逃亡
呆けてどのくらい経っただろう。乾いた秋風が寒く、ドアを閉める。部屋の臭いはもうない。
ドアの前で覗き穴を見る。どうやらこの階には人は出払っていて居ないらしい。そっと外に出て階段下を確認する。すると、何やらヒソヒソと話している。
301の佐々木さん、怪しいと思わない?
何で?
なんかさ、夜に音してるのよ。隣だしさ、ちょっと怖いんだけど。
まずい。これはホントにまずい。部屋に入られたら何だか終わりな気がする。とりあえず戻ろう。
抜き足差し足忍び足。戻るととんでもないことに気づいてしまった。
外側のドアノブがぬるぬるだったのだ。
これはいかん!
急いで部屋の中に入り、キッチンペーパーと中性洗剤を持って外へ。綺麗に拭き取って洗剤で擦り洗い、再度空拭きして終了。
階段を上がってくる音がする。まずいまずいマズイ!部屋に入って音を立てぬようにドアを閉め静かに鍵を閉め覗き穴を見る。心臓の音が外に聞こえていないか心配になる程うるさい。
隣の住人が自室の玄関を開け帰ってきた音がする。よく考えたら私の部屋は一番角の部屋なのでわざわざこちらまで来ることはそうそうない。
私はその場にへたりと力なく座り込んだ。
二時間ほど経過し、隣の住人が部屋を出ていったのを確認する。
私は即座に行動を開始。ベランダに干していた洗濯物をどちゃどちゃと部屋の中に入れ、着替えを出来る限り旅行用バックに詰めた。静かにドアを開け、静かに鍵を閉め、物音立てないよう静かに階段を降りた。駐車場まで少し歩くので、そこは出来る限り堂々と旅行行ってきます感を出しながら歩き車に乗り、とりあえず少し遠くの大型スーパーまで車を走らせた。