閑話 贈り者<クライム視点>
なろうで投稿している作品はカクヨムの書式に合わせているためルビなどの設定が反映されていない可能性があります。気になる方はカクヨムでの閲覧をお勧めします。
4話で鑑賞会からマシロが退出した後の話です。
少し短めです。
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「いやはや、クレア嬢はわんぱくですな」
「はは……お恥ずかしい限りで……」
「いやいやいや、元気が良くて羨ましいほどです。うちのは大人しすぎる」
クレアの退出した室内はしばしの沈黙に包まれていたが、バーミリオンの発言により再び時間が動き出した。バーミリオン子爵令嬢は将来的なフレアの専属メイドの候補の一人である。
(私としてはこの親子は野心深すぎるのだがな)
バーミリオン家の先代は平民から魔法の腕一本で子爵までのし上がった傑物で、国内でもちょっとした英雄扱いを受けている。しかし、その息子の現当主ニクラーは自分がその血族ということに助長し、野心のままにその勢力を広げようとしている。
(まあ令嬢の方はどちらかといえば策略家だがな)
とはいえ他に年齢のちょうどいい者がいないのも事実。そう考えていたのだが――
(ちょうどいいかもしれないな)
「クライム、何ニヤニヤしている」
「おっと。すみません、先生」
いいことを思いついたとほくそ笑む私を先生が小声で注意する。いけない、顔に出てしまった。
「……あの稀血だが、フレアに貸し出すこととする。そして十年後、彼女のデビュタントで調理をする」
「ふむ、まあ致し方なしですな。クライムの普段の行いが悪い」
「先生、あまりからかわないでください」
「事実ではないか?」
私の決定にすかさず先生が軽口を挟む。私も先生もそれなりに高位の貴族だ。誰にも口を挟ませないとばかり繰り広げられる私と先生のやりとりに口を挟める者は――
「しかしそれだけで人間を十年も屋敷に住まわせるのはどうなどですかな?人間は非常に弱い。いくら四季の結界があるとはいえそれなりに維持費用はかかるはずでは?」
一人いた。やはりというかバーミリオン子爵だ。これを機に何かしらの功績をあげ取り入ろうとでもしているのだろうか?
「ふむ、ではどうするお考えで?」
「簡単なことです。我が家の名を使い、稀血の少女を集めればいい。英雄の血族の命令です。一年以内には最高の稀血が取り寄せれるでしょう」
「最高の稀血ですか」
先生の質問に自信満々に答えるバーミリオン。支持を集めてるのはお前じゃないだろうが。何の確証があってそんな自信が出てくる。
だがここまでは予想通り、本来の目的は他の解決策などではない。
「いや、それには及ばない。要は彼女の維持費が出せればいいのだろう?」
「おや?クライム様、何かお考えがおありで?」
「まあな、今抱える問題も同時に解決できるいい策がある」
「おお!それは是非ともお聞かせ願いたいですな」
私の発言を聞いたバーミリオンが食い下がってくる。そんな未練たらしいバーミリオンに私はその策を言い放つ。
「彼女をフレアの専属メイドとする」
**
「また突飛なことをするな、クライム」
「すみません先生、迷惑をおかけしました」
鑑賞会改め、稀血の少女の扱いに関する会議を終えた私と先生は、私の執務室で話をしていた。
「ふん、あれぐらいなんでもないわ。あのバーミリオンにはうんざりだったしな。お前に取り入るため、我が家にまで押しかけてきたのだからな」
「それはなんと謝ったらいいか――」
「そんなことよりクライム」
知らないところでまで迷惑をかけていたことについて詫びようとする私を先生が遮る。
「専属メイドの件は本気か?」
「ええ、本気ですよ」
「間違えるなと言ったよな?」
「……選ぶのはフレアです」
「……それもそうか」
私の答えにそう返す先生の顔は、その言葉とは裏腹に納得のいかない表情だった。それでも先生は私の選択を尊重してくれたようだ。
「忘れたわけではなかろう。私もお前の選択にとやかく言える立場ではない。だがクライムよ…………もしフレア嬢がお前と同じ選択をした時、私はお前の味方をしてやれないぞ?」
「敵にならないだけマシです」
「……ふん、なら良い」
「おや?もうお帰りですか?」
「ああ、邪魔したな。お前は早くパーティー会場へ行ってやれ。せっかく私が説得したのに無駄になってしまうではないか」
そう忠告を残した先生は執務室を出ていく。しばらくしてからもうすっかり冷めた紅茶を飲み干すと、執務机の椅子にかけた上着を取ろうと近づく。不意に机の上の写真たてが目に入る。
「間違えるな……ですか」
会議中の先生の発言を思い出す。何を指していたのかはわかっている。どう間違えるなと言っているかも、だが……
「私はあの選択を間違えだとは思わない、結末がどうであろうとしてもだ」
――君もそう思うだろう、エアリス?
写真たての彼女は答えてくれなかった。
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