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吸血公女に拾われた  作者: bea_shigureni
第2章 思い出のスコーン
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第15話 カーバンクル

「とりあえずこんなものですかね」


 ある晴れた日、フレアは月花樹のもとへ、メアリーは街へ買い出しに行っているので今日は私一人だ。と言うわけで日頃のお礼も兼ねてメアリーの代わりに冬の庭の手入れをしている。


「空白だった場所も埋まってきていい感じですね」


 いまだに冬の庭を除いた4つの庭は、芝生以外何も植えられていないが、冬の庭だけは復旧がほとんど終わっていた。クライム曰く四季の結界の修復は冬の間に終わるとのことなので、冬の庭はこのまま回復を遂げるだろう。


「他の庭も早く復旧するといいのですが」


 実際すでに植える予定の種は仕入れているので、あとは四季の結界の修復を待つのみである。


「それまでにスコーンを完成させないと」


 庭の手入れが本格化した後までメアリーに頼るわけにはいかない。少なくとも最低限自分一人でできるくらいには知識と技術を身につけなければいけない。差し当たってまずはフレアに美味しいと言わせるところからだ。

 そんなことを考えながら冬の庭の様子を観察していると少し遠くの方からカサカサと葉の擦れるような音がした。


「……?お嬢様?帰られたのですか?」


 庭からの帰宅=フレアと言う本人が聞いたら起こりそうな、でも的外れでもないことを考えながら様子を見にいく。物音が聞こえたのは夏の庭と秋の庭の間、いつもフレアが出入りしているところだ。位置からしてもフレアである可能性は高いだろう。


「……誰もいない?」


 しかしそんな私の考えを裏切るようにそこには誰もいなかった。風によって葉擦れが起こったことも考えたが、四季の結界が機能してない今、この結界内は無風なのでそれはない。よってこの結界の中で葉が擦れるのは、誰かが通った時以外あり得ない。


「誰かいるのですか?」


 そう問いかけるも誰の声も聞こえない。その代わりと言わんばかりに背後からまたカサカサと音がした。


「ッ!誰ですか!?」


 振り返るも、どこには誰もいない。いや、そこには何かがいた。少し背の高い茂みの中で、ガサゴソと動く何かがいたのだ。用心して、少しづつ近づく。


「……うさぎ?」


 そこには、頭に宝石のようなものがついたウサギのような生命体がいた。


 **


「それで部屋まで連れて帰ったきたと」

「はい、見た感じ無害そうでしたし」

「……はぁ、マシロ、ほんとにあなたはこちらの常識を知らないのですね」


 呆れたようにため息を吐いてそういったのは使用人部屋でルームメイトのメアリーだった。メイドになったばかりの頃はルームメイトはおらず、一人部屋だったが、メアリーが私の教育を受け持ってから、クライムがメアリーの部屋割りを変えたのだ。私もある程度知った中であるメアリーがルームメイトなのは心強い。ちなみに私の食客時代の部屋は、ここ数週間行っていないがまだ私が使っていいことになっている。


「でもうさぎですよ?」

「うさぎでも魔物です。まあカーバンクルなので無害なのは間違いありませんが」

「この子、カーバンクルっていうのですか」


 うさぎ改めカーバンクルは、白い体毛に赤い目、長い耳と基本的にうさぎの姿をしている。大きな違いは頭に大きな赤い宝石のようなものがあることだろうか。


「カーバンクルとはうさぎの魔物です。白いカーバンクルは雪の降る地域でよく見られ、額の魔石には火の魔力を溜め込みます」

「魔石ですか?」

「はい、魔石です。魔石は魔力を使える者が魔力切れを起こした時、代わりの魔力として使ったり、魔道具に加工したりといった使い方ができます。特にカーバンクルの火の魔石は魔力の純度が高く、加工せずともカイロ並みの熱を発します」

「この子そんな魔力を持っているのですか?」

「基本逃げ回って生活する魔物ですからね、体温調節くらいにしか使われないので魔力が有り余るのです。しかも、冬が終わると火の魔石が必要なくなったカーバンクルは夏に向けて氷の魔石に生え変わるのです。寒い地域に住んでいるのでそちらはそれほど魔力を溜め込みませんが、生え替わりで落ちた火の魔石は非常に高く売れます」


 メアリーの話を聞き、胸に抱いたカーバンクルへ目をやる。先ほど外で見かけた活発さとは打って変わって、今にも眠ってしまいそうなこのカーバンクルは自分が今にも身包み剥がされて売られてしまってもおかしくないということに気づいているのだろうか……やっぱりただのうさぎにしか見えない。


「一時期は街の者や、冒険者とか名乗る不届きものが魔石を探すため屋敷周辺の森へ踏み込んで、それに乗じた他勢力の刺客などを警戒するために警備を増やしたりなどもありました。今は旦那様の許可なしに森へ入ることは禁じられ、落ち着きを取り戻しましたが」


 あの時は大変だったな、と愚痴をこぼすメアリーはカーバンクルに恨めしげな視線を送る。そうとは知らずカーバンクルは私の膝の上ですやすやと眠っていた。警戒心のけの字もないその姿に、やっぱりうさぎでいいや、と思った。


 

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