煽り厨ダンジョン
「さて、何から手を付けるか」
「何をするにもマスターの自由です」
100%の自由は逆に困るんだよな…
うーむ、…あ、そうだ。
「人は、小さくてすばしっこい物がうろちょろしてるとめっちゃイライラすると言う」
「一理ありますね」
「ので、『制限時間以内に全ての魔物を倒し切らないと出られない部屋』を作ろうと思う」
「発想に未練がありませんか?」
「出られない部屋はエロに限らないからセーフ」
二人入れて『どちらかが死なないと出られない部屋』みたいなのもあるからセーフだ。セーフったらセーフだい。
「ですが、部屋の仕組みに大抵のポイントを割くことになりますので、あまり強いモンスターは配置できませんよ?」
「逃げ回るだけだから攻撃力は要らない。代わりに数ができるだけほしい…というわけで、めぼしいのある?できれば逃げ回ってる間、『へいへーい!そんなへなちょこ攻撃じゃ当たんねーぜ!!』とか煽ってくれるやつ」
「そう言うことでしたら…そうですね、マウス系や虫系でしょうか」
「あー、虫は不快指数高いな。不快と煽りは"違う"からマウスにしとくわ」
「それと、言語を解するほどの知能を持つ者はポイントも高くなりますので、序盤には厳しいかと」
「んじゃ、ポイントが貯まったら変異したみたいな感じで変えるか」
「それがよろしいでしょうね」
カタログからマウスを10匹、ドレインマウスを一匹購入する。マウスは普通の小さいネズミ。ドレインマウスは噛み付いた相手の体力を吸い取るネズミだ。まぁ、ドレインマウス自体弱く、吸い取る量も微々たる物で嫌がらせ程度にしかならない。だから、ポイントも安かった。そして、その嫌がらせが俺のダンジョンでは重要になる。
「ゆくゆくは扉の開閉を自動にしたいが…流石に今はポイント的に無理があるな」
「それでしたら…こちらがお勧めですよ」
そう言ってカタログを操作し、指差した先には『ゴーレム』と書かれていた。
「???」
「ゴーレムを扉の前に立たせ、もしお題をクリアすれば退くように命じれば良いのです。この役目は攻撃力が必要ありませんので、防御に全振りすれば、さほどポイントも掛かりませんよ」
「あー、なるほど。天才か??」
「とある先人が思い付いたライフハックです。ダンジョンに関する助言はお任せください」
頼もしいぜ。
「さて、最後の仕上げが肝心だ」
「と、言うと?」
「出口に『こんなんもクリアできなかったの~?ま、逃げても良いよ!wどうしても無理なら(笑)』と書いた看板を設置する」
こうすれば、「絶対にクリアしてやるから首洗って待ってろこの(自主規制)!」となり、客足が途絶えることはないだろう。何よりクソウザくて煽り厨ダンジョンのテーマにも合っている。
「流石です、マスター。とても人間が思い付く発想ではありませんね」
「むしろ、煽りは人間の特権じゃね?愚かだし」
モンスターへの命令やら配置やら、ダンジョンの景観やらを設定しつつ、軽口を叩き合う。
「はは、ポイントがすっからかんだな」
「大体最初はみなさんそうなりますよ。仕組みにポイントの大部分を費やすのは少数派ですが」
マ、すぐにポイント貯めて、もっと腹立つ仕掛け増やしてやるさ。
「その意気です、マスター」
「そういえば、出られない部屋ってやったは良いものの、これ普通に壊されるんじゃない?」
「いえ、問題ありません。ダンジョンの壁は基本的に壊れても修復されるようになっています。まぁ、カタログから選ぶのではなく、ダンジョンマスター個人の能力で作った場合はその限りではありませんが…」
「へー。修復を上回る速度で破壊されたら?」
「そのレベルの冒険者は、この辺りにはおりません。何より、いつぞやの他のダンジョンマスターが冒険者としてかなりの地位を確立し、『出られない部屋は絶対に破壊できない』と広めていましたから、わざわざ破壊しようと試みる者もいないと思われます。子供でも知っている常識です」
「子供にも広まってんだ出られない部屋…」
「こちらではダンジョン情報を知らないのは、民間人にとっても死活問題ですので」