第9話 想定外の累積
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「何よこれ」
いつも通り庭での雑用をこなしているある日、屋敷裏の方から声が聞こえてきた。メアリーと一緒に声のする方へ向かうとフレアが佇んでいた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「これ……」
フレアが花壇を指差す。そこには昨日まで夏の花が咲いていたはずが、今は全て枯れている。すぐ横の秋の花壇の花も萎れているように見える。
「夏と秋の花が……。私は旦那様へ報告に行くのであなたはお嬢様から話を聞いてください」
「わかりました」
メアリーがクライムの元へ報告に行くのを見送り、私はフレアに話しかける。
「お嬢様、こうなった原因に心当たりはありますか?」
「……多分結界に不具合があるんだと思う」
「不具合、ですか?」
「ええ、四季の結界は月夜の結界に捩じ込むように効果を入れた結界だからどこかで無理が出たと考えるのが妥当……」
そこまでいうとフレアはいきなり冬の庭へ走り出す。枯れた庭の植物を観察しているとフレアが戻ってきた。かと思うと結界の外へ走り去ってしまった。しばらくしても帰ってくる様子がないので屋敷へ戻る。冬の庭を通りかかった際、ふと月花樹の方へ目を向けると、数日前、青々と茂っていた三本の月花樹の苗のうち、二本の葉が枯れていた。
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「結界の一時解除ですか?」
「正確には四季の機能のみ一時的に止める」
結界の不具合発見から翌日、結界を解除する、と屋敷の使用人が一堂に会するなか、クライムが言い放った。私の疑問に対しクライムが四季の機能のみだと修正する。
「適正環境へ調整する機能に不具合が見つかった。このままでは庭は全滅してしまう。それならば一時的に解除し、冬の庭だけでも守るのが最適解だろう」
「それではその他の庭は放棄すると」
「その通りだ」
使用人たちに動揺が走る。カータレット家の四季の庭はかなり有名のものらしく、それを放棄するのは異例のことだそう。
「幸いしばらく来客の予定はない、四季の結界が回復すれば花々もすぐ咲き誇る。一時的なものだ」
それだけいうとクライムは私たちに解散を告げた。一部の使用人は結界回復後、仕入れる花々の種の目録を作らなければと慌ただしいが、他の使用人は一時的なものというクライムの言葉を聞いて安心したのかすぐに通常の業務へ戻っていった。
私は、いつも通り花壇の手入れへ向かう。冬の花壇は、四季の結界の不具合でダメージを受けているものの、すぐに機能停止したおかげか、他の花壇に比べ、比較的状態が良かった。枯れてしまった花を取り除き、代わりに新しい種を植える。他の花壇は使えないので、手入れの必要があるのは冬の花壇のみだ。ほんの二時間態度で終わらせた私は、手持ち無沙汰になり、屋敷内の書物庫へ行くことにした。
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屋敷の書物庫には、人間界、吸血鬼界に関わらず、童話、歴史書、小説、学術書と幅広いジャンルの本が蔵書されている。私が普段読んだいる本は、ここから借りてきたものだ。私が主に読んでいるものは吸血鬼界の歴史書と童話、吸血鬼について知識の足らない私は、これらを読むことで知識を補完している。
今読んでいるのは、吸血鬼の日光浴という童話だ。《《太陽の下を歩ける吸血鬼》》の少女が、人間の子供たちと友達になるが、最後には吸血鬼とバレて教会に追われ、二度と会えなくなってしまうという話。
どう言った教訓が含まれているのかいまいち検討がつかないが、私にとって大事なのは《《太陽の下を歩ける吸血鬼》》という部分だ。これまでもフレアが結界の外へ昼間に出ていくのは見てきた。クライムへ質問しても「フレアは大丈夫なんだ」と適当にはぐらかされていた。せっかくの機会なので、私は太陽への完全な適性について調べてみることにした。
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何時間か経過したが、分かったことは少なかった。まず一つ目は、真祖の吸血鬼という存在。二つの童話の中で登場し、曰く、すべての生物を吸血鬼に変える唯一の存在だと。曰く、選ばれし生者が不死の血を取り込むことで生まれたと。そして二つの童話で一致して書かれていたのが太陽の下を歩いていたということだった。
そして二つ目はデイウォーカーという吸血鬼の特異体質の出現記録。過去約五千年の記録があり、その中でも十人に満たなかったとのこと。それ以外の記載は黒塗りにされていたが、名前からしておそらく太陽への大勢のことを指しているのだと思われる。
フレアの体質について調べごとを終えた私は、本を本棚へ戻す。その途中、気になる本を見つける。『月花樹観察記録』と書かれた本は、他のものとは違い装飾が少なくまるでノートのような印象を受ける。まだ時間があるので読んでみると、月花樹の生態から育て方、軽いスケッチまで乗っていた。本の著者は空欄、そして持ち出し記録にフレアの名前が載っていた。そういえば今まで借りた本の持ち出し記録なんてつけてなかったなと思いながらもクライムからは勝手に持っていって構わないと言われてることを思い出し、自分の失態については目を逸らすことのした。
私はその『月花樹観察記録』を借りることにし、書物庫を後にした。
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屋敷の結界の修復に入ってから五日、今までも、昼間はろくに顔を合わせることがなかったフレアだが、最近は朝の挨拶すら、部屋にいないことがザラだ。一度早朝に窓の外にフレアの姿を見たことがあるので、月花樹の元へ行っているということはわかっている。流石に夜は、血を吸われるので顔を合わせるのだが、最近は吸い方が少し乱暴だ。一度、貧血寸前まで吸われたときは、立つことすら辛く、そのままフレアのベットで寝てしまった。流石にほとんど病人状態の私を追い出すほどフレアはわがままではなかったが、私が起きると、文句を言いながら私を部屋から追い出した。非常に理不尽だ。早く関係を改善しなければ。
そう思いながらも日を追うごとに接触する機会がなくなっていく環境で、有効な手など思い浮かぶことはなく、日々を過ごしていると、想定外の事態が起こる。カータレット領に嵐が訪れたのだ。
私は知っていた。それは、月花樹の苗にとって最大の天敵であると。
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