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ある新米冒険者

ぼくは神官のルート。パーティーの回復役だ。ついこの前に冒険者登録を終えて、ようやく依頼をこなすのも安定してきた。


パーティーメンバーは魔法使いのマナと、拳闘士のジェーン。二人は幼馴染みで、初めての依頼を受けたときにぼくが少し手伝ったのもあって、今もパーティーを組んでいる。


今はまだEランクだけど、いつかAランク冒険者になりたいなぁ…!


「ジェーンちゃん、やりたい依頼ある?」


「オレはそろそろ戦いてぇな」


「なら、この依頼なんてどう?」


ぼくが妄想に浸っていると、ボードから依頼を探していたマナが一枚の紙を指差す。


「『洞窟の調査』?」


「『最近、採掘所の洞窟の奥からネズミの声が聞こえてきます。もしかしたらダンジョンが現れたのかもしれないので、調査をお願いします』か…」


「ネズミがモンスターだったら戦えるし、そんな危険でもなさそうだから選んでみたんだけど…」


「ぼくは良いよ。ジェーンは?」


「オレも良いぜ!」


正直、この日のぼくの選択を恨む気持ちと、褒める気持ちは半々くらいだ。


そのくらい、ぼくらはあのダンジョンに夢中になっている。




※ ※ ※




洞窟に着いたぼくたちを待っていたのは、依頼者の懸念通りダンジョンだった。


ただ、普通とは少し違ったダンジョンだ。


一面真っ白な部屋を駆け回るラット、入口と出口を塞ぐ二匹のゴーレム、「↓クリアできなかった挑戦者さんはここから!」という看板の下にある横穴、そして真正面にあり、誰でも目に入るような看板に書かれているのは…


「『十分以内にモンスターを全て倒さないと先に進めない部屋』?」


「あ、わたし知ってる!これは『出られない部屋』シリーズって言って、提示された条件を満たさない限り絶対に出られないし、壁を壊して出ることもできないんだって。コアが破壊されたダンジョンの中にも、色んな種類の『出られない部屋』があったらしいよ」


「へぇ、そんなんがあるのか。オレ、知らなかった。やっぱマナはすげぇな!」


「えへへ…」


照れたようにマナがはにかむ。最近、二人が仲良くしてるところを見ると、何だかそわそわするような、嬉しくなるような、今すぐ二人から離れたくなるような、不思議な気持ちになる。この気持ちって…?


「オイ、ルート。何ぼーっとしてんだよ」


「あっ、ごめん!」


ジェーンに顔を覗き込まれて、ハッと我に帰る。ダンジョン内で気を抜くなんて、冒険者としてやっちゃいけないことだ。


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ」


「そうか、良かった!」


ジェーンの快活な笑みが、ぼくを元気にさせてくれる。彼女の明るい性格が、ぼくもマナも大好きだ。


「なぁ、マナ。さっき『出られない部屋』って言ってたけど、これは『進めない部屋』ってあるぞ」


「あ、えっとね、『進めない部屋』は『出られない部屋』の派生で、危険度は低めだよ。昔は『出られない部屋』の方が多かったみたい」


「『出られない部屋』はその特性上、ひとつあるだけで危険度がはね上がるんだ。かの冒険都市の近くにある難攻不落のダンジョンにもあるらしいね」


「へー」


ジェーンが興味なさげに相づちを打つ。冒険者は知っておかないといけない基礎情報なんだけど、大丈夫かな…?


「なら、そこまで焦らなくても良いってことだね」


こうして話しているうちにも、時間はどんどん進んでいる。


「そうだね、今日の依頼は調査だから、クリアできなくても大丈夫だよ!」


「どんなモンスターがいるか調べるくらいにしようか」


「よっしゃあ!やるぜ!」




※ ※ ※




そして、現在、


「だーっ!もう!うぜぇええ!!!」


苛立ちを抑えきれず、壁を思い切り殴ったジェーンが叫ぶ。


ぼくも叫びたかったが、もうそんな体力もなくなっていた。


神官として未熟で、攻撃手段もないぼくはラットたちを追い掛けて捕まえようとするも、毎回あとちょっとのところで息が切れてしまう。そして、少し休憩しようと立ち止まったところを、ドレインマウスにさらに体力を奪われるのだ。


そしてもう、残り時間は一分になっていた。


「マナ!魔法でドカーン!ってできねぇか?!」


「無理だよぉ、そんなの!すばしっこいから狙いは定まらないし!仮に広範囲の魔法が使えたとしても、この部屋狭いからわたしたちにも当たっちゃうよ!」


マナが半泣きで答える。いくら勉強家のマナといっても、流石にこの状況を何とかするのは無理があるようだ。


そうこうしているうち…


ブーッ!ブーッ!ブーッ!


サイレンと共に、指示が書かれていた看板に「ざんねーんw時間切れでーす(笑)」という文字が浮かぶ。


そこまでは良かった。いや、良くはないけど。でも、みんなヘトヘトだったし、早く報告を済ませて、宿に帰って寝たいという思いの方が強かった。


それが粉々にぶち壊されたのは、帰り道であろう横穴を通っているときに、聞こえた声。


『ねぇねぇ、どうだった?楽しかった?あたしのダンジョン!にしても、たかがラットに負けるとか雑魚すぎー!あはは!』


心底楽しそうに、愉快そうに笑う少女の声。不思議と不快感はなかったけれど、内容が内容だったので。


血気盛んな若者であるぼくたちは、


「なぁ、みんな」


「おう」


「分かってるよ」


「「「絶対にこのダンジョンクリアしてやる!!!!」」」

ルート

神官。癒しの力に長けており、怪我の治療はもはや新人レベルではない

幼い頃、スタンピードでモンスターに殺され掛けたところをAランク冒険者パーティーに救われた。以来、その人たちは憧れであり目標

百合オタの素質がある


マナ

魔法使い。火、風、光の魔法を主に使う。勤勉な努力家。魔法だけでなく、ダンジョンについても勉強している

冒険者になったのは食べ盛りの弟妹のために、少しでも生活費を稼ぐため。今はとても言えないが、お金に余裕ができたら、将来は魔法やダンジョンの研究者になりたいと思っている


ジェーン

拳闘士。身体を動かすのが好き。知識はないが、勘が凄まじく、このまま磨き上げればAランク冒険者になれるほどのセンスの持ち主

冒険者になったのは何となく。強いて言うなら、自分の格闘センスを活かせるからと、かつて神術や魔法がなくてナメられたことがあり、そんなムカつくやつらを見返すため

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