ひきこもり卒業
「なぁ」
「はい」
「ダンジョンマスターって外出て良いんだよな?」
「えぇ、もちろん。他のダンジョンを見て学ぶも良し、純粋に世界を楽しむも良し、仲良くなった冒険者を自分のダンジョンに連れ込み、糧とするも良しでございます。あなたは何をしたいですか?マスター」
「冒険者」
「即答ですね、素晴らしいです」
ラノベオタクとしては異世界に来たらこれは外せないからな。
「今はコアも設置しておりませんので、外に出ても問題ないでしょう。マスターご自身が戦うのであれば、自己強化をすることをお勧めいたします。ダンジョンポイントはマスターの能力値やスキルを得るにも使えますので」
カタログを開くと、自己強化の欄があった。おわー!?魔法がめっちゃある!??これなんて人間が一生かけて習得するやつだろ!名前的に!!
俺はどうしようか。まぁでも、異世界と言えば魔法だろ!えーと、MP多めに振って魔法攻撃力上げて…うわ、ポイント足りねぇ。結構貯めたのに。どっか削らないとな…
「そういえば、お前は何ができるんだ?」
「そこに載っている大抵のことはできます」
やっぱ、こいつが一番のチートなんじゃなかろうか。
「じゃあ、タンク役してくれるか?俺防御捨てるから」
「おや、私は留守番をしなくても良いのですか?」
「留守番させてもダンジョン内で戦うことはないんだろ?なら、連れてった方が良い」
「マスターは意外と賢明であらせられますね」
「割りとバカだと思われてた??」
普通に心外なんだが。
「私が読み取ったマスターは、すけべで、異世界ファンタジー好きで、好きな物を前にするとあからさまに機嫌が良くなり、前世では隠していましたが、本性は他人の神経を逆撫でしておちょくるのに快感を覚えるいたずら好き。総評としては『色々と子供っぽい』です。間違っていますか?」
大体あってるから何も言い返せねぇ。
「自己分析ができているのは素晴らしいと思いますよ、マスター」
煽りよる…
煽り厨ダンジョンのスライムにふさわしくなったな。
「光栄です」
褒めたけど褒めてねぇんだわ。
まぁ、良いか。話してる間にポイントは振り終わったし、後は…
「じゃ、姿を男にしといてくれ」
「?なぜですか?」
「こういうのって美女連れてると絡まれるのがテンプレじゃない?」
「あぁ、"ライトノベル"のあるあるですね」
そう言いつつ、ぐにゃりと美少年に変化した。こいつ…細腕の少年がゴツい鎧と大盾を装備してるギャップを理解してるな…
…えーと、ステータスは振り終わった。スライムの姿も指定した。他に何かあったか?
「外に行くのなら互いに名前が必要では。個人の識別の面でも、他人に名乗る面でも」
「確かに。何か案ある?」
「私はともかく、マスターには前世の名前があるのでは?」
流石にこの顔にゴリゴリの日本人名は合わねぇよ。
「マスターがそう仰るのでしたら…そうですね、『エルガー』などはどうでしょう」
「由来とかある?」
「ドイツ語で怒りを意味します」
「カッコいいじゃん、採用」
俺はキレさせる方だけどな。
「お前は『トーチ』で良い?」
「由来があればお聞きしても?」
「チートを逆さまにしただけ」
「なるほど。ありがたく頂戴いたします」
多分これで全部か。まぁ、足りないとこがあったらアドリブで追加しよう。互いに心読めることだし。
「…良し」
まずは、ちゃんと周りに人がいないのを確認してから、ダンジョン前に転移する。何なら、このダンジョンマスターの部屋から出るのも初めてか。
俺のダンジョンは洞窟の奥にある。歩いていくと、外の光が見えてきた。
「初めてのお外ですね。泣きますか?」
「ほんと、イイ性格してんなお前…」
普通の人間は魔法の習得に《指南書》が必要
ダンジョンマスターは生物としてあらゆる魔法が使えるが、神が「最初から最強なのは面白くないよね」と制限を掛けている。ポイントで逐次制限が解放されていく仕組み