口撃マシンガン
悲報。
「ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ!!」
結局絡まれた。
トーチの案内で無事街に着き、冒険者ギルドで登録を済ませようとしたところ、ガラの悪い男に横から割って入られた。普通に「ハ?」と思ったので注意したら「俺はCランクだから譲るべき」だの「納品系の依頼はスピードが大事なんだそんなことも知らないのか」だのごちゃごちゃと抜かした挙げ句、男は見事なまでのテンプレセリフを吐いた。
(年のいったガタイが良い男に化けた方が良かったでしょうか?)
いや、それだと俺に目を付けられて「ここは子守りに向かねぇぜ?」とか言われるだろ。多分、何やってもイチャモン付けられるから逆に問題ない。
(かしこまりました)
「オイ、聞いてんのか!」
清々しいほどの害悪っぷりに一周回って苛立ちは静まったが、それはそれとして言われっぱなしは気にくわない。
「バカなんですか?」
「…は?」
「ランクを振りかざしてイキって、自分が小物だって言いふらしてるだけなのに気付いてないんですか?バカなんですか?子供相手にみっともなく威圧して、恥ずかしくないんですか?」
「は…?は?」
俺の完璧で流れるような罵倒にどうやら頭が追い付いていないらしい。
(ノリノリですね、マスター)
(人を煽ってるときが人生で一番楽しい)
(クズですね、マスター)
(お前も割りとそういうとこあるだろ)
(否定はしません)
「少し言い返されただけでうろたえるなんて、みっともな…。どうしよう、冒険者になるの止めようかな…こんな人と一緒にされたくないし…」
「エルガー!言い過ぎだ!流石にこのお兄さんが可哀想だろ?いくら大人としてあり得ない言動をされたからって!」
トーチ、ナイスアシスト。フォローに見せ掛けたクソ煽り芸術点高いな。
「ダメだよ、ちゃんと指摘しておかないと。浅はかで低能な人は放っておくと周りに害しか及ぼさないんだから」
「テメェら…ナメやがって──!!」
男が拳を振りかぶる。うーん、そっちが殴ろうとするなら、こっちも暴力を使うしかないが…
(なぁ、こいつ殺して良いと思う?)
(人殺しは問答無用で捕まりますよ)
(ダメかぁ…)
じゃあ反撃くらいにしとくか。
「《ストーンバレット》」
無から生み出された礫が、銃弾のように男の両肩と両腿を撃ち抜く。
そしてトーチが痛みに呻いて床に転がる男を、邪魔だと言わんばかりに盾で弾き飛ばし、受付の前からどかした。
一連の流れにギルドにいた野次馬たちはざわめいている。「あのガキども、目付けられてカワイソウになぁ」とケラケラ笑っていたのが「え…ヤバ…」とドン引いていた。そこは「やるじゃねぇかこのガキども!」って盛り上がるとこじゃねぇの?テンプレ的に。
まぁ、テンプレを堪能するのはこのくらいにしておくか。
「あ、冒険者登録したいです」
「では、こちらの用紙に必要事項をご記入ください」
サッと用紙とペンが差し出される。その間、気絶している男を一瞥もしていない。
(受付の人スルースキル高くね?)
(冒険者は実力主義、自己責任が鉄則です。職員に彼のような人を止められる強さはありませんし、冒険者は無法者の割合が大きく、規則を作ったとて従うような人間でもありません)
にしても肝座りすぎだろ。
「これで大丈夫ですか?」
「…はい、大丈夫です。こちら、冒険者カードになります。紛失すると再発行になるので気を付けてください」
Eと書かれた白いカードを渡される。何か免許証みたいだな。身分証にもなるし、大体同じか。
「それでは、良い冒険を」
「「ありがとうございます!」」
(門出の言葉が最高。良い受付さんだなぁ…)
(ゴミと会話していた分、良さが際立ちますね)
(俺としてはゴミ野郎相手だと心置きなく毒吐けて満足)
(マスターが楽しそうで何よりです)