ネットカフェの夜
こりゃあひでぇな
くしゃくしゃ頭を掻きながら男はポツリと呟いた。
部屋の中は血塗れ。至るところに飛び散った血痕がある。おぞましい光景が相まって血の臭いが鼻を突く。男は部屋を後にした。
ネットカフェの店員が警察を呼び、たちまちのうちに駐車場は警察車両と野次馬でいっぱいになる。秋保ICに続く道路に面していて仙台副都心が近いとは言え、ここは山に近い。夜になれば人通りはおろか、車通りも寂しい田舎だ。そんなところで凄惨な事件現場があれば噂も広まりやすい。野次馬も警察も、どこからともなく押し寄せるようにそこに集まった。有名アーティストのライヴ会場のように押しくらまんじゅう状態で、規制線を張るにも思うようにいってないようだ。
現場検証を終え警察がネットカフェの店員と何やら話している。そしてまた店内に入っていった。
ライヴ会場と化した駐車場では、マスコミ関係者が動き回っている。写りが良い場所を探しているのかカメラや折り畳みのステップ等を携えて各局派遣されてきているようだ。こんな現場でもカメラに写りたがるピース小僧は、お構いなしにカメラの前に前にと陣取ろうとする。それが更にライヴ会場の熱気を煽った。
規制線から救急車両迄の道がブルーシートで覆われた時だった。一瞬にしてそこに視線が集まる。隣にいる他人の生唾を飲む音が聞こえてきそうな程の静寂。その静寂こそ、その場にいた誰もが待ち焦がれた瞬間のように思える程、皆の鼓動は爆発しそうな程に踊っていた。
救急車両が静寂に包まれた空間を突き破りその場を出ていく。と同時に各々皆の口が開き熱気が再加熱していく。まるでライヴ会場でアンコールを希望するかのように。
熱気は、救急車両の音が静かになっていくと共に離散していった。駐車場からは野次馬が引き、警察車両の真っ赤なランプが闇に動いていたが、それもやがて消えていった。
各局どこでも臨時ニュースとして一報を報じた。マスコミ関係者は近年、テレビやラジオでの稼ぎは少なく、躍起になってこのニュースを地上波で伝えていく。ネットニュースにもなるが、ネットではすぐに有名人の速報等に飲み込まれていく。こういうニュースをじっくりやるのは地上波の方が良いという判断だったのだろう。予想通り、この凄惨な事件はネットニュースでは一時的なトレンドにもならず消えていった。と同時に、地上波のニュースでも進展を逐一報道することはなくなり、夕方には地元のニュース扱いになっていった。
人々の記憶に一時的な熱気を帯びさせたこのニュースは、現場にいた野次馬と警察、マスコミ各社の人々の限られた熱気へと沈静化していった。