第17話 ささやかで大きな願いを込めて
息が苦しい、顔が熱い。まるで何かに取り憑かれたように起き上がれない。目を開けても光が入ってくることはない。
私はまたかと思って顔に手をやる。そこに《《いる》》何かを掴むとベットの脇へどかす。再び乗られないうちに一気に起き上がるとその物体へと話しかけた。
「毎日それで起こしてくるのやめてもらえますか?」
「……」
「それで自分は寝ないでください」
役目は果たしたと言わんばかりに枕の横ですやすやと眠るうさぎを睨む私、私はそんなことしなくても起きられると言うのに。
うさぎを飼ってから数日。このうさぎは毎朝私の顔に乗って私を起こすようになっていた。いや理由はわかっている。いい加減私に名前を決めろと催促してるのだろう。
「……今日中には決めるからもう乗らないでくれる?」
そういうとうさぎはベットから降り自分の寝床へ移動した。私にとっての最重要課題がレシピ研究から名前決めに変わった。
**
「と言ってもどんな名前がいいのででしょうか」
「安直にうさぎから取ればいいのでは?」
「初日にそれやったらキック喰らいました……」
腐っても魔物といったところか、そのキックはしばらくうずくまるくらいには強かった。褒めてるので背後に立たないでいただきたい。さっきまで日向で寝ていたでしょうに。
「では見た目の特徴から撮るのはどうでしょう?」
「見た目というと宝石でしょうか?」
「ではルビーかガーネットでしょうか?」
振り向いてうさぎの様子を確認するも、うさぎはこちらを睨んでいた。
「ダメみたいですね」
「何か意味が込持ってないといけないのでしょうか?」
「そんな人間みたいな……」
「魔物の知性は動物よりも上ですよ」
意味のこもった名前をつけようにもどんな意味をつければいいのだろう?この屋敷でぬくぬく生活しているかぎり、もはや将来安泰だというのに。
「ではあなたの願いを込めてみては?」
「私のですか?」
「はい、何か叶えてほしいことにちなんだ名前をつけたら叶えてくれるかもしれませんよ?」
私の願い……私の中の『何か』が熱くなるのを感じる。しかしその熱の意味を読み取ることが私にはできない。
「そうですね、その方針で考えてみます」
そういって私は身支度を始めた。
**
「なぜついてくるのですか?」
「……」
「喋れとは言いませんから鳴くくらいしてくださいよ」
「キュ」
なぜか仕事についてきたうさぎと共にフレアの部屋へ行く。
「失礼します」
「キュウ」
「……何でうさぎまでいるのよ」
「なんかついてきました」
フレアからもツッコミが入るが特にそれ以上気にする様子はない。部屋に入った私は紅茶を淹れるためティーセットの元へ、うさぎは近くの机の上へ登るとすやすやと眠り始めた。
「眠るなら帰りなさいよ……」
「多分私の監視に来たんだと思います」
「何の監視よ」
「私がちゃんと名前を考えているかのです」
「まだ決まってなかったのね」
紅茶を淹れ終わった私が昨日焼いてクッキーと一緒に紅茶をフレアへ出す。クッキーを一口食べたフレアはすぐに紅茶を飲む。
「紅茶が進むクッキーね」
「本当ですか?」
「ええ、甘すぎて砂糖なしの紅茶がちょうどいいわ」
上げて下げられるのはちょっと傷つく。そんな私の様子を見てフレアが「紅茶は美味しいわよ」とフォローを入れる。それを聞いた私は少し持ち直し、今日も裁縫の練習を始める。
「あれ?ボタンどこに行っちゃったんだろう......」
「キュ」
「あ、ありがとうございます」
私がボタンを探していくとうさぎが見つけてきてくれた。私にボタンを渡したうさぎはまた机の上戻っていった。
「栞はどこに置いたのだっけ?」
「キュ」
「あら、ありがとう。結構使えるわねあなた」
本を読んでいたフレアはしおりを探すとうさぎがすぐに見つけてきた。その後も何か必要なものを探し始めると、うさぎはすぐに見つけてきた。
「このうさぎにレシピを探してもらったらいいんじゃないの?」
「流石にないものを探すのは無理じゃないですか?」
「……」
うさぎは何も反応を示さなかった。
**
「結局名前はどうするのよ?」
「どうしましょうかね」
夕方になっても私は名前が思い浮かんでいなかった。とはいえ流石にそろそろ決着をつけなければならない。
「それにそてもこの子もの探しが上手ですね」
「そうね、それがどうしたの?」
「何か物探しにまつわる逸話とかありませんか?」
そう聞かれたフレアは少し悩むと思い当たるものがあったようで答えた。
「物探しの精霊ルーレアのお伽話があった気がするわ」
「物探しの精霊ですか?」
「ええ、確か精霊が物をなくして困っている人の元に現れてどんな物でも見つけてくるといったものよ。でも最後には愛を見つけることができず、人間が自分の力で愛をみつけた姿を見て静かに去っていったわ」
「なるほど……」
それを聞いた私はうさぎへ喋りかける。
「それじゃああなたの名前はルナ、形のあるものだけでいいから私の元へ運んできてくれる?」
「そんな願いでいいの?」
「はい、一番知りたい『何か』は自分で探すので」
だからそれに集中するために私を支えてほしい。そんなささやかで大きな願いが私がカーバンクルに込めた願いだった。
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