序・モモさんとあいさつしよう
俺はモニターの真ん中に表示されたその文字を、無感情に眺めた。
それは社長である俺宛の一通のメール。件名には離職願、と書かれている。
「……」
頬杖をついたまま静かにエスケープキーを叩いて画面を閉じる。
別にこんなのは初めてじゃない。今月だけで三回目。どうでもいいやつが何しようが、どうでもいいことじゃないか。
モニター右下から通知が上がった。「14時 人事コンサル来社」。5分前の通知。
デスクから立ち上がる。
人事コンサル、か。この状況、一体どうするんだろう。
†
顔を合わせて、その人事コンサルはふわりと微笑んだ。
「改めて、空谷百です。よろしく、氷上社長。親戚がいてややこしいので、下の名前でモモ、とお呼びください」
ゆったりとした穏やかな仕草に人柄がでている。うん、かわいい。
「……まあ、うん。とりあえずどうぞ?」
「では失礼して」
人事コンサル……モモさんは、椅子を引いて座ろうとして、
「あっ!?」
キャスターに引っかかって床に尻餅をついた。
「……」
ドジすぎでしょ。大丈夫かこいつ。
†
「……で、今月で離職者が二名──」
「三人。さっき増えて」
「それは、残念ですね」
モモさんは心底そうだというように目を伏せる。そして、首を傾げて心配げにこちらの顔を覗き込む。
俺はなんでもない風に返す。
「新しく採ればいい。エンジニアくらいすぐ集まる」
平静を装う俺をじーーっと見つめてから、モモさんはにこっと笑った。
「……ええ! もちろん、お手伝いしますよ」