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等身大のアイドル  作者: 高天ガ原
第二章
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第二章④キテレツ家族

「まぁ、良いけどさ。着いたよ」

 そんな言葉とともに朝香が指さした場所は漆喰の壁に古そうな門構えした立派な区画だった。ボクは思わず日本コンプレックスという言葉を疑ってしまう。しかし、少し進むと他の家に隠れていた部分が見える。

「桃も驚くようなきついピンクの洋館ですか……」

 ボクの反応に朝香は苦笑した。しかし「こんなので驚いてたら大変だよ」と朝香が言うので、もっと凄いのだろう。扉の先には鶏小屋と竹垣があった。コケーコッコッコッと出迎えてくれる鶏たちに気圧されつつ、ボクは朝香を追いかける。すると、竹垣の奥には築山泉水のある立派な日本庭園があった。しかも、飛び石が用意されていて、その途中には明治時代を思わせるガス灯とベンチが置かれている。時代錯誤は言うまでも無い。これに慣れるというのは過酷なもんだろう。普通の世界が退屈に見えないだろうか。

「和をもって和を制す、ですか」

「凄い造語だね」

 そんなやりとりをしつつ、ボク達は洋館へと進む。朝香は慣れざるを得なかったとはいえ、この家に愛着が湧いているのだろうか。もし湧いているとしたら凄く生きづらいと思う。

「ただいまー!」

 そう叫ぶ朝香の声を聞いて、ドタドタと走る音が響き始めた。姿の見えない女性が「姫がヤバいの!」と叫ぶ。声も若そうだし、妹さんだろうか。早速、家族に会うことになるようだ。ボクは慌てて服を叩いて、鞄から鏡を取り出した。しかし、どうしようもないことばかりを感じさせられる。叩いた服には思いきり血がついていた。化粧は仕事用の気が抜けたメイクだ。毎日見る同僚から見て恥ずかしくない程度の雑さが見える。そういえば、お風呂にも入っていない。嫌だなぁ。誰かの家に行く前にお風呂に入れなかったのはボク的には失礼だ。身を清めてから来たい場所だった。

「姫が本当に『宿命』の作曲者と同居してて!」

 そう叫びながら姿を現した女性にボクは深々とお辞儀した。そんなボクを見て、彼女は見事に動きを止める。あまりにも長く固まる物だから、自分の時計を確認して、時が進んでいるのか疑ってしまった。

「妹の夕香です。夕方の香りは懐かしくて落ち着くと父が申しておりました」

 何の動揺もせずに朝香が紹介をする物だから、ボクも負けじととぼけてみる。

「今日の夕方の匂いは酷かったけどなぁ」

 その言葉に朝香は「まだ事前だっただけ良かったんじゃない?」と笑うが、十分に異常な夕方だったと思う。ボクの声を聞いて確信を持ったはずの夕香はへたり込んで呆然としていた。口からは「偽物、似せた人。または夢」などと漏れ出しており、見ていられる状態じゃない。朝香は夕香を眺めながら「ごめんね、しっかり教育しておくから」と言い出すが、むしろ、これはこれで見物だ。

「ドッキリ番組に出すなら十分でしょ」

 ボクがそう茶化すのに対して「なら、特殊メイクをしてもらわなきゃ」と言い出す朝香。「いや、ドッキリを仕掛ける側なのね」とツッコんでおいたが、なかなか妹に対して当たりが酷いと思う。

「ねぇ、お姉ちゃん。嘘だよね?」

 夕香がそう尋ねるので朝香は「教育するつもりだよ」と答える。いや、そっちの方じゃ無いと思う。どう考えても、文脈的に「偽物だよね?」って言いたいのだと思う。仕方ないので、ボクが笑わせるしかなさそうだ。

「こんな短時間で服装まで整える偽物が居たら影武者として雇いたいよ」

 ボクのボケに対し、朝香が大笑いした。そんなに面白かっただろうか。

「自傷していて、血もついているし、完璧にはコピーできていないけどね」

 その言葉に「あ、そっか。ボク、偽物かー」と笑うボク。そうだよね、傷物になってるんだもんね。ごめんね。

「嘘でしょ……」

 夕香が呟くが、どう解釈したのだろう。本物が偽物宣言しちゃったからメチャクチャなことになっている。なんか、申し訳ない。そんなタイミングで、柱の陰からひょっこりと誰かが顔を出す。

「あのー……」

 いつの間にか近くまで来ていた女性に驚きつつ、ボクは母親だろうと思ってかしこまった挨拶をしてみた。

「初めまして! 今、話題の『病みクラゲ』こと空見萌歌です! お邪魔しています!」

 思ったより声が響いてしまったことに驚きつつ、ボクは深々とお辞儀してみる。すると、女性はすかさず手を握ってきた。

「今日知ったばかりですけど、地下アイドルの曲まで全部聴きました! 素晴らしかったです!」

 大げさな反応にボクは「いや、弱小な歌手にしか採用されてこなかった未熟者ですよ」と照れる。それを聞いた朝香が「今までの仕事相手は弱小だと思ってるんだ」とツッコんでくる。「自虐してるだけだよ、彼らは凄いさ」とボクは答えるが、残念ながら今までの仕事相手は評価されてこなかった人たちばかりだ。

 立ち直ったであろう夕香が「サインをもらわなきゃ!」と立ち上がる。ドタドタと走り出すがサインなんて考えていないから困る。どうしろと言うんだ。ボクは焦って〈クラゲ 線画 簡単〉と調べ始めた。その様子を見て「サインがないの?」と朝香が尋ねてくる。うるさいよ、ボクは有名になる予定じゃなかったんだ。

「お姉ちゃん、色紙ってどこー?」

 そうとも知らずに夕香は一生懸命になっているらしい。どうしよう。そう思っていると朝香が「私の部屋にあるから行くー」と言いだした。待って、見つけ出さないで。もっと時間をちょうだい。

 そう願うがむなしくも色紙が出てきてしまった。ボクは脳をフル回転して良い感じのデザインを考える。えー、どうしよう。

「私が考えようか?」

 朝香が苦笑するのでボクは「身内のサインをもらっても嬉しくないでしょう」と頭を掻く。どうしようもないのでボクは適当にクラゲの頭を掻いた後、下に〈やみくらげ〉と触手っぽく書くことで終わらせた。適当にサインを作ってしまったけど良いのだろうか。

「うわぁ、嬉しい!」

 そう叫ぶ夕香にボクは「本人なのは疑ってないんだね」と苦笑する。残念ながら、ボクは偽物じゃなかったらしい。そんな中、野太い声が響いた。

「おいおい、ついに女を連れてきたのかよ」

 そう言いながら遠くから誰かが近づいてくるようだ。ボクは恐らく本丸だろうと思い、直立体制を取る。そんなボクを見て、朝香がにやっと笑った。頼むから変なことをしないで欲しい。そう願うも叶わず、二メートル超えの巨漢が来ると同時に朝香はボクへ抱きついた。

「そうなのー! 大好きな人なのー!」

 気持ち悪いくらいに声を上擦らせてキスしようとする朝香を手で制しながらボクは一言、「今日遭ったばかりでしょう?」と叫ぶ。しかし、気にしないのか朝香は「そうだっけ?」と惚けた上で「大好きなのは変わらないよ?」とか言うから困った。どこぞの詩織に似て図太いんだから。アイドルとファンは似るものだっけ……?

「父で作家の雅です。とりあえず、居間へどうぞ」

 なんとか難関を越えたらしく、家の中に入れてくれるらしい。ボクはホットしながら朝香の頭にぐりぐりと拳を押しつける。

「はい、いい加減にしなさい」

 そんなボクを「つれないなー」と言いながら解放する朝香。聞き分けの良さは朝香の方が良いようだ。

 お行儀が悪いことに足で靴を脱ぎ始めた朝香を見ながら、洋館なのにちゃんと靴を脱ぐ方式なんだ、と内心でツッコむボク。靴を脱ぎながら色々と観察すると、どうもこの家ではスリッパが主流らしい。朝香は水色の水玉模様のようだ。母親はもこもことしたピンク色。父親は唐松模様で、夕香はオレンジのストライプか。

 観察をしていたボクに朝香が「どうぞ」とスリッパを手渡す。来客のボクは虎の顔が一面に描かれた威勢の良いスリッパらしい。虎を踏むって、なんか怖いな。

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