受け継がれる意思
家路。お前は何故逃げなかった?逃げようと思えば逃げれた筈だ。
捜査員に囲まれた家路に山下は問いかけた。
俺が逃げても長くはない。どうせ捕まる。頭が回っても、身体がついてこない。それより、次の世代の奴に任せるのが良い。そう思ったからだ。
次の世代?
そうだ。次の遠藤平吉に任せるのさ。お前達だってそうだろう?後藤のように推理力
と統率力がある奴はそうはいない。良い後継者だと思うよ。だから俺も次の世代に二宮を選んだ。内田でも良かったんだが、結果、二宮になった。
次の遠藤平吉が二宮になると?
そうだ。ミステリー好きだしな。きっと良い遠藤平吉になるだろう。その方が警察の為にもなる。
何を言っている?警察の為だと?
そうだ。張り合いがなければ、腐るだけだ。常に緊張感を持て。警察とはそもそもそういう組織である筈だ。二宮にしてやられないように常に警戒しておけ。
それが例え行き過ぎているとしても、ルール違反だとしても、お前が思う正義はそうなんだろう。だが、それを俺達の思う正義でもって必ず二宮を捕まえる。
それを見れないのは残念だな。世紀の対決だ。
今まで信用していた相棒と思っていた男が、ここまでの考え方を持った男だったとは。元相棒なのに、今や遠くのそして憎むべき存在だとは。山下は残念でならなかった。
...次の相手が二宮で良かったよ。俺と同じ想いを後藤にさせなくて済む。相棒が犯人なんて、そんなこと経験させたくはない。
山下。俺はお前が相棒で良かったよ。むしろお前だからこそ仕掛けられた。こうして最後は捕まえてくれるだろうとも思っていたしな。よくぞ捕まえてくれた。ありがとう。相棒。
...もう少し早く聞きたかったよ。お前の口から相棒と呼ばれる日をどれだけ待ったか。それがこんな形だなんて...
山下さん。そろそろ。
いつの間にか留置所には山下、家路、内田の3人のみになっていた。山下は家路にじゃあなとだけ声をかけ部屋を出た。しっかりと施錠をし留置所を後にする。
さっきの話なんですけど
後藤が山下に話しかける。
俺は相手が相棒だろうと誰だろうと容赦しません。仕事なので。ただ、私がもし家路さんの立場で考えたら、やっぱり俺も山下さんなら捕まってもいいかなと思います。何故かと言われると特に理由はないんですけどね。山下さんなら何故か捕まってもいいと思ってしまうんです。人間臭いというか、人としての暖かさがあるからですかね?そういう人はなかなかいません。次世代への引き継ぎ、大変なのは山下さんですね。
そこはお前が引き継いでくれるんじゃないのか?
いや、俺に勤まると思います?無理ですよ。ハイブリッドではありますけど、そういう人間関係的な事はどちらかというと苦手なので。
苦手を克服する気は?
無いですね。
食いぎみに返答され、それっきり2人の間に会話はなかった。
捜査員の緊急配備を解くよう指示を出し、集まった捜査員達には家路と内田両名の逮捕の報だけを知らせた。留置所まで付いてきた数人の捜査員達には、改めて捜査本部を作ることを話し、それが出来るまで他言無用とした。
山下は、後任はきっとそのうち育つことを期待して、捜査本部の解体と共に隠居することにした。
後藤は、その推理力を買われ二宮の捜査本部を任される事となった。山下に残るよう説得を続けているが、頑張れハイブリッド!と断られ続けている。
...数日後...
ネットカフェに1人の男が居る。くしゃくしゃと頭を掻いている様子が防犯カメラに写っていた...