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吸血公女に拾われた  作者: bea_shigureni
第2章 思い出のスコーン
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第13話 刺激的な治療

「……基礎はできてるけどまだまだ下手ね、ここずれてるわよ」

「はい、ご指摘ありがとうございます」

「……ふん」


 とある日の昼下がり、私はフレアの部屋で裁縫の練習をしていた。

 嵐の夜から二ヶ月、三月の半ば。あの日を機に私の生活は一変した。

 まず1つは、私の仕事が屋敷の雑用からフレアの身の回りの世話になったことだ。と言っても今のところやってるのは雑用がほとんど。というのも、私はメイドとしての技量が低く、さらにフレアが基本的にハイスペックということもあり、ほとんどのことは私がやるよりもフレアがやる方が時間も出来も圧倒的にいいのだ。

 もう1つは私のメイド修行。先程言った通り、私にはメイドとして必要な技術が足りない。そのためこの二ヶ月、雑用の合間の空いた時間にフレアや先輩メイドのメアリーから修行をつけてもらっていた。基本的にはフレアの部屋にいるのでフレア部屋で自主練習をしているのだが、フレアはそんな私を遠目から見ていると思うと、何かミスをするたびに親切に教えてくれる。それにそんなおせっかいでツンデレなフレアのおかげもあって私は腕をメキメキと伸ばしていた。


「ほら、またここよってるわよ。それと針で手を――」

「痛たっ!」

「ほら、言わんこっちゃない」


 余計なことを考えながら作業をしていたせいで、また失敗してしまった。フレアは呆れたように呟いた後、じっと私の指を見る。私の腕を掴んだかと思うと、パクッと私の指を口に含んでしまった。


「ッ!?お嬢様、何を!?」

「ははほひほふほ、ほっほひっほひへははい」

「何言っているのかわかりません!」


 そう指摘されたフレアは、しばらく指をなぶった後。口から話すと改めて私に言う。


「だからただの治療よ。吸血鬼の体液には強い治癒効果があるって前読ませた本に書いてあったでしょ?私もあなたの血を舐められて一石二鳥よ」


 そう言われ、自分の指を見てみると、先程針を刺したところから、出血が止まっていた。そういえば、吸血鬼の常識を勉強しろと言われて読まされた本に書かれていた気がする。


「あの……治療していただいたのはありがたいのですが」

「何よ?文句があるの?」

「いえ、そう言うわけではないのですが……その…………指に唾液が」

「ッ!?」


 私の指摘にフレアが急に顔を赤くする。私の指先は今なおフレアの唾液がてらてらと光を反射しており、私が毎晩血を吸われているせいもあるのか、なんというかいやら――


「そんなのさっさと拭きなさいよ!今日はもう帰っていいわ!」


 私の思考を遮ったフレアが私に向かってハンカチを投げる。それをとり損ね、顔面でキャッチし、視界を塞がれた私を、フレアは部屋の外へ追いやる。

 まだまだメイド道は先が長い……


 **


 ふと自由時間を得た私は、書物庫へ足を運んでいた。理由は先程話に出た吸血鬼の常識を学ぶために読まされた本を読み返すためである。その本は歴史書で、吸血鬼なら誰でも知っている過去の出来事がわかりやすく書かれている。一度読んだ本ということもあり、すぐにその本を見つけると、目当てのページを開く。それはまだ吸血鬼と人間の暮らす領域が分かれていなかった頃の話だった。

 千年以上前、人間の街では吸血鬼の大量発生が起こっていたそうだ。というのも、当時、権威を振るっていた真祖の吸血鬼が、無秩序に人間を吸血鬼に変えていったことが原因だったからだそう。その事態に、人間は吸血鬼狩りを始める。そんな中、ある人間の科学者が、吸血鬼の体液に強い治癒効果があることを派遣する。その発見が、吸血鬼の血を浴びれば一年寿命が伸びるやら、吸血鬼の心臓には永遠の命をもたらす効果があるやらと尾鰭がつき広まっていく。すると、人間の貴族が吸血鬼に懸賞金をつけ始め、初めは自分の生活圏を守るだけだったはずの吸血鬼狩りも、懸賞金目当ての惨殺にまで発展していったそうだ。

 最終的には、科学者自らによる噂と事実の齟齬を発表したこと、人間と吸血鬼が互いに領土を侵害しないことを誓ったこと、そして真祖の吸血鬼を処刑し、その血を根絶やしにしたことにより、事態は幕を閉じたそう。それなら私が買われたことはその誓いに反さないのかと思ったのだが、吸血鬼は人間から栄養を取らないと死んでしまうため、人間もある程度は見て見ぬ振りをしているようだ。

 『真祖の吸血鬼』、最初に目を通した時にも目についたワード。むしろそのせいで他の部分にはまともに目が通せてなかった。吸血鬼を増やせて太陽の下を歩けると思われる存在。


(歴史上では真祖の吸血鬼は殺されている)


 歴史書では真祖の吸血鬼の一族は吸血鬼の汚点とも書かれていた。さらには子をなす以外で吸血鬼を増やすことを禁じられ、今ではその方法は禁忌として闇に葬り去られているとも。


(もしフレアが真祖の吸血鬼なら)


 彼女も処刑されてしまうのか。頭によぎった考えは、あまりにも堂々と屋敷を抜け出すフレアの行動を思い出した私によりすぐに否定された。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


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