もち米サンシャイン
頭がハジけるようなMVを見つけて久方ぶりの熱狂を感じた新春。狂った動画の影響なのか、初夢ではないにせよ『巨大な餅に身体が挟み込まれる』という夢を見た夜もあり、フワフワした餅に包まれ意外と心地よかったと目覚めてから振り返る。何となく縁起がいいのだろうと考えることにして少し遅めとはなったが近場の神社に初詣に出かけることにした。
「うわ」
近場と侮ってはいたが、由緒ある立派な神社だったらしく思いのほか人混みが生じているのを見て思わず出てしまった声。そんな自分の目の前を恋人繋ぎした若い男女が横切る。他にもそういう様子の人が多いことに若干の違和感を覚えていたが、その疑問はすぐに氷解する。
『縁結び』、『伊邪那岐命』、『伊邪那美命』
分かりやすい説明書きの看板が立ててある場所で、あまりそういった縁の無い男が一人で願掛けに来てしまったらどういう目で見られるのかを想像してしまう。そんな話はこのご時世だからあまり気にしなくても良いかも知れないが、流石にラブラブカップルの満面の笑みばかり見ていると『場違い感』を覚えずにはいられない。拝殿の列に並びなるべく心を無にして「ここに来たのは家内安全のため」と自分に言い聞かせていたところ、不意に脳内であの年明け早々に熱狂させてくれた狂ったテンションの曲が臨場感たっぷり鳴り始めてしまう。
俺たちは モスキート たわいもなく血を吸いながら 羽目を外して 潰される
それが運命 それが運命
俺たちは モスキート ためらわずに血を吸いながら 腹が膨らんで 潰される
それも運命 それも運命
人生の悲哀のようなものを暗示させる歌詞はこの瞬間、切実に、どこか狂わされている運命を讃えるように嘆くように響いてくる。巡ってくる順番を待ちながら、とち狂ったドラムに合わせて展開してゆく蚊になりきった某有名俳優の乱舞が最初に与えたのとは違う印象を帯びていることに気付き、いつしか涙腺を緩ませている。
<ああ、そうか。俺たちは蚊のようにいつも「迂闊」なんだな。そんなに都合のいいことなんかあるわけないのに、目の前に手が伸びていれば吸いに行ってしまう。近場だったし>
曲のその解釈が完全に『正統』なものであるとは言い切れないが、一つ前の老夫婦がしっかりお参りを済ませ自分の番が回ってきた時には最早余計な抵抗を辞め、素直に『縁結び』を祈らせてもらっていた。
<これも今度の『飲み』の話のネタになるだろうから、よしとしておこう>
個人的にはその日の事はそんな「ちょっと面白い話」でまとめようと思い掛けていた数週間後の飲みの席。若干窮屈さを覚える居酒屋で気心の知れた友人と盃を交わしていたところ、店員さんに二杯目を注文するタイミングで「すみません、混雑しているのであちらの方達と相席をお願いできますか?」と頼まれ、指し示す方向にいたのが同じくらいの世代の人に見える二人の女性だったことに驚く。
「あ、いいっすよ」
店の常連の友人は場所柄こういう展開に慣れていたらしく、相手方の様子を見てもどうやら戸惑っているのは自分だけのような感じとみた。そのあと何気ない感じで一緒に飲んでいた時に気付いたのは、二人の女性は両方異様に肌が『白い』ということ。そしてしっかり手入れが行き届いている事を感じさせる、『もち肌』。
白、もち、餅…
あの素っ頓狂な夢はこれを暗示していたのだろうか。などと考えつつ、話のネタにするつもりだった初詣の一件については触れずに、『モスキート』という曲のMVをその場で見せたらどんな反応が返ってくるのか考えている自分がいた。