昼休みの一打
2話 昼休みの一打
昨日は驚いた。あのシネコンで一丈青さんたちも見ていたのか。
しかも彼女が怪獣映画好きだなんて。
驚きだ。
ボクは学校で一番の美少女の彼女は違う世界の人だと思っていた。
まさかこっちのヒトだったとは。
学校近くの通学路。
あ、あの後ろ姿は。
腰近くまで伸びたロングヘアーは、一丈青さんだよな。
髪が朝日に輝いて見えた。
間違いない。
一丈青真さんだ。
声をかけようか。
しかし、同じクラスなのに存在すら知らなかったボクが声をかけたら。
「あなた誰?」
とか、また言われないだろうか。
「あ、枯木くんだ。おはよう」
え、振り向いた一丈青さんが、ボクにおはようと。
「おはよう……一丈青さん」
「わたしのこと見つめてた? なんだか視線を感じたのよ」
すげーバレてた。
「後ろ姿を見て、一丈青さんじゃないかと……」
「ねぇねぇ、昨日枯木くんも観てたんだよねシネコンで」
「なんか、昨日の話から同じトコで観ていたみたいだね」
あ、一丈青さんがこっちに来てボクだけに聞こえる声で。
「ゴジラの銀座来襲のあと、被害者が出てたよね。ソコに空襲後のような真っ黒い子ども、居なかったよね」
なんと、そのシーンは最近のソフトではカットされてると。
「たしかに、有りませんでした。そのシーン」
「劇場上映版にもカットされてたのね。昨日わたしの怪獣師匠のお父さんに『ゴジラ』を観たこと言ったら、有ったかと……」
「そうなんだ。ボクは叔父さんからそのシーンのコトを。ボクの怪獣師匠は叔父です。あと、わかりました? 芹沢博士がオキシジェンデストロイヤーを使う気になる女学生の合唱シーン。テレビから歌声が流ますよね」
この話しは初代のゴジラを観ている人に話したかったんだ。まさか、同級生に居ようとは。
「ええ、焼け野原になった銀座のシーンに歌が 流れる」
「あのシーンで、博士の部屋のテレビは消してあったんだけど。突然つくんだよね。変じゃないかな」
「ああ、アレはゴジラに殺された人たちのポルターガイストで。スイッチが入ったと父が……」
「おはよう。さっそく、二人でオタ話」
「おはよう純子」
「おはようモリジュン……ああ、森目の方がいいのかな。もうモリカナは居ないし」
「どっちでもいいわよ」
「アレ、ぼっちのボッキーくんが朝から女子とイチャイチャと」
後ろから来たクラスメイトの男子にコッツかれた。
三人組のこいつらはクラスで、もっとも嫌いな奴らだ。
ボッキーというあだ名をつけたのは三人の真ん中に居る野黒という奴だ。
同じ中学だった。
「しかも、マコトちゃんとか。あ〜マコトちゃん、こんな奴としゃべったらぼっちが伝染るぜ」
なんてバカなコトを言うのは三人のリーダー格の猪馬だ。ボクの頭をコッツいたのもこいつだ。
三人の中でデカくて、強そうなので、あとの二人はこいつの腰ぎんちゃくみたいなもんだ。
ホントかどうか知らないがダブってて、ボクらより年上らしい。
「なによ、あたしたちが誰と話しても勝手じゃない……」
「猪馬さん、こいつは隣のクラスの女だ。猪馬さんを知らないんですよ」
「そうか、あのなぁ女……こいつなんて名だ?」
「知りません」
「まあ名前なんかどうでもいい。マコトちゃんはオレの女だから、勝手に話すなボッキー」
「ナニ、あんた昭和漫画の不良? ソレに枯木くんってボッキーって呼ばれてるの」
「勝手に彼らが……他の誰も呼んでないよ」
「ちょっと、どいて純子。ねぇ猪馬くん今、むちゃくちゃ失礼な事を言いましたね」
「え、オレっなんか変なコト言ったか野黒」
「さて? 古川、聞いたか」
「おれぇ耳がわるいから……」
「あなたたち、記憶力ないのかしら……。マコトはオレの女って言いましたよね」
「違ったけ?」
「頭もおかしいようね……」
ああ、普通にしゃべってるけど一丈青さんは怒ってるよね。
彼女のこんな面、初めて見た。
黙ってればおとなしそうな美少女に見えてたんだけど。
意外とこの子、ボクが思っているような子じゃないのかも。
でも、こんな奴ら相手にヤバくない?
「おーい、そこの連中。早く学校に入れ! 遅刻にするぞ」
「あ、もう門が閉まる時間だ。一丈青さん、学校に入ろう!」
ボクらは走って門が閉まる前の校門へ。
教室に入って席に着いた。
奴らは窓ぎわの列の後ろだ。
ちょうど、ボクらの列の反対側で遠い。
が、猪馬はボクの方を見てにらみつけてる。
ちょっとまえまでボクなんか無視してたのに。
お昼休みまで何事も起こらずに時間が進んだ。
いつものように席で弁当を食べてると。
「お~いボッキー。今朝のバツだ。外のコンビニ行って猪馬さんの食後のスィーツ買ってこい」
「バツ? なんのこと」
「猪馬さんの彼女としゃべっただろ! てってて」
突然現れた一丈青さんが、野黒の耳を引っ張って。
「それは、誰の事かしら……」
おだやかな声で言った。
相変わらず、言い方は美少女。
「離せよ、痛て〜よ」
「あなたたち朝から同様、まだおかしな事を言ってるの。誰が、あの馬鹿の彼女なのかしら」
「おい、野黒。まだかよスィーツ」
今度は猪馬だ。
「あ〜猪馬さん、こいつが」
「見ればわかるが、スィーツを頼んだおまえはなんでココにまだ居る」
一丈青さんは野黒の耳を離した。
「この人がまだ、たわけた事を言ってたから、ちょっとわたしが引き止めたの猪馬くん。誰があなたの女なの?」
「な〜んだ。まだその話を。言っただろ、一丈青真ちゃんだよ。ギャア!」
うわっ一丈青さんが猪馬の足を踏んづけた。
「ナニしゃがんだ、痛てぇじやないかマコトちゃん」
「当たり前です。痛く踏んだから。そのマコトちゃんって言うのはやめなさい猪馬ちゃん」
うっ、なんだ。こんな女子に踏まれた足が動かせない。マジかよ。
「あのな猪馬ちゃんも……くってて」
「どうしました猪馬さん」
「動けねぇ。踏まれた足がはずせねぇんだ」
「おい、一丈青。猪馬さんが、足をどけろと。がっ!」
野黒が一丈青さんの体に触れようとするまえに一丈青さんは足を離し、野黒からよけた。
足を動かそうと力を入れていた猪馬の足が勢いよく上がり野黒のアゴに直撃。
「ワリぃ野黒!」
野黒は倒れて気を失ってる。
「一丈青、オレを怒らしたなぁ」
一丈青さんの手を取ろうとした猪馬の手首を先に取った一丈青さんは猪馬の腕を引き懐に入って手のひらを猪馬の胸にあてた。
「正当防衛よ猪馬くん」
「ナニ!」
手のひらで打って、猪馬がとんだ!
窓ぎわまで飛ばされた猪馬は尻もちをついて立ち上がらない。いや、立ち上がれないのか。
デカい猪馬の両手をとり腰ぎんちゃくのもうひとり古川が立たせようとするが立てない猪馬。
たまたま、教室で弁当を食べてたのがボクだけだったからこのシーンを目撃したのはボクと奴らだけだった。
「大丈夫よ。お昼休みが終わる頃には立てるは猪馬くん」
「すごいな一丈青さんって空手部かナニかだっけ?」
「わたしね、拳法習ってるの学校外で」
そして彼女ははボクの耳元で。
「実はね、わたしの師匠は自称宇宙人なの」
つづく




