す。それに対し、雅さんは「なら、うちの娘がなぜあそこまで好意的なんだ」と尋ねた。それはボクが知りたい。

「本人に聞いてくださいよ」

 その一言はある意味、地獄の幕開けだった。

「なら、朝香。おまえの気持ちを聞かせて欲しい」

 その言葉に朝香が過剰反応する。

「良いじゃない、私が誰かを好きになったって! 今まで女性のアイドルや配信者ばっかり追いかけてきたからって、そんな言い方はないでしょう!」

「だがな……」

「それに私の中では、彼女だってアイドルなんです! そういうことにしておいてくれませんか? そもそも、私について踏み込みすぎです! 何でもかんでも干渉してこないでください!」

 なるほど、話が見えてきたぞ。雅さんは朝香が理解できていないんだ。言葉でこそ同性愛者と聞いていても理解が出来ていないから、本当に女の子とが好きになるのかさえも分かっていない。結果、朝香の好きは本当に好きなのか心配しているのだろう。ただの憧れだったら諦めろという教育をしたいのか。見えたぞ。

「雅さん、彼女の思いが恋心かなんて野暮なことを聞くのは良くないですよ」

 ボクの邪推に雅さんが「いや、そんな」と動揺する。間違っていなそうだ。ボクが言うべきなのは静観することの大切さだろう。なら……。

「雅さん、ゆっくり見ていましょう。大丈夫です、ボクの婚約者も馬鹿なことはしますが答えをしっかり出します。ボクたちがすべきなのは放任でも干渉でもなく、静観なんです」

「じれったいな」

「それが教育ってものでしょう」

 ボクの言葉に雅さんが唸る。やり込めたようだ。借りは返したぞ。

「分かった。なら、逆にそっちはどうなんだ? 姫とやらのことは理解できているのか?」

 嫌な質問にボクが顔をしかめる。聞かれたくなかった。ボクが黙り込むと、雅さんが調子に乗り出す。

「まさか、自分の婚約者に裏切られたことが理解不足から始まってますとか言わないだろうな? もし、そうだとしたら私のやり方も間違ってはいないはずだが」

「間違っているとは言っていないですよ。ただ!」

 怒鳴るボクに雅さんは「ただ?」と聞き返す。ボクは口から出てしまった言葉に後悔した。本音が漏れたのが悔しい。

「ただ……気持ちをはっきりさせると全てが終わってしまいそうだから曖昧にしてるだけです」

 その一言を雅さんは鼻で笑った。

「立場さえ表明できない人間に何が出来るって言うんだ」

「いい加減にしてよ、お父さん!」

 朝香が怒鳴る。その言葉に雅さんが言い返す。

「だが、物事をはっきりさせられない人間に何かを変える力はあるのか?」

「そんなことどうでも良いでしょう!」

「いいや、娘の大事な未来だ。しっかりと……」

「それだから過保護だって言われるんでしょう!」

 醜い怒鳴り合いにボクは苦笑してしまう。まぁ、そうだよな。娘は守りたいよな。特に、害悪になりそうな人間とは。人と深くつながるとは、それだけ影響を受けることだ。ましてや好きになると言うことはそれだけ……。

「大事にしたかったんですよ。それでも」

 ボクの言葉を雅さんはあざ笑う。

「大切にするとは曖昧にすることかね?」

「少なくともはっきりさせて切り捨てるよりは良いかと。私の持論でしかありませんが」

 対立するボクに雅さんはニッと笑った。その笑い方は今までに無いほど気持ちよいものだった。

「及第点だな。少なくとも私は味方になろう」

 その言葉に緊張がやっとほぐれる。

「どこまでが演技なのか分からないので怖かったです」

 ボクの一言に朝香までもが「大丈夫、私も分からない」と同調した。こんな日常を送っているなんて、朝香は大変だっただろう。

「朝香には見透かされていると思ったよ」

 そう笑う雅さんだが、本当は雅さんなりの落とし所さえも見えてなかったのではないかと疑いたくなる。雅さんの言葉は全部が本音だったとしたら全てが納得いくが……答えは誰も教えてくれないだろう。本人が本音を言っているかなんて判定する機能は現実に存在しない。

「飯にしよう」

 そう言いながら雅さんがお刺身のパックに手を伸ばす。いただきますを言わない西洋方式らしい。ボクもそれに従って「そうしましょう」と言いながら揚げ物のパックに手を伸ばす。やっとご飯が食べられる……。

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